連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

心の準備

月末に珠王戦がある。この大会は世界選手権の選手選考会を兼ねていて、今回は恐らく初めての決勝3枠がかかっている。世界選手権のシステムを超ざっくりいうと

 

国内予選→現地予選(QT)→決勝総当たり(AT)

 

という構成になっている。QTの通過争いは本当に熾烈で、客観的に見ればこれを通過するよりも国内予選から直接ATに行く方がだいぶ容易だろう。AT出場を目指して普段はあまり大会に来なくても参加する人も出そうだ。

こういう重要な大会になると、私は精神的におかしくなってパフォーマンスが乱高下しがちだ。そのため特に数年前からは連珠でも連珠以外においても精神面の準備を最重要視している。

 

どうしてパフォーマンスにこんなに大きな乱れが出るのか、突き詰めて考えたことがあった。私の場合は結果を受け入れる準備ができていないのだ。これには二通りのパターンがある。ひとつは自分に自信があって絶対に勝てると思っているが失敗してしまい、そこから持ち直せずズタボロになるパターン。もうひとつはそもそも自分なんてどうせダメだと現実から逃避して案の定ダメなパターンである。連珠の場合私は前者が多い。これはよくよく考えると不思議な話で、他人の棋力や練習量、この機会に向けた準備の量を事前に把握することは基本的にできないのに、どうして上手く行くと無条件に思うことができようか。失敗して大きなショックを受けるのは単なる自爆以外の何物でもない。連珠は基本的には勝者か敗者に分かれるゲームである。それだけをみると1/2の確率で負けるのに、なぜか無条件に勝ちの側にいられると思ってしまう。負けたら世界が終わるというような白黒思考をしてしまうのも、パフォーマンスが乱れやすい原因だろう。

 

あなたは今日まであなたなりに頑張ってはきたけれど、それでも相手の方が凄くて駄目なこともある。当日の体調やその他要因で駄目になることもある。努力である程度の不確定要素はなんとかできるが、全てが完全にコントロール可能ではない。たとえ本当に駄目だったとしてもそれであなたの全てが否定されることはない。やってきたことが全て無駄になるわけではない。巡り合わせが悪かったのだ。たとえ反対にうまくいっても、それはあなたが優れているとか正しいのではなく、そのときはそういう結果に終わったというだけのことだ。だからあなたは目の前の盤だけに集中し、全てが終わったその後は自分なりの最善を尽くせたかに目を向けよう。

 

上記のようなことを、それまでのことを振り返りながら自分に言い聞かせる。そうしていくと冷静な気持ちになり、珠王戦で打っている自分をイメージできるようになっていく。後はやってみるだけだ。

 

さて、今年の珠王戦はどうなるだろうか。

五目クエストお題振り返り

せっかく頻繁にお題をやっているので軽く振り返っておこうと思う。

 


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白6は大まかにABC が打たれた。個人的な印象ではBが本線かな?自分の対局から気になったものをいくつか見ていく。

 


f:id:haisarenjuthink:20190309085414j:imagekawamura-meijin 戦。私の黒番。白12までは疎星の黒有利とされる進行に、4と5の石が足された形になっている。このことにより黒A 白Bとなったときの白の斜め連があらかじめ止まっているため、黒は右辺では動きやすくなっている。白4の石は具体的な利きはないが、黒が下辺に攻めていくにあたりこの石が邪魔だ。よって黒としては上辺に攻めていくのが基本的な方針となる。黒13白14は自然で、白としては一度攻めを受け止めて下辺でカウンター狙い。

手番も空間も黒にあるため、普通に考えれば黒が良いはずなのだが具体的な手段が難しい。ぱっと目につくのは黒A 白B黒C白Dだが、これを決めてしまうと例えば黒15のような斜連が消えてしまうため味消しかなと思った。ソフトに読ませてみると先の白Dまでに対して黒Eと左辺に飛び出して優勢のようだ。短い時間で正確に判断するのは難しい。

