連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

現代連珠から見るノーマル寒星五題~連珠に残された唯一のフロンティア~

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ノーマル寒星五題というと、通常恒星共通のこの形を指す。「唯一のフロンティア」という表現は、この形が流行り始めた2011年前後における日本の某強豪の発言だ。不思議なことに、海外のまた別の強豪も、フロンティアという表現を使用していないものの似た趣旨の発言をしている。当時の連珠にある程度共有された考え方だったのかもしれない。連珠ではこの手の発言が珍しくない。2011年といえば題数指定打ちが採用されて2年だが「○○(珠型)は終わった」「題数打ちの底が見えた」「連珠はオワコン」というような発言をよくきいたものだ。いまソーソロフ8が採用されて2年目となるが、既に「ソーソロフ8は終わった」という声を聞くようになった。私がソーソロフルールにおいてこの手の発言を初めて聞いたのはルール採用後およそ半年のことである。連珠の風物詩だ。実際に終わったのかどうかはその後の経緯を見ると一目瞭然である。特に現代のノーマル寒星は当時の常識ではありえなかった形が善しとされ、流行している。「連珠は終わった(終わってなかった)」。

私なりにこのことばを解釈すると、「掘るだけでザクザク勝てる変化が出てくる時代は終わった」ということになる。題数指定打ち時代からそうだが、ルールの黎明期というのは新手を研究し(あるいはネット対局の前例を丸パクり)実戦で披露すればそれだけで勝ちまくれるという時期が1年から長いと3年は続く。その時期が終了したのが広く共有されると「連珠は終わった」という言説が目に見えて現れるというわけである。私にとってはこれが声高に言われ始めてからが本当の連珠だ。

 

前置きがずいぶん長くなってしまった。上図はこうした背景のなか流行した形である。唯一のフロンティアと言われるだけあって黒白共に序盤から選択肢が多い。上図から、白6はBが最善と言われている。ここまでの進行を以て違和感を覚えた人は連珠の感覚が鋭敏である。「黒5は広いほうのAではないのか?」「白6はCではないのか?」至極真っ当な疑問だ。

「黒5は広い方のAに打つべきだ」ーこれに関しては分からない、というのが感覚だ。この形については黒Aのほうに打つのは明確に駄目だとその後の研究で分かっている。つまりやってみなければわからない。実際黒Aのほうに盛んに打たれた時期もある。この形の公式戦第一号はこの画像の盤端だが、特に理由はないだろう。たまたま手が伸びたのが狭い方だったというだけだ。

「白6はC」ー実際この形の黎明期は白6でCに打たれている。それでも現在は白Bと打つのが最善と言われている。私は初心者に教えるとき、一般的に相手の連を三ヒキで止めるのは良くないという話をする。しばしば自軍の石の発展性を阻害し、相手だけが都合の良い形になるからである。ただしこの局面は数少ない例外である。「斜めの連は、自軍の三を消費してでも消しにいくべき」ということだ。一般的に言って、斜めの連は縦横よりも強力なことが多い。なぜ強いのかという話をすると別の記事が一本できてしまうので、それはまたの機会に。特に局面中央に展開された斜め連は強力で、これを引かせるという選択肢は基本的にない。斜めの連を消さないという選択肢が生まれるのは、「盤端に近い」もしくは「先手を維持できる」の二択である。白6ーC以下の進行を見てみよう。

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黒13まで

白6自体は公式戦では2012年までは大舞台でも打たれている。連珠オフラインでも2011年くらいまでは打たれており、いまでこそ主流ではないもののそれなりに有力視されていたようだ。この傾向、つまり連珠オフラインで盛んに打たれた進行が半年や一年遅れで公式戦に姿を現すというのは今日でも続いている。「水面下の攻防」というもので、最近は連珠オフラインにすら現れることなく消える作戦も多くなってきた。これは一時期、オフラインの前例を丸パクリして勝率を稼げた時代があったことの反動だろう。

