連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

チャンク化

チャンク化とはどういうふうにしているかを聞かれることが増えたので、最近友人に説明した例を書いておく。

 


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図が基本図。ここからの黒の追い詰めを考える。

 


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いきなり躓くようで申し訳ないが、便宜上白2は中止めで進める。外止めをすると、一般的にはそれだけで詰まなくなることが多い。ただ実戦では圧倒的に中止めのケースが多数なので、それを軸に考える。

黒3以下は、存在する三と四を全て打っていくとこうなるというものだ。実際に並べるともっとわかりやすいが、黒の四三に白の四がノリ勝つことができない。この図から得られる知見は、黒はミセ手ないしフクミ手を使用する必要があるか、またはそもそも詰まない可能性があるということだ。

 


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黒7とフクミ手を打つ発想はよく登場する。白は普通に受けると簡単に負けてしまうが、この手が盤上唯一の受けになる。黒の四追いはノリで受かり、別の四三も同時に受けている格好だ。

 


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調べていくとわかるが、黒7とミセ手を打つのがこの局面唯一の詰み筋。以下は全ての四と三を売っていくと勝ちになる。

基本図は強い人が見ると恐らく余裕の黒勝ちに見えることが多いと思う。しかしその直感に反して、意外と詰み筋が限定されているのだ。この図では7のミセ手に8で先手で受けられるなにかがあっただけで勝ちが消滅する。

 


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白石を一つ多くした。この場所に白石が入っている形も実戦では多い。これだけで黒勝ちが消滅する。

 


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黒7に白8が先手となる。黒の詰み筋は黒7しかないため、詰みがないことが確定する。

 

ここまでをまとめると

①基本図白2中止めのとき、四と三を全て打っていくとノリ手で不詰

②黒7フクミ手は白に絶対肪あり、不詰。

③黒7ミセ手以下追い詰め有り。

ということになる。実戦では基本図から別の石が色々足し引きされていることが多いので上記の条件と照らし合わせて検討する。実戦例を見てみよう。

 


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図は先日の東京オープンの中村戦で白が私。黒21と突きだした局面だ。

上辺だけを見ると冒頭の基本図と似た形になっている。白Dと叩けばほぼ同じだ。条件を確認しよう。

黒A白B黒C以下、黒が例のミセ手を打ったときに白が四と先手で返せる。よってこの筋は基本的に詰まない。加えて、この図は白20でこの詰み筋における黒の剣先をあらかじめ止めているので、詰み以外でも負ける可能性が大幅に減っている。私はこのとき30秒連珠だったが、以上の思考から白Dを自信を持ってノータイムで打つことができた。冒頭の検討がなければ上記の詰みの有無の探索に神経を使い、変な手を打って悪くする可能性もあっただろう。

このように、頻出型を研究しておくと実戦での判断に役立つことが非常に多い。こういうのは自由打ちの必勝定石に特にたくさんある。私が自由打ちの研究をある程度強くなってから推奨するのはこのためだ。

東京オープン① 神谷戦~ラピュタ創造を阻止できるか~

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東京オープンは競技会の形式をとっているものの、個人的には研究会の色彩が強い。普段やらない形や大会ではあまり当たらない人とも対局が組まれることがあるのが一つの魅力だ。普段私は行かないのだが、このときについては中国から連珠をしにいらっしゃる方がいるということ、その応対が私だったため参加することにした。

神谷君とは公式戦ではかなり打っているが、東京オープンで打つのは初めてかもしれない。個人的にゆるふわ参加だったので心の準備ができていなかったが、まぁそういうこともあるだろう。

花月は公式戦では専ら白4ーAが主流で、本譜の手は少なくとも現ルールにおいて良くないとされている。五珠指南書では黒5は黒良しと記されている。本譜はどのくらい黒良しなのかを検証するための対局というわけだ。白12までは、黒からは色々選択の余地があれど白としては唯一の進行というのが数年前この形を研究した際の記憶で、確か「黒勝ちやすいが白も頑張れば打てなくはない」という程度の結論を出した気がする。とはいえ実戦で打つのは初めてで、対局での感触を掴みたかった。黒からの変化としては、たとえば11で逆から止めておいてゆっくり戦うという思想も有力だ。ただ神谷君はそういうことはしないだろうなと感じていた。別の友人で「私の打つ手は全て呼珠」と言っていたことがあったが、神谷君も似たような種族だろう。徐々にポイントを稼ぐよりもいきなりグサッが多い。