 


f:id:haisarenjuthink:20190309091049j:image白16から22までは部分的によくある手順。できれば左辺で押しきりたかったが上手くはいかないものだ。左辺は利かしということにしておいて、黒25と相手の好点に食い付き第二ラウンド。これはリカバリープランで、最悪この場所にさえ先着すれば後はなんとかなるというのが黒15に打つときの判断だ。

以下は時計の叩きあいとなり、どさくさに紛れて黒が勝ってしまった。

 


f:id:haisarenjuthink:20190309091838j:imagehosiduki-tama戦。私の黒番。白10で手を渡された。黒に何かありそうだがまたしても具体的にどうするかわからなかった。この人はかゆいところに手が届かないような、ムズムズするような手が上手い。

 


f:id:haisarenjuthink:20190309092159j:image黒勝ちがあると見て一気に行ったが、結果としては自爆に終わってしまった。こうなるなら黒11では三を引かずにどこか白の連を止めておくのだろう。白22が好手で、上下を同時に受けている。

 


f:id:haisarenjuthink:20190309092529j:image観戦譜。黒7はいかにもそれっぽい手だが実は敗着で、白の速攻が決まる。考えてみてほしい。

 


f:id:haisarenjuthink:20190309092848j:imagehosiduki -tama 2戦目。私の白番。疎星チックな進行になった。一見普通の進行だが、黒15が瞬間何もないので白16のような攻防手が先手で入る。以下白の快勝。

この6の攻略が難しく、個人的な印象では白持ちとなった。皆様はどう思われたであろうか。

 

~追記~

(3/9)

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kawamura_meijin戦をさらに調べたところ、どうやら本譜15は良い手っぽい。というのは本譜16には17で受からないからだ。

 

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白18には左上の黒点しか考えていなかったが、ここで右下の飛び三で勝ちだった。「連の二段活用」というテクニックである。15を打った当初はこういう意図で打っていたはずなのだが、いざ読んでみると左上しか視野になかったのは情けなかった。

 

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図が恐らく白の最強の応対。持ち時間5分の五目クエストでここまでを打てるかは甚だ怪しいので、勝ち切れなかったのはまぁ仕方ないかもしれない・・・。

 

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hosiduki_tama戦。Yixinにかけてみると一瞬で詰んだ。5分とはいえこれを勝てないようでは駄目だ。やはり課題は追い詰めか/(^o^)\

現代連珠から見るノーマル寒星五題~連珠に残された唯一のフロンティア~

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ノーマル寒星五題というと、通常恒星共通のこの形を指す。「唯一のフロンティア」という表現は、この形が流行り始めた2011年前後における日本の某強豪の発言だ。不思議なことに、海外のまた別の強豪も、フロンティアという表現を使用していないものの似た趣旨の発言をしている。当時の連珠にある程度共有された考え方だったのかもしれない。連珠ではこの手の発言が珍しくない。2011年といえば題数指定打ちが採用されて2年だが「○○(珠型)は終わった」「題数打ちの底が見えた」「連珠はオワコン」というような発言をよくきいたものだ。いまソーソロフ8が採用されて2年目となるが、既に「ソーソロフ8は終わった」という声を聞くようになった。私がソーソロフルールにおいてこの手の発言を初めて聞いたのはルール採用後およそ半年のことである。連珠の風物詩だ。実際に終わったのかどうかはその後の経緯を見ると一目瞭然である。特に現代のノーマル寒星は当時の常識ではありえなかった形が善しとされ、流行している。「連珠は終わった(終わってなかった)」。

私なりにこのことばを解釈すると、「掘るだけでザクザク勝てる変化が出てくる時代は終わった」ということになる。題数指定打ち時代からそうだが、ルールの黎明期というのは新手を研究し(あるいはネット対局の前例を丸パクり)実戦で披露すればそれだけで勝ちまくれるという時期が1年から長いと3年は続く。その時期が終了したのが広く共有されると「連珠は終わった」という言説が目に見えて現れるというわけである。私にとってはこれが声高に言われ始めてからが本当の連珠だ。

 