局面としては白6となれば黒13まではほぼ必然。手順中白12をどう見るかがこの局面を判断するポイント。当時から2015年くらいまでの私の感覚では、白12は「黒の急所を消した好手」でここから一局。これが今の私の感覚、というより恐らく現代連珠の一般的な感覚だと「黒の急所を消すためとはいえ、大事な一手を受けだけのために使わされた」となる。どうしてこのように変化したのかというと、手番そのものの価値が上がったというより手番を持った後どうするかという技術が向上したことが理由だろう。手番を持ったは良いが、結局うまく攻めることができずに自爆するのは連珠あるあるだ。手番を持った後、そのまま攻め勝つ技術、あるいは満局以上を確定させて受け側だけに負担を強いる技術が飛躍的に向上した。それに伴い上図のような「一度完璧に受け止めてから反撃を狙う」思想は研究だけでなく実戦的な考え方としてあまり良くないとみられることが増えた。最近新しく研究された序盤を見るとよくわかるが、いまは白番も攻める。本当に受けない。隙あらば斬り込んでいく。現代の白番を打ちこなすのは大変だ。さて、局面としては既に白が結構忙しいことになっている。黒はA,Bといった引き筋があること、本当に黙っていると黒Cが即必勝クラスである。

 

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白14は白Bという反撃を狙った攻撃力の高い受けではあるが、黒13と打たれたことにより速度面で後退した。この2手の交換により黒は15と叩くことができる。(単に黒15と打つと白Aから追い詰め) 白Bは確かに怖いが、打たれなければどうということはない。怖い手を打たれる直前を狙ってラッシュをかける。当然のようだが、連珠においてはかなり新しい考え方だと思う。黒15に対して、後の白Cが楽しみだからと白16のような受けをすると、黒17と打たれ上辺だけで黒に勝たれてしまう。後の楽しみを実現させるのは難しい。

 

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白16は部分的には受けの手筋。上図黒17のような勝ち筋も受けているという意味で理にかなった手ではあるが、平凡に17と打たれると困る。黒19から23が白にとっては痛打。悲しいことに黒23がフクミ手(A~F)なので白の唯一の楽しみを先手で処理されてしまっている。白24と受けさせて黒25が最初に述べた無条件ヤグラで、この形における黒の勝ちパターンに入ってしまった。

 

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単に受けるのが良くないなら、白14で攻め合うのが選択肢となる。これには黒15が妙手のようだ。この手自体は白Aを黒Bで返せるというだけだが、この場所に黒石が存在することの価値が、将来的な攻めに大きいらしい。白16と受けさせてから黒17と引き出し、黒23まで落ち着いた局面では上下に攻めが残り白が困っているようだ。この進行自体は2012年三上杯の大角中村戦という前例があり、黒勝ちしている。(以下URL)この局面自体が完璧に白駄目なのかは私の研究不足により分からないが、中村さんが負けたというインパクトが大きかったのか?元々少なめの進行ではあったが、その後大きな大会で白6に挑戦する人はいなくなった。

http://www.renju.net/media/games.php?gameid=48032

ソフト研究の浸透は連珠の何を変えたか

時々聞かれることである。この質問に厳密に答えるには、ソフト研究黎明期から順番に話していく必要があるのだが、大変な量になってしまうため特に高レベルソフト(Yixin)の登場前後について述べる。

 

「誰でも」より速くより正確な研究ができる時代

Yixinのもたらした一番の成果はこれだろう。従来ソフトは使用者の局面判断能力がかなり大きく関わっていた。Yixinはそれ自体が全体として人間のトップクラスの棋力を有し、詰みなどの分野では人間のはるか先にいる。連珠の全くの初心者であっても、時間をかけて検討させればかなり高い質の棋譜が手に入るようになった。従来ソフトの研究ガチ勢が一日かけて出した結論をYixin研究では30分で解決したという話も聞いたので、研究速度それ自体も以前より飛躍的に上昇している。いまの時代に求められるのは棋力よりも何よりも、スペックの良いコンピューターなのかもしれない。

 

完成形を作る時代から完成形をアレンジする時代へ

私の記憶では09年あたり、題数指定打ちが正式採用された時期の連珠世界において、飯尾八段が序盤の戦型について紹介している。その締めとして「これらの戦型は私レベルでは分からず、ATなどでトッププレイヤー達によって磨かれ育っていく」という旨の発言をしていたはずである。

私の言う「完成形」とはその戦型の最善手順を並べたものではなく、ある程度の概形を意味している。つまり、この形における急所はここで、大体ここで攻めてこうやって勝ちを狙うというような。かつてそれはまさにトッププレイヤー達によって育てられていくものだった。

