連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

ソフト研究と実戦の探究~SOPAI杯五回戦 VS汪清清~

連珠に限らず他のゲームにおいてもコンピュータソフトを用いた研究が盛んになっている。研究速度や精度が飛躍的に上昇した反面、実戦で戦っていると人間が技術的な進歩に追いついていないと感じることが多い。

 

汪清清は今回隣の部屋だった。慣れない中国の大会においてWIFIの接続から始まり様々な面で助けてもらった。彼女の明るく積極的な性格から生まれたエピソードは今回いくつかあるが、本稿では連珠の内容に集中しよう。

 

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第1図 1235黒:私 4白:相手 5A→A~F

私の名月提示に相手は白4を打ち七題提示としてきた。五珠の候補は色々あるが、この手に興味があったため本譜の5を提示した。白6は当然として黒7が研究手。この一年の私のテーマ図の一つだ。ソフトでの研究はそこそこ多くしてきたほうだが、実戦投入は本局が初である。連珠に限らず他ゲームでもそうだと思うが、モニター越しに見るのと実際の盤石を使って打つのでは景色が違う。またこれは実戦であるため、本格的な読みが入る。私の場合はモニター越しで研究していると、思いのほかソフトの評価値と盤面を眺めながら機械的にクリックを繰り返すだけになりがちだ。それゆえ自分の判断がほとんど入らないが、ソフトは強いので研究としては比較的高水準のものが出来上がる。この自分の判断量の少なさと、実際に出来上がる研究の質とのギャップが実戦の舞台においてはミスを生みやすい。研究のレベルに自分の棋力がついていかないということだ。こうして一度しっかりと向かい合うことによって、自分が何を見て、何を感じ、どう判断するかを知りたかった。それが答えの出ない研究で次へのステップとなる。

事前研究の段階で白8の時点から多くの選択肢があることは把握していた。研究では全く別の手を深く掘り下げていたが、実戦で眺めると白8が目に付いた。こう打たれたらどうするんだろう?そう感じて間もなく相手は白8を打ちおろす。どうやら呼吸が似ているらしい。ここが最初の勝負所である。考え始めてすぐに、この三を引いたほうに止めると水月千鳥から発生する別の手順に合流することに気が付いた。その手順は確かデータベースでは黒の勝率がかなり良い・・・。と、こういうことをすぐに考えてしまうから駄目なんだと思い直した。自分の頭で考えていない。いつからこういうことが多くなったのかは定かではないが、最近の私にそういう傾向があることは明らかである。第一、データベース通り黒が良くなるなら相手が短慮で打ってくるはずがない。どちらに止めるにせよ、読みを入れようと気持ちをリセットする。

 

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第2図、黒13まで

ざっと考えたところ、黒9で13から止めるのは三三禁絡みで非常に際どいことはわかった。それが実際にどうなっているかは別として、自分の疲労がたまってきていることと、一直線の読みが強い相手に生きるか死ぬかの勝負をすべきではないという判断をして逆止め。これにより白は速度、黒は空間で勝負という方針がはっきりした。黒の包囲を嫌うなら、白10は11に打ってくるものと思っていた。それは黒10の三ヒキから一直線の寄りがあるらしい。私は当時全く読めていなかったが、相手がそれを警戒したのか本譜の10に打ってきたのは幸いだった。

黒11~13は黒9を打つときの最初の読み筋。そのときは白14-Aがうるさそうだから黒13-Aと打って完封を狙うつもりだった。ところが黒11を打とうとした瞬間に黒13-Aが三三禁で負けることに気づき冷や汗。(参考図)再び本譜の13を読むと白Aに対して黒が盤面制圧できることがわかり、安心して打ち進めた。

 

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参考図 白30までX点三三禁

参考図のように打って三三禁、もしかしたらもっと簡単な詰みがあるかもしれない。実は第二局でこの順と部分的にほぼ同じ勝ち方をしており、それが打つ寸前の発見につながった。気づいてよかった。

 