前置きがずいぶん長くなってしまった。上図はこうした背景のなか流行した形である。唯一のフロンティアと言われるだけあって黒白共に序盤から選択肢が多い。上図から、白6はBが最善と言われている。ここまでの進行を以て違和感を覚えた人は連珠の感覚が鋭敏である。「黒5は広いほうのAではないのか?」「白6はCではないのか?」至極真っ当な疑問だ。

「黒5は広い方のAに打つべきだ」ーこれに関しては分からない、というのが感覚だ。この形については黒Aのほうに打つのは明確に駄目だとその後の研究で分かっている。つまりやってみなければわからない。実際黒Aのほうに盛んに打たれた時期もある。この形の公式戦第一号はこの画像の盤端だが、特に理由はないだろう。たまたま手が伸びたのが狭い方だったというだけだ。

「白6はC」ー実際この形の黎明期は白6でCに打たれている。それでも現在は白Bと打つのが最善と言われている。私は初心者に教えるとき、一般的に相手の連を三ヒキで止めるのは良くないという話をする。しばしば自軍の石の発展性を阻害し、相手だけが都合の良い形になるからである。ただしこの局面は数少ない例外である。「斜めの連は、自軍の三を消費してでも消しにいくべき」ということだ。一般的に言って、斜めの連は縦横よりも強力なことが多い。なぜ強いのかという話をすると別の記事が一本できてしまうので、それはまたの機会に。特に局面中央に展開された斜め連は強力で、これを引かせるという選択肢は基本的にない。斜めの連を消さないという選択肢が生まれるのは、「盤端に近い」もしくは「先手を維持できる」の二択である。白6ーC以下の進行を見てみよう。

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黒13まで

白6自体は公式戦では2012年までは大舞台でも打たれている。連珠オフラインでも2011年くらいまでは打たれており、いまでこそ主流ではないもののそれなりに有力視されていたようだ。この傾向、つまり連珠オフラインで盛んに打たれた進行が半年や一年遅れで公式戦に姿を現すというのは今日でも続いている。「水面下の攻防」というもので、最近は連珠オフラインにすら現れることなく消える作戦も多くなってきた。これは一時期、オフラインの前例を丸パクリして勝率を稼げた時代があったことの反動だろう。

局面としては白6となれば黒13まではほぼ必然。手順中白12をどう見るかがこの局面を判断するポイント。当時から2015年くらいまでの私の感覚では、白12は「黒の急所を消した好手」でここから一局。これが今の私の感覚、というより恐らく現代連珠の一般的な感覚だと「黒の急所を消すためとはいえ、大事な一手を受けだけのために使わされた」となる。どうしてこのように変化したのかというと、手番そのものの価値が上がったというより手番を持った後どうするかという技術が向上したことが理由だろう。手番を持ったは良いが、結局うまく攻めることができずに自爆するのは連珠あるあるだ。手番を持った後、そのまま攻め勝つ技術、あるいは満局以上を確定させて受け側だけに負担を強いる技術が飛躍的に向上した。それに伴い上図のような「一度完璧に受け止めてから反撃を狙う」思想は研究だけでなく実戦的な考え方としてあまり良くないとみられることが増えた。最近新しく研究された序盤を見るとよくわかるが、いまは白番も攻める。本当に受けない。隙あらば斬り込んでいく。現代の白番を打ちこなすのは大変だ。さて、局面としては既に白が結構忙しいことになっている。黒はA,Bといった引き筋があること、本当に黙っていると黒Cが即必勝クラスである。

 

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白14は白Bという反撃を狙った攻撃力の高い受けではあるが、黒13と打たれたことにより速度面で後退した。この2手の交換により黒は15と叩くことができる。(単に黒15と打つと白Aから追い詰め) 白Bは確かに怖いが、打たれなければどうということはない。怖い手を打たれる直前を狙ってラッシュをかける。当然のようだが、連珠においてはかなり新しい考え方だと思う。黒15に対して、後の白Cが楽しみだからと白16のような受けをすると、黒17と打たれ上辺だけで黒に勝たれてしまう。後の楽しみを実現させるのは難しい。

 