今はどうなのか。Yixin同士に打たせること(私の場合はYixin2018に一手40分ずつ)によってそれなりのクオリティの完成形を見ることができる。場合によってはその局の検討だけで戦型そのものが没になることもある。昔のソフトでこういうことをすると、正しくないことが前提だった節がある。Yixinの場合、私の印象では100%正しいことは多くないが、抑えるべき要素はしっかり抑えてくる、という感じだ。ソフト特有の人間には思いつかない好手も多いため、この作業を行なっているかどうかだけで決着する局も少なくない。昔は基本手順がスタートラインでそこから頑張っていく感じだったのが、今では基本手順+その戦型の完成形を押さえていることがスタートラインになってきている。個々の持ち味が出るのはその先で、間違いなくシビアにはなっているだろう。

 

Yixinの登場によって人間同士のレベル差はどうなるか、何が差になるか

ここからは完全な私の見解である。まず全体としては、人間同士のレベル差はかなり少なくなるだろう。その理由は先述した通り、誰でも一定以上の棋譜を出力することができるようになったことに寄る。

トッププレイヤー間においては、これまでよりむしろレベルは開くようになると思われる。大きな要因は研究効率と、ソフトから何を引き出すかということにある。差は少なくなったとはいえ研究効率は局面判断能力に大きく依存する。判断能力が高ければ高いほど、より急所に近い情報を、他の人達より先んじて得ることができる。これは私が研究していて実感するところが多い。強い人は自分よりも色々な局面から情報を引き出していく。私の知るところではこの差を補えるのは余りあるPCスペックのみである。

ソフトから何を得られるか、というのは大したことないようでいて長期的に見ると影響力が大きい。ざっくりいうと、ただ単純にソフトから出力された「正解手」を覚えていくだけの人、棋理の理解をより深めようと単純な研究以外のところで検証していく人に別れる。連珠の理解度が高い方が強いというのはいつの時代になっても変わることはない。ソフトを理解度の向上に役立てられるかどうかが今後トッププレイヤー間のレベル差として如実に表れると思う。

最後に重要な話として、複数人での情報共有について。日本の連珠では基本的に研究は一人、多くても二人くらいで行なうのが通常ではないだろうか。二人はまだいいとして、一人でやっていると今後勝つのが難しい時代になっていくだろう。一つは純粋に、必要な研究量というのが一人でできる量を大幅に超えていること。もう一つは価値観の更新である。一人で強くなっているとどうしても価値観が凝り固まり気味になってくる。色々な人と関わり情報交換をして「こういう手がいい手になることもある」とか、「今はこういう手が注目されている」といったように知識や考え方を更新していく重要性が高まっている。世の中ではコミュ力コミュ力と言われて久しいが、連珠で強くなるのにもコミュ力が必要になってきたということかもしれない。

共通型の基礎知識

Twitterのぴえこ先生のお題局面で登場したので、ちょうどいい機会ということで書いてみる。この記事で説明するのは、当該戦型における前提知識、つまりプレイヤー間で常識とされているものについてである。細かい手順や最新の動向は追わないので、そこが気になる方はこの記事を読む意味はないだろう。

 

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テーマ図

黒5は連珠では長らく埋もれてきた手である。私が連珠を始めた07年当時からしばらくの間、この形は白有利(もしくは白勝ち)ですよと言われてきた。まずは基本的な手順から。

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基本図

黒11までがこの形における基本図。ここまでの進行はお互いに変化したほうが明確に悪くなると言われている。連珠の傾向として最初の最初から手の広い局面が訪れるのは稀だ。多くはこの局面のように最初の10手ー20手でお互いの連剣先を相殺し合った結果として手の広い局面が現れる。事前研究の段階では、何よりもまず「手の広い局面が訪れるまで」を押さえておくのが望ましい。白12では現在では様々な手が打たれている。

 

白良しと言われた従来の進行

従来白良しと言われていた進行を紹介する。

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白12、14とシンプルに連と剣先を蓄えておいて、黒15には白18までで黒に打つ手なし、というのが私がこの形を初めて勉強したときの常識だった。しかしなんとこの局面は黒に追い詰めがあるのだ。この追い詰めの発見によって、この戦型は爆発的に流行することになった。