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第3図 黒25まで

黒15~21がその手順。上下左右を黒が包囲し不敗の形勢を築いた。白14といい、白22、24などの粘り手順も私の考えていたものと同じで、本格的に感覚が近いのかもしれない。黒25はよほど変な場所に打たなければどこに打っても優勢で、黒としてはいかに勝ち切るかに集中できる局面になっている。本譜の黒25は盤面では狭い場所なのだが、打って損がないこと、仮に勝てなくても上辺や左辺に何かしら効きが残ることが期待できるお得ポイントだ。形勢は明らかにこちら優勢なこともあり、時間攻めと相手の対応を見るのを兼ねて早めに打ち進めた。汪清清は黒25の時点で1時間近く余していたにも関わらず、ここから残り5分になるまで長考。実戦的には有り難い。仮にこちらが最善を突けなくても相手のミスを期待しやすい状況である。この大会は連珠大会としては異例で、トイレとタバコ以外の離席は基本的に禁止されていた。他局の観戦が許可されている連珠では、私は相手の手番のときは歩き回ることが多い。今回はそれができないので、こちらも可能な限り相手の受けを読み切った。このルールは私にとって良いのかもしれない。強制されることでひたすら読みふけるスイッチが入る。ひとしきり読んで恐らく受け無しだろうという結論に辿りついた。こんなふうに相手の受け候補が多い状態から全ての変化を読み切ることは久しくなかった。達成感が大きい。

 

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第4図 黒35にて白投了

白26は受けの手段に窮したことを示す三ヒキ。黒は剣先を一本消されるものの、黒27で攻めがより強化されている。白28に黒29が手筋のミセ手。白30に以下四追い勝ちとなった。

 

今局は挑戦手合い以降の私の連珠に対する在り方を問い直す意味の強いものだった。これからまだまだ大きな失敗はあるだろうが、ひとまずこの対局を良い内容で終えられたのは自信になった。

 

もしも実戦で必勝手順を引かされたら~SOPAI杯七回戦 VS韦振强~

自由打ちの連珠には先手である黒に必勝手順が存在する。それを解決するために、序盤の打ち方に制限を設けようというのが現在のルールの思想だ。そういった性質からか、連珠は答えのある局面と答えのない局面が比較的はっきり分かれている。そして答えのある局面の大まかな特徴として、ドンピシャで正解を打ち切らないと相手に形勢が振れやすい。

 

中国に20日夜に到着。上海から車で3時間かっ飛ばし会場へ赴く。大会ルールは持ち時間90分+30秒フィッシャーという日本国内の名人戦リーグとほぼ同じものだ。対局は朝8時~夜10時半ほどまで、途中食事などの休憩はあるが基本的にはぶっ通しで行なわれる。

対局相手の彼とはネット上ではあるが古くからの仲である。ネット上ではImaycryというアカウントでその名を轟かせており、多くの連珠プレイヤーにはこちらのほうが馴染があるかもしれない。現実での対局は去年の世界選手権個人予選(いわゆるQT)が初で、そのときは私が勝利した。今局は私の提示番だ。私は今大会後半の提示珠型を名月に絞っていた。当然相手からも予想の範疇だろう。それでも好きな珠型で戦い抜ける喜びのほうが大きかった。

 

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(第1図、1235黒:私 4白:相手 7題提示)

彼は程なくして白4を打ち、七題を提示。意外だった。前日の対局で私は汪清清に同型で勝利していたからだ。そのときの黒5(i8)を外すことにして、図の七題を提示した。すぐに黒5とF以外の点が外され少考。心臓の鼓動が速まる。予感通り黒5が残された。いわゆる必勝定石策である。大体の場合、こうした作戦の背景として考えられるのは

①相手を格下と見て楽に勝とうとしている。

②たとえ必勝でも自分が非常に詳しいので嵌める自信を持っている。

③相手をはるか格上と見たヤケクソ突撃。

④何か新手が見つかった。

⑤単に知らなかった。

 

①③⑤はない。この手順は話題を集めている。何も知らないはずはない。とすると②か④。最も可能性が高そうなのは②。こういう作戦選択をするという印象は全くなかった。上手く心理を突かれたということか。高段者になってから必勝策をかけられることが極端に少なく油断していた。こんなことならもっとよく勉強しておくんだったなぁ。

 

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第2図 黒15まで

白12が分岐点。この形自体は渓月からも合流手順があるのだが、盤端関係が異なるため従来の手順では勝てなくなっている。その受けに対しては十分な勉強量があったが、案の定相手はそれを外してきた。必勝策というのは心理戦の面が強く、相手の研究の深そうな場所を回避していくのが基本戦術である。

黒13、15に関しては完全に忘却していた。こんなのはいくら読もうとしても90分程度で答えは出せないので感覚頼りだ。13はよくある急所の位置で、勝つならここだろうなという位置。14はほぼ必然で15は必勝手順御用達の桂馬理論というわけだ。とりあえずここまでを短時間で打ってしまって、相手の対応を聞いていく。