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白16は部分的には受けの手筋。上図黒17のような勝ち筋も受けているという意味で理にかなった手ではあるが、平凡に17と打たれると困る。黒19から23が白にとっては痛打。悲しいことに黒23がフクミ手(A~F)なので白の唯一の楽しみを先手で処理されてしまっている。白24と受けさせて黒25が最初に述べた無条件ヤグラで、この形における黒の勝ちパターンに入ってしまった。

 

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単に受けるのが良くないなら、白14で攻め合うのが選択肢となる。これには黒15が妙手のようだ。この手自体は白Aを黒Bで返せるというだけだが、この場所に黒石が存在することの価値が、将来的な攻めに大きいらしい。白16と受けさせてから黒17と引き出し、黒23まで落ち着いた局面では上下に攻めが残り白が困っているようだ。この進行自体は2012年三上杯の大角中村戦という前例があり、黒勝ちしている。(以下URL)この局面自体が完璧に白駄目なのかは私の研究不足により分からないが、中村さんが負けたというインパクトが大きかったのか?元々少なめの進行ではあったが、その後大きな大会で白6に挑戦する人はいなくなった。

http://www.renju.net/media/games.php?gameid=48032

ソフト研究の浸透は連珠の何を変えたか

時々聞かれることである。この質問に厳密に答えるには、ソフト研究黎明期から順番に話していく必要があるのだが、大変な量になってしまうため特に高レベルソフト(Yixin)の登場前後について述べる。

 

「誰でも」より速くより正確な研究ができる時代

Yixinのもたらした一番の成果はこれだろう。従来ソフトは使用者の局面判断能力がかなり大きく関わっていた。Yixinはそれ自体が全体として人間のトップクラスの棋力を有し、詰みなどの分野では人間のはるか先にいる。連珠の全くの初心者であっても、時間をかけて検討させればかなり高い質の棋譜が手に入るようになった。従来ソフトの研究ガチ勢が一日かけて出した結論をYixin研究では30分で解決したという話も聞いたので、研究速度それ自体も以前より飛躍的に上昇している。いまの時代に求められるのは棋力よりも何よりも、スペックの良いコンピューターなのかもしれない。

 

完成形を作る時代から完成形をアレンジする時代へ

私の記憶では09年あたり、題数指定打ちが正式採用された時期の連珠世界において、飯尾八段が序盤の戦型について紹介している。その締めとして「これらの戦型は私レベルでは分からず、ATなどでトッププレイヤー達によって磨かれ育っていく」という旨の発言をしていたはずである。

私の言う「完成形」とはその戦型の最善手順を並べたものではなく、ある程度の概形を意味している。つまり、この形における急所はここで、大体ここで攻めてこうやって勝ちを狙うというような。かつてそれはまさにトッププレイヤー達によって育てられていくものだった。

今はどうなのか。Yixin同士に打たせること(私の場合はYixin2018に一手40分ずつ)によってそれなりのクオリティの完成形を見ることができる。場合によってはその局の検討だけで戦型そのものが没になることもある。昔のソフトでこういうことをすると、正しくないことが前提だった節がある。Yixinの場合、私の印象では100%正しいことは多くないが、抑えるべき要素はしっかり抑えてくる、という感じだ。ソフト特有の人間には思いつかない好手も多いため、この作業を行なっているかどうかだけで決着する局も少なくない。昔は基本手順がスタートラインでそこから頑張っていく感じだったのが、今では基本手順+その戦型の完成形を押さえていることがスタートラインになってきている。個々の持ち味が出るのはその先で、間違いなくシビアにはなっているだろう。

 

Yixinの登場によって人間同士のレベル差はどうなるか、何が差になるか

ここからは完全な私の見解である。まず全体としては、人間同士のレベル差はかなり少なくなるだろう。その理由は先述した通り、誰でも一定以上の棋譜を出力することができるようになったことに寄る。

トッププレイヤー間においては、これまでよりむしろレベルは開くようになると思われる。大きな要因は研究効率と、ソフトから何を引き出すかということにある。差は少なくなったとはいえ研究効率は局面判断能力に大きく依存する。判断能力が高ければ高いほど、より急所に近い情報を、他の人達より先んじて得ることができる。これは私が研究していて実感するところが多い。強い人は自分よりも色々な局面から情報を引き出していく。私の知るところではこの差を補えるのは余りあるPCスペックのみである。