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黒19と打ってから21が妙フクミで白に受けがない。全変化を載せるのは大変なので以下は各自検討してほしい。連珠ではこの局面のように「難解な、あるいは長手数の追い詰めが存在しながらそれが長い間誰からも発見されなかった」ということがちらほらある。ソフト検討全盛のこの時代においても時々そういうものが登場する。連珠は詰みが難しいゲームと言われる所以だろう。

この戦型の実質的な第一号となった汪ー小山戦(下記URL)は上図において「白16を中止めするとどうなるのか」という連珠だ。発想としては自然である。この形の登場以後しばらくは白16までを起点としたものが多い。

http://www.renju.net/media/games.php?gameid=61874

 

様々な形から登場する

基本図11までの手順は現在のソーソロフ8ルールにおいて様々な珠型から登場する。この形は実際には盤端関係によって三種類の異なった戦型として登場するので紹介する。

 

①雨月盤端

基本図のこと。合流型が最も多くこの形のベーシック。雨月、松月、山月、丘月、残月から合流可能性あり。

 

②残月盤端

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残月盤端

残月からは雨月盤端にも戻せるが、残月盤端と言及した場合は通常この局面を指す。雨月盤端と比較すると上辺が狭く、左辺と下辺が広い。

 

③雲月盤端

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雲月盤端

雲月、水月から生じる。雨月盤端との比較では右辺が狭い。

 

どの盤端を選ぶのがいいのか

明確な結論は出ていない。ただ、③の雲月盤端だけは成立しないとみられている。というのはこの形の発端となった黒追い詰めが成立しないからだ。

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黒21によってできる横の連が盤端に引っかかるため次に三を引けなくなっている。これにより黒の追い詰めが存在しない。

 

なお、この形の最初期に右辺が狭いことを利用して黒9を12に打つのも試みられたが、その局自体が白快勝であること、以後試す人がいないことから有力ではないのだろう。(下記URL)

http://www.renju.net/media/games.php?gameid=61861

黒と白どちらが有利なのか

明確な結論は出ていない。連珠の戦型の寿命というのは年々短くなっており、新しく発見されてから表舞台に現れて一局だけで姿を消す、あるいは水面下の研究で済まされてしまい現れることすらないということも珍しくない。傾向として言えるのはみな残月盤端を有力視しているらしいということで、雨月盤端の登場は減少している。初めて登場した2015年当時と比較すると、いまこの戦型を見ることはかなり少なくなった。それでも大きな大会でちらほら採用されているため、この戦型自体が駄目になったというわけではなさそうだ。単純にソーソロフ8ルールが採用されたことで局面の数が膨大になり、他にやりたい局面があるということなのだろう。

2018年公式戦終了

先日の挑戦手合いで今年の公式戦がすべて終わりました。

 

手動集計なので間違っている可能性は多いにありますが、私の今年の公式戦の戦績は18勝7敗7分(勝ち点率21.5/32=0.671875)で勝率67%でした。

勝率自体はここ最近の平年並みというところでしょうか。ただ上位大会に出場することが多くなり、対局相手が強くなっているので全体としては自分自身も強くなっていると思います。

 

2018年の一年間は、連珠という対象を一つフィルターを通して見てきた感触があります。周りが見えなくなるほど前のめりになって取り組むわけでもなければ、惰性で打っているわけでもない。よくいえばニュートラルですが、悪くいうと連珠そのものに対する「熱」が下がっていたともいえます。最近はちょくちょく連珠が注目されるようになってきて、私自身のモチベーションの主軸が実戦で勝つことや局面の探究から連珠の普及へ大きくシフトしたことが大きいようです。実戦では自分を高めることに集中したつもりですが、その分局面の探究や勝利に対して一歩引いた目線で見てしまっていました。この辺りは挑戦手合いで露呈し、盤勝負ではいいところなく敗れました。ただ、中村新名人の熱に影響されたといいますか、恐らく7年ぶりくらいに自分の探究者としての熱の高まりを感じています。来年は今年よりも前のめりに連珠に取り組んでみようと思います。

三行ほどで終わらせるつもりが長くなってしまいました。それではみなさま良いお年を。

第4局簡単な振り返り

詳しくはまた後で書きますがとりあえず忘れないようにざっと感じたことを

 