棋風といえば、国内外で色々な人と打ってきたが、神谷君ほど自分のスタイルを最適化したプレイヤーは記憶にない。私の見るところでは彼の戦い方は「序盤逃げ切り or ラピュタ勝ち、駄目なら潔く、早めに撤退し全力で満局をとる」というシンプルなもので、戦型選択はそれに則ったものになっているし、どの連珠でもほぼ貫いている。ラピュタについて次図で補足。

 

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これは神谷君が黒勝ちしたある一局だが、打ちはじめの場所とは別に、ほとんど黒石しかないところが出現している。私はこれをラピュタと呼んでいる。普通連珠ではそう簡単にラピュタは出現しないのだが、彼はこれを創り上げる能力が非常に高い。正式な呼称として用いるには権利的な問題がアレでソレっぽいので別のものを考えたいが、あまりにもしっくりくる。

 

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本譜に戻ろう。黒13は安定的に右辺を支配下に置こうという手で、次にAを狙った攻撃力の高いものだ。注意しておく必要があるのは例えば黒Cは上絶対で、他にも黒Fには白Cを強いられる。上辺の横の連がジャンプ台の役割を果たしている。この跳躍からのラピュタ創造には、たとえ相手が神谷君でなくとも常に気を配る必要がある。書いていて思ったが、彼の得意な局面を選出してしまったようだ。どうも私はそういう傾向が強い。

次に黒Aが狙いならもちろん白Aも急所になる。ここで気を付けたいのは、「急所に打つか打たせるか」という判断だ。普通なら急所が分かっているならそこに自分から打ち込むのが善しとしたもので、私も最近まで特に考えず急所に打っていた。ところが最新ソフトの手を見ていると、「相手に急所に打たせる代わりに何か別の得をする」という手筋が多いこと、それが有力なことに気づいた。この場合はAがその急所だが、白には当然それ以外の選択肢も視野に入るというわけだ。

それでも最初は白Aが第一感だったが、想定される黒Bに対して死の気配を感じた。この死の気配というものに私は敏感で、論理的に読んだ結果は何かしら抜けがあって間違えることが非常に多いのだが、センサーの精度は相当高いという実感がある。

 

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局後検証したところ、前図白Aを選ぶと白は18くらいでしか変化の余地がなく、41まで唯一生き残る応対が上図のようだ。黒の攻めが切れることがないこと、白の反撃が望めないことからやはり白Aは危険らしい。

 

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というわけで「急所に打たせる」選択をした。黒17で18に三を引かれると部分的に寄りそうだが、三を白Aと先手で取れる、この17なら白18が急所で問題ないという判断だ。受け切ってからの反撃のプランも建てておきたいところだが、持ち時間20分なのでまずは受け切りを確定させるのが優先事項である。

黒21でラピュタ創造の様相を呈してきた。分かりやすい次の狙いは黒Bなので白Bが急所だが、この手に死の気配を覚えた。恐らく黒D以下右下だけで勝たれてしまうだろう。そうすると白Dのほうがよさそうだ。左辺のジャンプ台からの跳躍にも気を付けなければならないが、白が間違えなければ寄らなさそうという感触を持った。

 

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死の気配の検証。黒31まで白受け無しのようである。

 

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黒23は読んでいなかったが、ラピュタをより確かなものにしようという構想だ。放置すると黒A白D黒Eがフクミ手で受け無し。かといって単に白Aなど受けるのは圧倒的効かされで容認できない。下辺のラピュタ創造を阻止するのに23の箇所に白石が入る余地があるのが受けとして要所で、黒としてもかなり価値が高い手だ。白24ーAは下辺に効いていないし、反撃にも相当遅い手なので価値の低い手である。相手に価値の高い手を打たれた代わりに自分が価値の低い手を打たされるのは通常負ける。

とすると白の価値の高い手は何か。それが24だろうと見た。この手は黒Aに対し白Bから白Dの受けを用意しながら先手をとろうという発想だ。黒の詰み筋はこれしかないので、それを狙い撃った格好である。

 

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黒25~27の交換によって黒の攻め筋をデストラクションすることに成功し、白28は手の広い局面だ。形勢としては白勝ちになってもおかしくない流れだが、白24で最後の3分ほどを使い切って30秒になってしまったため時間がない。白28と下辺では絶対に負けないという意志表示に留めた。いまみるとせめて白Aくらいのほうが良かったか。

 