ソフトから何を得られるか、というのは大したことないようでいて長期的に見ると影響力が大きい。ざっくりいうと、ただ単純にソフトから出力された「正解手」を覚えていくだけの人、棋理の理解をより深めようと単純な研究以外のところで検証していく人に別れる。連珠の理解度が高い方が強いというのはいつの時代になっても変わることはない。ソフトを理解度の向上に役立てられるかどうかが今後トッププレイヤー間のレベル差として如実に表れると思う。

最後に重要な話として、複数人での情報共有について。日本の連珠では基本的に研究は一人、多くても二人くらいで行なうのが通常ではないだろうか。二人はまだいいとして、一人でやっていると今後勝つのが難しい時代になっていくだろう。一つは純粋に、必要な研究量というのが一人でできる量を大幅に超えていること。もう一つは価値観の更新である。一人で強くなっているとどうしても価値観が凝り固まり気味になってくる。色々な人と関わり情報交換をして「こういう手がいい手になることもある」とか、「今はこういう手が注目されている」といったように知識や考え方を更新していく重要性が高まっている。世の中ではコミュ力コミュ力と言われて久しいが、連珠で強くなるのにもコミュ力が必要になってきたということかもしれない。

共通型の基礎知識

Twitterのぴえこ先生のお題局面で登場したので、ちょうどいい機会ということで書いてみる。この記事で説明するのは、当該戦型における前提知識、つまりプレイヤー間で常識とされているものについてである。細かい手順や最新の動向は追わないので、そこが気になる方はこの記事を読む意味はないだろう。

 

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テーマ図

黒5は連珠では長らく埋もれてきた手である。私が連珠を始めた07年当時からしばらくの間、この形は白有利(もしくは白勝ち)ですよと言われてきた。まずは基本的な手順から。

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基本図

黒11までがこの形における基本図。ここまでの進行はお互いに変化したほうが明確に悪くなると言われている。連珠の傾向として最初の最初から手の広い局面が訪れるのは稀だ。多くはこの局面のように最初の10手ー20手でお互いの連剣先を相殺し合った結果として手の広い局面が現れる。事前研究の段階では、何よりもまず「手の広い局面が訪れるまで」を押さえておくのが望ましい。白12では現在では様々な手が打たれている。

 

白良しと言われた従来の進行

従来白良しと言われていた進行を紹介する。

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白12、14とシンプルに連と剣先を蓄えておいて、黒15には白18までで黒に打つ手なし、というのが私がこの形を初めて勉強したときの常識だった。しかしなんとこの局面は黒に追い詰めがあるのだ。この追い詰めの発見によって、この戦型は爆発的に流行することになった。

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黒19と打ってから21が妙フクミで白に受けがない。全変化を載せるのは大変なので以下は各自検討してほしい。連珠ではこの局面のように「難解な、あるいは長手数の追い詰めが存在しながらそれが長い間誰からも発見されなかった」ということがちらほらある。ソフト検討全盛のこの時代においても時々そういうものが登場する。連珠は詰みが難しいゲームと言われる所以だろう。

この戦型の実質的な第一号となった汪ー小山戦(下記URL)は上図において「白16を中止めするとどうなるのか」という連珠だ。発想としては自然である。この形の登場以後しばらくは白16までを起点としたものが多い。

http://www.renju.net/media/games.php?gameid=61874

 

様々な形から登場する

基本図11までの手順は現在のソーソロフ8ルールにおいて様々な珠型から登場する。この形は実際には盤端関係によって三種類の異なった戦型として登場するので紹介する。

 

①雨月盤端

基本図のこと。合流型が最も多くこの形のベーシック。雨月、松月、山月、丘月、残月から合流可能性あり。

 

②残月盤端

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残月盤端

残月からは雨月盤端にも戻せるが、残月盤端と言及した場合は通常この局面を指す。雨月盤端と比較すると上辺が狭く、左辺と下辺が広い。

 