前局の課題であった「自分なりに局面を追究する」、去年の祁观戦からの課題「自分が直感で切りそうな手もしっかり検討して必要なら拾い上げる」この二点についてはクリアしたと思います。結果だけ見ると2敗2分の惨殺なのですが、これだけを見ても奪取した去年より強くなっていると感じました。

 

一方で「一つの感情に支配されるとそこからの脱却が難しい」という課題が、前からうっすら感じてはいましたが露呈しました。具体的には今局は私に勝ちがあり、しかも普段なら簡単に勝っているだろうものでした。対局中は少しずつポイントを稼いでいると感じる一方で、ずっとなかなか勝てないという気持ちがありました。突然の大チャンス到来時には確かに違和感を持ちましたがその気分に支配され勝ちまで辿り着くことができませんでした。これは今後修正していきます。

 

名人位を失ったのは残念ですが、この時代局面の追究はパソコンの仕事、実戦での自分の役割はただ大きなミスをしないようにすることと感じていた中で局面の追究に意欲的に取り組めたのは本当によかったです。次も頑張ります。

 

四追い選手権

連珠にはタイムアタック式の詰め連珠選手権は今まであったでしょうか。ともかく来週四追い選手権があります。私は作問を担当しました。

 

難易度に不安を持たれる方、あるいは簡単すぎると思う方が出ると思うので予め私なりの目安を示しておきます。

 

連珠のルール及び四追いを理解して間もない方から、初段までの方が入り乱れたとして、平均点六割前後になるかなと意図して作りました。果たしてどうなるでしょうか。

 

持ち時間30分ということを踏まえると、「どの問題も解けないことはないが、時間とケアレスミスとの戦い」と思います。私はその期間対局をしていますが、出場される方の健闘を祈ります。

 

 

人間の判断を狂わせるもの~SOPAI杯八回戦 VS李小青~

SOPAI杯は全九回戦。泣いても笑っても残り二局で全てが決する。この日の朝は岡部さんが近づいてきて「優勝が見えてきたな」。そのときは「次勝ったら意識してみます」と答えた。その朝、七回戦の対局は今大会一番の僥倖としか言いようのない勝ち方。(以下参照) 流れは自分に来ているかもしれない。そわそわしながら次局を迎える。

 

renjuvarious.hatenablog.jp

李小青は中国の対局アプリ五林大会において六段を所有していて、その存在はこのアプリを利用している人間なら誰もが知るところ。現実の段位は五段だったか。中国は基本的には最高段位が六段であり、七段~九段というのは普及などで実績を上げた人に与えられるそうだ。最近日本に上海の5級の方がやってきて、高段者棋戦に出場して5割の成績を残している。一概には言えないが、体感として例えば中国で三段あればこちらでは名人戦リーグの中位~上位クラスという認識だ。四段~六段はもうよくわからず、大体自分より強いだろうと思って対局している。

 

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第1図 1235黒 李小青 4白 私(5A→8,11,14,A~C)

彼女は今大会寒星一本に絞ってきているようだった。私は大会前半に白6までを採用して勝っており、相手としても私がこの順を選ぶことは想定内だろう。ならば白4で変化するとか、提示を七題から八題に変えて意図を外しに行くという手はある。今大会の私のテーマの一つとして、自分の技術や研究が中国でどれほど通用するのかを確かめたいというのがあり、それを通した格好である。優勝が近づいてきたのだから路線変更していきなり勝ちにいくというのもアリではあるが、それはそういうテーマ、つまり目先の勝ち以外何でもいいものが出てきたときに発揮させようと保留した。黒15まではお互いにほぼノータイム。この進行自体前例では黒有利と見られており、白16が用意の手だった。相手が考慮に入る。

事前の練習では黒良さそうだが具体的な手段が難しい、くらいの漠然とした結論で、本譜17の剣先叩きは試されていなかった。要所なので30分くらいは使うかもしれないと思っていたら10分程での着手。どうやら相手は私と同じ感覚主体のプレイヤーのようだ。こちらも考え始めて脳内検討のスピード低下を自覚。あまり意識してはいなかったが、本格的に疲れているらしい。私の場合こういうときはパパっと打つほうが精度が高い。・・・ぱっと考え付く進行が白良くなさそうな上にそれ以外の手段が難しい。練習では白も結構やれると思っていたのだが・・・。実戦で本腰を入れて考えるのと練習でざっと打つのはやはり違う。このギャップは挑戦手合いでも痛感したところで、課題の一つだろう。