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神谷君は白28を見てドロー狙いに切り替えたようだ。このあたりの見切りのよさが最近の彼の安定感の主たるところ。勝つときは速攻。撤退も速攻。分かりやすく優れた戦略である。黒43に対し白A後Bと打つつもりで白Aを決めてしまったのが悪かったか。

 

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本譜はビビって白48まで、先手をとりにいこうとして後手を引くという冗談のような損をしてしまったので、ここまで積み上げたものが吹っ飛んでしまった。負けはしないのが救いだったが、黒51と彼得意の盤面埋め攻撃をされてしまい、以下疲労もあってドローに。コツコツ積み上げたものが一瞬で雲散霧消してしまうのは物悲しい。

珠王戦が酷かったので連珠自体が駄目なのかと心配していたが、この日の2局を見る限りではコンディションの問題のようだ。強くはなっている。世界選手権ではコンディションに気を付けたい。

珠王戦総括

結果は3勝2敗1分で同率3位、ブレークが悪く5位。

 

挑戦手合いから続くテーマである突き詰めを貫き、練習では追い詰め方面の強化を重点的に図っていった。

その結果初日では、「自分こんなに詰み読めるんだな、ひょっとして強くなった?」と感じていて、実際それは概ね間違っていないようだったが次の日に問題が。

神谷戦で簡単な詰みを見落として負けたところで既に兆候はあったのだろうが、最後の局は酷かった。自分の詰みを見落とし相手の詰みも見落とし、剣先が認識できておらず最後も相手の四追いに気づかないといいところがなかった。

最近は自分の中で手の選択肢が以前より膨大になった。突き詰めるとなるとそれらを全て多少は考える必要があるのだが、どうもそれが身体にかける負担がかなり大きいようだ。自分の考えたい内容に肉体がついていっていない。

このあたり私は重大な認識ミスをしている。技術的な最高レベルを上げれば、多少疲れていてもいけるようになるのではないかと。実際には、スペックの低いパソコン、酷使したパソコンで高性能なソフトを実行してもスムーズにいかないのと同じで、自分の身体が熱暴走を起こし電源が落ちてしまったらしい。ハンターハンターで「高度な能力を発動するには高い集中力が必要で、ノーマルコンディションでない今は発揮できない」という件が印象的で覚えているのだが、現実でもそのようだ。2年前名人戦リーグを優勝したのは徹底的に体力節約を図ったことが大きい。それだけでは駄目だというのが去年から続く模索なのだが、両立は至難。本当にやばいのを察知して最後くらい切り替えればよかったものを、この辺は昔からかなり下手でテーマにこだわりすぎてしまった。

 

世界戦はQTからの出場となる。私が出ることで小山氏もいく気になっているので悪いことばかりではない。QT通過は本当に大変だ。2年前と同じく通過だけを見て打ちたいと思う。

 

 

受けの選択肢


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久しぶりに五目並べの達人をやったときのもの。図で白番どう受けるか。黒の直近の狙いとしては黒A白B黒C以下追い詰めらしきものがある。らしきものという表現をするのは、実戦のこの時点、得に短い持ち時間において正確に追い詰めだと判断するのが難しいためだ。時間があれば読みきった上で強い手を考えたいし、練習としては読みきるのがいい。しかし実戦はそう理想通りに運ぶものではない。この追い詰めの読みきりだけに時間を割いていると他のことを考えられないので勝率が悪くなりやすい。こういうのは暫定追い詰めとして見ておくのが健康的だ。

 


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先ほど黒Aから詰みが始まると述べた。では白からそこに打てばいいではないか。自然な発想ではあるが、じゃあすぐにと打ってしまうのは危ない。例えば黒9。桂馬の網を打開しながら釘折れに組む絶好点だ。他にはAなども候補手になる。こうなると白8がそっぽを向いている印象だ。実戦で受けを考えているときは黒9を予測して白8の響きが悪いと判断するのは難しい。要練習である。

 


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先の黒9が絶好点なら、そこに白から打つのはもちろん選択肢になる。これは黒9以下や、その他猛攻によって負けなければかなり有力だ。盤面の広い上辺を支配しながら桂馬の網を構築している。下辺の受けきりに自信を持てるならこういう手を打ちたい。但し心臓に悪い。棋理的には分からないが実戦的には打ちにくいか。もし打つなら入念に読んでほしい。

 