 

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第3図、白18まで

ふと見上げると相手は浮かない表情をしている。私は正しい道を歩んでいるのだろうか。大会三日目で疲労が蓄積している。もはやよく分からないので感覚と相手の表情だけが頼りである。白16なら感覚は勝てそう。黒17白18に対してA以下追い詰めだと思っていた。道のりは長かったがようやくゴールに辿りついたか・・・と安堵していると打った瞬間に受けに気づく。白B。黒が詰ましにいくと四四禁絡みの受けで容易に勝ちが消滅してしまう。かといって他に勝ち筋はない。相手は浮かない顔からいきなり笑顔になり白18。「ここに黒が打っていれば勝ちだったな」嬉しそうに言った。勝ちが消し飛んだことと屈託のない笑顔にむかっとしたが、そこにある盤面が絶対的な現実で途方に暮れた。まあ黒A白Bの交換自体は損ではなさそうだし打ってからリカバリーを考えるか・・・。

 

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第3図 黒21にて白投了

落胆しながら打った黒19に対して彼は満面の笑み。1分ほどで白20に打たれる・・・。白20??これは追い詰めではないか?相手は打ってなお気づいてはいなさそうだ。黒21が相手の剣先を叩きながらのフクミになっており受けがない。彼は21を見て少ししてから事態を察したようだ。笑みから以前の浮かない顔に戻っていく。これは連珠でよくあるフワフワ死という現象で、有利になったと思って気持ちがフワフワ~っとしたところで疑問手または敗着を打ってしまうものだ。局面の形勢が何から何まで彼の顔に書いてあったので、正直な人なのだろう。勝負とは難しい。

 

局後ロビーに行って二人で並べなおす。驚いたことに、彼は白4に対する五珠をほとんど知らなかったらしい。対局前に部屋で神谷君と話していて、まあ準備はされるだろうという読みだったが全くそうではなかった。今大会を通して事前に相手の対策を練ってきたように見えたのは八回戦の李小青戦だけだった。中国は局面の解析を専門とする解析家が多いが、実戦家とは完全に別動のようだ。実戦主体の人は大まかな研究をさらう程度であとは流れというのが多く見えた。国民性なのかもしれない。

 

結果的にとはいえ必勝を打たされたのは久しぶりで、長らく感じていなかったプレッシャーを今の自分が経験できたのは貴重な体験だった。

 

大会結果

更新が遅くなりました。最終日は1勝1敗1分。ひっくるめて5勝1敗3分で3位でした。

 

負けた一局は余裕の受けきりだと思っていたところで緩手を打ってしまい、一気に寄られてしまいました。ただ局面自体は終始相手のほうが打ちやすかったようで、どうやら作戦の見直しが必要らしいです。

 

全体としては、チャンスが来た局面でしっかり打てれば1位まで狙えた内容だっただけに少々悔しくはあります。海外遠征で国内の名人戦リーグとほぼ同じ日程で打つのは私の体力では難しいようで、二日目の後半からわかりやすくバテてしまいました。最終日はミスを連発してしまい、後ろからきた李小青さんに抜かれました。これも私の一面なので、これからどう補っていくかですね。

 

日本としては中村さんを除くと現状では最強レベルの三人が遠征したことになると思います。私、神谷君と岡部さんはここ数年日本では安定的に名人戦リーグシード圏にいます。その三人が出場し、必ずしも上位を狙えるわけではない(全員下位に沈むことも充分ありえた)ということは、ひとまず現状として重く受け止めるべきと感じました。連珠自体の普及と後進の育成が急務でしょう。中国は子供も強く、10歳を超えた子では国内の名人戦リーグに出場しても充分通用するレベルになっています。このままいくと10年後には日本は全く勝てなくなっているかもしれません。

 

私自身の話に戻りますと、挑戦手合いで連敗を喫し自分の強さややり方に疑問を持っていました。今回の大会を通して、結果がちゃんと出るのには時間がかかるにせよ、やろうとしていることや理想はそこまで的外れではないと確認できたのは良かったです。

次はまた挑戦手合いですが、最善を尽くします。

二日目

二日目も2勝1分でした。

 

二局目が難解でしたが有利になる進行を発見でき快勝。最後の対局で長手数の勝ち筋を逃したらしいことに疲れを自覚。省エネのつもりでも削られているようです。最後まで頑張ります。