③雲月盤端

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雲月盤端

雲月、水月から生じる。雨月盤端との比較では右辺が狭い。

 

どの盤端を選ぶのがいいのか

明確な結論は出ていない。ただ、③の雲月盤端だけは成立しないとみられている。というのはこの形の発端となった黒追い詰めが成立しないからだ。

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黒21によってできる横の連が盤端に引っかかるため次に三を引けなくなっている。これにより黒の追い詰めが存在しない。

 

なお、この形の最初期に右辺が狭いことを利用して黒9を12に打つのも試みられたが、その局自体が白快勝であること、以後試す人がいないことから有力ではないのだろう。(下記URL)

http://www.renju.net/media/games.php?gameid=61861

黒と白どちらが有利なのか

明確な結論は出ていない。連珠の戦型の寿命というのは年々短くなっており、新しく発見されてから表舞台に現れて一局だけで姿を消す、あるいは水面下の研究で済まされてしまい現れることすらないということも珍しくない。傾向として言えるのはみな残月盤端を有力視しているらしいということで、雨月盤端の登場は減少している。初めて登場した2015年当時と比較すると、いまこの戦型を見ることはかなり少なくなった。それでも大きな大会でちらほら採用されているため、この戦型自体が駄目になったというわけではなさそうだ。単純にソーソロフ8ルールが採用されたことで局面の数が膨大になり、他にやりたい局面があるということなのだろう。

2018年公式戦終了

先日の挑戦手合いで今年の公式戦がすべて終わりました。

 

手動集計なので間違っている可能性は多いにありますが、私の今年の公式戦の戦績は18勝7敗7分(勝ち点率21.5/32=0.671875)で勝率67%でした。

勝率自体はここ最近の平年並みというところでしょうか。ただ上位大会に出場することが多くなり、対局相手が強くなっているので全体としては自分自身も強くなっていると思います。

 

2018年の一年間は、連珠という対象を一つフィルターを通して見てきた感触があります。周りが見えなくなるほど前のめりになって取り組むわけでもなければ、惰性で打っているわけでもない。よくいえばニュートラルですが、悪くいうと連珠そのものに対する「熱」が下がっていたともいえます。最近はちょくちょく連珠が注目されるようになってきて、私自身のモチベーションの主軸が実戦で勝つことや局面の探究から連珠の普及へ大きくシフトしたことが大きいようです。実戦では自分を高めることに集中したつもりですが、その分局面の探究や勝利に対して一歩引いた目線で見てしまっていました。この辺りは挑戦手合いで露呈し、盤勝負ではいいところなく敗れました。ただ、中村新名人の熱に影響されたといいますか、恐らく7年ぶりくらいに自分の探究者としての熱の高まりを感じています。来年は今年よりも前のめりに連珠に取り組んでみようと思います。

三行ほどで終わらせるつもりが長くなってしまいました。それではみなさま良いお年を。

第4局簡単な振り返り

詳しくはまた後で書きますがとりあえず忘れないようにざっと感じたことを

 

前局の課題であった「自分なりに局面を追究する」、去年の祁观戦からの課題「自分が直感で切りそうな手もしっかり検討して必要なら拾い上げる」この二点についてはクリアしたと思います。結果だけ見ると2敗2分の惨殺なのですが、これだけを見ても奪取した去年より強くなっていると感じました。

 

一方で「一つの感情に支配されるとそこからの脱却が難しい」という課題が、前からうっすら感じてはいましたが露呈しました。具体的には今局は私に勝ちがあり、しかも普段なら簡単に勝っているだろうものでした。対局中は少しずつポイントを稼いでいると感じる一方で、ずっとなかなか勝てないという気持ちがありました。突然の大チャンス到来時には確かに違和感を持ちましたがその気分に支配され勝ちまで辿り着くことができませんでした。これは今後修正していきます。

 

名人位を失ったのは残念ですが、この時代局面の追究はパソコンの仕事、実戦での自分の役割はただ大きなミスをしないようにすることと感じていた中で局面の追究に意欲的に取り組めたのは本当によかったです。次も頑張ります。