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白8は相手の連を消しながら自分の剣先を作る自然な着想。この手で注意すべきことは二つある。ひとつは黒Aなどから斬り合いを挑まれたときにどうなるか。もうひとつは黒9と包囲作戦を挑まれたときに大丈夫かである。特に包囲作戦を挑まれるのは実戦では見落としやすい。白は明確に良くする手段がないと、じりじりとチャンスがなくなっていくため忙しい。白8は決断の一手である。

 


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白8は黒の追い詰めの二本目の三をあらかじめ止める意味合い。黒A にも備えている。黒は上下に狙いがあるので、上下をバランス良く受けようという発想だ。受けが好きな人はこういう手が目につきやすいのではないか。今度は下辺の受けが少し甘くなったと見て例えば黒9。あるいは縦の連がまだ生きていることを積極的に利用するならB やCで迂回を狙う打ち方もある。黒に上手く打たれる、あるいはこの後白が間違えるとこの白8は受けているようで実は何も受けていないということにもなりやすい種類の手だが、受けまくるのが好きならオススメだ。

 


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白8の場所は黒5と7からできる横の連と斜めの連を直接的に止めている。いままで挙げた中では下辺の受けに特化した手で、一つの形ではある。ただこの場合は縦の連が生きているので黒9がやはり強烈。受けなしレベルかもしれない。頻度は高い場所ではあるので覚えておいて損はない。

 

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白8は黒の詰みを受けながら反撃を睨んだ手。具体的には白A黒9白B。黒Cと打たれてもこの筋で持ちこたえられるし、これにビビって黒Aなら白Cがぴったり。こう書くといかにも良い手のように見えるが実際は簡単ではない。黒9と単に止める自然な手が上記のような思考回路をしていると見落としやすい手になる。これで駄目かは別として、打たれてから悩むのでは危ない。相手に自然に打たれて大丈夫かの確認は常にしたいところだ。

 

受けというと連か剣先を止めるという印象が強いかもしれないが、考えていくと案外色々ある。石数が少なく制約の大きくなりやすい序盤でこうなのだから、石数が増えればより選択肢が増していく。どれだけの手札を持っているかが勝敗を分ける要の一つだろう。

 

 

 

 

着手と視線ー思考の内と外ー

人間の打つ連珠の傾向として、直前に打った手、打たれた手の周辺に注目してしまうというものがある。これは棋力が上がっていくにつれ減っていくのだが、それでも完全には0にできない。

 


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図は私の白番。白4は自由打ちの隙を突く奇襲。白12まで、何かあれば負けるだろうとは感じながらも、そこまで簡単ではないと思っていた。ところが黒13が妙手。全然読んでいなかったので変な声が出てしまった。この手は以下AB、CDE、FGI の3通りの詰みを残した手で、当然受からない。普通ならここで投了なのだが、こういうのを全部投げているとクエストの性質上レートが減る一方なので粘りに出る。

 


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白14と右辺から受ける。この手は黒AB白C黒Dと打ったときに白Eと先手で四三を止められる。加えて黒Fを単純に受けている。最初の図の左辺からの詰みを実は全く受けていないのだが、これは見なかったことにした。というのは相手の想定される読み筋はこの2通りであり、白14がこの右辺の手なので一瞬でも視線が右辺に行くことが予想される。そこから落ち着いて読みを左辺の、それも別の詰み筋へと切り替えるのは短時間では難しいだろうという判断だ。

 


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なお、黒15では図のように四と三でノリ手を切られるだけで負けているのだが、この筋も実戦一番発見することは難しいだろう。人はノリ手を目にしたとき、通常それを解消するよりも先に「うっ」となって思考が停止してしまう。そこで淡々と解消手段を模索できるのは非常によく訓練された人間か、もしくは余裕があり冷静なときである。

 


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残り1分ほどまで長考して黒15。これはこれで負けていそうだがまだはっきりしたわけではない。粘ろう。

先述の詰み筋を受けるなら白Aだが、黒Bで終わっていそうだ。そもそもミセ手を打つときは焦点に対してだけは読んでくることが多いので、はっきり受けきりかわからない以上は打ちにくい。白16は先述の詰み筋をほとんど受けていないが、この黒15を打ってくるということはその詰みは思考の外側にあるだろう。実戦的な有力手だ。このように相手の着手からおおよその読み筋が透けることはかなり多い。

 


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結果としては黒25までで受けきりが確定したが、この手もABCD26という四追いを残しているので油断ならない。いわゆる死んだフリである。白Dから詰みだろうが、この26は万が一にも頓死しない手順を選んだ。以下は勝利。