 

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第2図 白26まで

結局第一感の白18へ。以下白24までは想定通りで、黒25は単にAかと思っていた。その場合、例えば白B黒C以下、上辺のごちゃごちゃが複雑ではある。私なら20分くらいは考えそうだが、大して時間を使わず叩いてきたあたり相手も疲れているか。本譜なら白26が手順に入るので、黒A後の下辺をだいぶ受けやすい。

李小青は対局中の挙動が大きい。白26を読んでいなかったのか、それまではただ真剣な表情だったのが急に神妙な面持ちになり頭を抱えだし、終いにはわぁどうしようとでも声に出そうな顔つきだ。こちらも釣られてフワフワしだす。

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第3図 白44まで

急に多くの手が進んでしまい読者の方には申し訳ないが、対局が実際このくらいのペースで進行した。持ち時間90分の対局ではあるが、黒27~白43まで恐らく10分経たずに打ち進められ、白44も5分程度の考慮だった。黒37の時点でふと周りを見渡す。私の右前方は神谷君と陳新が両者微動だにしない熱戦を繰り広げている。手数も見た感じは10手ちょっと。再び自分の局面を見返して思わず苦笑する。相手も気づいたのか、一度同じ方向を見て苦笑した。そういえば以前にもこんなことがあった。2014年のチーム世界選手権で打った時だ。神谷君と同じチームで、私の対局は両者ポイポイ打ち進め50手超えで考慮中。神谷君のほうは両者同じ体勢で10手いくかどうかの局面を大長考合戦。対局相手はその局ごとに運次第だが、近い者同士が惹かれあうのかもしれない。

白38までは想定通りで、これで白受け切りだと思っていた。黒39~43に違和感があり、一気に良くなったかとソワソワ。白44の第一感はAだったが、ここまできて頓死したら嫌だなぁと躊躇してしまい、まあいいかと打った白44が大悪手。やはり白Aだった。いままで積み上げてきたものが崩れるかもしれない恐怖にどうも弱い。「疲れたとき、よくわからないときは第一感」という原則は私の敗戦譜を洗い直すと明らかで、自覚もあるのだが間違えてしまう。「人間は分かっていながら不合理な選択をする」とポーカーの木原さんがツイートしていたと記憶しているが、心に刺さった。

 

 

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第4図、黒53まで

黒45の考慮中に黒49に打たれたら嫌だなぁと思っていると、色々決めてはきたが黒49と打ってきた。目の前に現れてようやく自分の犯したミスの大きさが押し寄せてくる。あれほど変な失敗をしたくないという恐怖だけはあったのに。ここでかなり動揺してしまい、時間は40分ほどあったが受けを誤った。始めから悪いと思っていて読む分にはかなりの率で間違えないのだが、良いと思っていた、あるいは好転しつつあると思っていた状況が実はかなり悪かった、悪くなったと自覚すると正常な判断力を欠いてしまうらしい。ある程度は精神的な練習で克服できるのだろうが、人間である以上仕方ないのかもしれない。それよりは、より正確な形勢判断をできるよう練習するほうが賢明だろう。白50もAが第一感だったが、黒51が怖くなり外した。白50に黒Aしか考えておらず、黒51と打たれて受けが絶望的に難しくなった。ここでもまだ一応受けはあったようだが、本譜52の敗着を出してしまったのはやむを得ない。黒53以下完全な追い詰めだが、当時はここでもまだ受かるかもしれないと思っていたのだから判断力が死んでいる。

 

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第5図、黒59以下四追い勝ち

白54に黒55が妙フクミで、これでようやく負けを自覚した。この手は以下ABC or 56EGFの四追いを狙っている。二か所の四追いを同時に受けるにはDか56しかない。白56に黒57が決め手で、以下EHLIJKMの四追いだ。最後は上辺の剣先も活躍し、まるで作ったかのような詰み上がりになった。

 

本局の敗戦で優勝できないことがほぼ決定的になり、大会としては痛かった。この対局は私の弱いところが多く出てしまった。色々引き出せたという意味ではよかったので、この教訓を挑戦手合い第4局や来年の対局で活かしたい。

 

※ブログ執筆後にRIF公式の棋譜を見たところ、左右が反転していました。申し訳ございませんm(__)m