 

視線の動きは意外と着手の内容に大きな影響を与えている。いままで意識していない場合はこの機に注目してはどうだろうか。

 

 

速度の見極め

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図は明星の古くから存在する序盤。白6ではAが定石とされている。この局面で黒にAと打たれると、縦、横、斜めで合計三つの連が発生してしまう。無論詰みを残しているため、これだけでいきなり受け無しになる。連珠は一般的に二つの連が出来た時に追い詰めが発生するため、いきなり相手に三つの連を作られると負けになりやすい。自分の手番で受けることのできる相手の連は通常一つであり、残り二つが野放しになってしまうからだ。白6をAに打つのは、局面の急所に先着しながら自らも連を補充する攻防手で、自然な着想といえる。

ところで、この局面を見た時に次のように考える人は多いのではなかろうか。

「確かに黒Aは打たれると困るが、今は白の手番なので白から先にBと強襲を仕掛ければ良い。」

 

この考え方もまた棋理に適っている。但しそれだけで局面判断を下すと低くない確率で痛い目を見る。以下の手順を追ってみよう。

 

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黒7で連を作り返されたが、まだ大丈夫。白8はもちろん先手だし、黒9に対して白10で黒の連を完全に消去した。白のほうはABCなど攻めの手段に困らない。なんだ、こんな簡単に白が勝つのか。わざわざ最初の図で受けに行く必要などなかった。そう思ってフワフワしていると次の手で現実に帰されることになる。

 

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黒11。以下ABの四追いフクミである。白石は全く下辺の受けに効いていないのでもちろん受からない。実戦では黒9となった瞬間にあっと気づき、白Aと受けに行く人が多いと思うが、それも時すでに遅し。黒C以下一手一手だ。

ここにおいて黒は、冒頭で白が採用した考え方「相手に良い手があってもこちらから先に攻めることができれば関係ない」を用いている。最初は白が速かったように見えたのに、終わってみると黒のほうが速くなっている。こういうことは連珠にはよくある。速度の善し悪しを判断するには「ひとしきり斬り合った後にどちらが主導権を握っているか」が大事になる。そんな先まで読めないという場合は、やはり冒頭で示したような攻防手でじっくりと戦うのが無難だろう。

注意すべきYixinの挙動

検討時には非常に便利なYixinだが、万能ではない。深く研究してみると、Yixinでもしばしば判断を誤ることが分かる。

 

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図はYixinのDefend機能を使った受け候補探索の評価値表示。-10000という数字はその局面に受けがないことを意味する。(非常に少ないが例外も0ではない。また別記事で) 通常-10000の評価がでるとき、-50→-120→-170→-135→-220→-250→-10000 のように、細かい上下を繰り返しながら必敗判定をするのが一般的である。ところが上図では-115からいきなり-10000になっている。こういうことは検討しているとしばしば起こる。

このような急激な数値の上昇はYixinの見落としによるものだ。それまでは楽観的に見積もっていたが、ある手を発見した瞬間に急に反省する。まるで人間のようだ。機械でも同じようなものらしい。こういったケースはどういうときに発生しやすいのか。実は明らかな前兆がある。

 

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この図はある局面でのYixinの評価値を示している。まず評価値の値がDepth5から13の間において、157と全く同じ数値。そして読み筋を見てみるとG10の一手先しか読んでいない。このとき、別の手を入力してそれが必勝だと一番最初の図のような評価値推移になる。一手先しか読んでいないのは盤上この一手というわけでは決してなく、単にYixinがそこしか読んでいないということだ。その場所以外に有力手が落ちていることはかなり多い。この動きをしたらYixinを疑ってかかるべきである。

疑ったはいいものの、具体的にそのあとどうすればいいか。強い人の場合は自分が思う最善進行を入力してYixinの評価を見るのが確実だ。仮に局面判断に自信がなかった場合、候補手を増やすという選択肢がある。Yixinの右下にある入力欄に「nbest n(数値)」と入力してエンターを押すと、Yixinの第N候補までの読み筋を見ることができる。

 

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上図は「nbest 3」と入力した例。このように表示される。候補手の場所だけを見て、改めてその場所に打たせて読ませてみるのが効率的だと思う。

他にはそもそも追い詰めや一直線の勝ちを読めていないことがあるので、追い詰め検索(VCT)や全勝ち検索(VC2)で先に調べておくと、大きな間違いは減るだろう。