四追いとフクミ
チーム世界選手権の宿で私は藤田雄大五段と同室だった。彼は国際棋戦初出場に関わらず5割近い成績を残し、去年個人2位である中国の朱建縫に1勝1分で終えるなどその強さを見せつけた。藤田君とは大会の合間合間に練習ということで3分切れ負けや5分切れ負けの連珠をひたすら繰り返していた。以下はそのなかの一局から。
(黒:藤田五段 白:私)
ここに至るまでの経過は省略して、現局面について。黒1は連と剣先を作りながら白の少ない下辺に飛び出す有効打で、白3の三ヒキに対して黒2で先手を取ろうという意図がある。よって白2黒3となって次の手が問題。白Cからの詰み筋がちらつくが、どうやら白に直接的な詰みはないようだ(ということにした)。こういうときは一度受けにいくか何とかして攻めを継続する手段を探すかということになるが、私は後者を選択した。白4は黒AからBと打つ追い詰めを受けながら次に今度こそ白Cから詰まそうということだ。仮に黒Cならそこでまた強い攻めを展開すればいいというくらいの気持ちだった。気分は優勢だったが次の一手で白は木っ端微塵にされてしまう。少し考えてほしい。
(黒5にて白投了)
程なくして黒5が放たれた。私は一瞬硬直し、そのまま投了した。
黒5は以下ABCの四追いフクミ。下辺の剣先が働く絶好の場所に連を作る手だ。受けは色々あるが、いわゆる雰囲気受からない形というもので、特に早打ちでは最後まで読む気がしなかった。
5手四三のフクミというのは実戦では頻出かつ容易な部類である。恐らくこの局面になってから「黒先、四追い勝ちは?」と出題すれば有段者の方なら即答するレベルだろう。それを見落としたのは何故か?端的に言えば、私にとって見慣れてない形だったからだ。
驚く方もいるかもしれないが、持ち時間の短い対局は「読みが滅法速いから強い」というわけではない。むしろ反対で、読んでないから強いのである。読んでいないのに何故強いのか?それは直感だ。もう少し私なりに具体的に言うと、過去に経験した手や形の中から「これはよさそう、強そう」というものを瞬時に呼び起こす練習をしてきているから強い。直感の範疇にない良い手を瞬時に呼び起こして短い時間のなかで打つのは不可能に近いと思う。この対局において、黒5のフクミが私の直感の範疇からは抜けていていた。
私はTwitterで四追いを出題しているが、あの問題の一番の出題意図は直感の養成だ。似たような問題をたくさん解いていると、いざ実戦で現れたときに「あ、この形見たことある!」と感じ取って詰むことができるようになっていく。実戦ではフクミ手を打つことがしばしば必要な故にもうひとつレベルが上がる。フクミ手とは「この形の四追いを作るにはどこに打てばいいか?」ということなので、まずはゴールである四追いの形を押さえる必要があるわけだ。それがある程度できると「この形ではここに打てばフクミになる」が理解しやすく、また抜群に覚えやすくなる。そういう問題も時期に作りたい。
この記事の四追いは、Twitterの四追い第351問補完問題として出題した。私もひとつ新しい手筋を習得できた。
チーム世界戦を終えて~簡単な感想~
このGWに連珠のチーム世界選手権に出場してきた。その名の通り団体戦で、私は大将出場。個人としての成績は5勝2敗1分、チームとしては2位だった。
以下、印象に残ったことを簡単に。
世界チャンプとの距離
現在の連珠の世界チャンプは2017年個人で優勝したSushkov Vladmir(以下スシュコフ)だ。チームとしての成績はもちろんだが、今回の大会に出場するにあたっての私の大きな関心の一つにスシュコフと打つというものがあった。こういう分野に携わっている以上、頂きとの距離を知っておきたいというのは性だろう。実際の結果は2局打ち1勝1敗。私の体感は
・技術的にはほぼ同水準
・相手のほうが精神的に安定している
・相手のほうが体力がある
というものだった。
技術的にほぼ同水準というのは、棋風が似ているからかわからないが、読み筋が不思議なほど合いすぎていてほぼ自分同士で対局するのと変わらないような気分だった。私が強くなるにあたって最も影響を受けたプレイヤーは恐らくMeritee Andoだが、こういうこともあるのだなぁという気持ちだ。精神的には相手のほうが極めて安定しており、局面や体調によって起伏の激しい私とは雲泥の差である。体力も言うまでもない。スシュコフは去年、QTから出場で18連戦を制して優勝した一方で、私は同条件で七位に終わっている。いわば「健康体れんじゅいし」を相手にするようなもので、私がスシュコフを上回るのには時間がかかりそうだ。
中国の強さ
今回際立ったのはなんといっても中国の強さ。彼らは今回2位の我々に5.5ポイント差をつける大勝だった。そのなかでも負けたのは恐らく3局だけ(四将:対小山戦、副将:対藤田戦、大将:対私)という他を寄せ付けない強さを見せた。中国に土をつけることができた唯一の国が日本というのは喜ばしいことだが、総合力の差は否めない。中国は連珠大国で、うかうかしているとどんどん差を広げられてしまう。今後の課題だろう。今回出場しなかった台湾、韓国、マカオも着々と組織的に力をつけてきていて、数年後に全く勝てなくなるという事態は避けたい。
とりあえず帰国後最初の記事はこれくらいにしておく。筆者は現在ロシアでの強烈な食あたりに苦しんでいる。復活したら何か書こう/(^o^)\
【四追い】解答解説【実戦検討】
忘れないうちに解答と簡単な解説を載せる。問題は以下。
実戦検討より。
— 那智暴虐の連珠石 (@nachirenju) 2018年4月21日
黒先、四追い勝ちは?#連珠#五目クエスト pic.twitter.com/5E8htYJe6k
初型観察
(問題図)
この問題のポイントは、二通りの打ち出し筋があるということ。すなわち、ABCからの筋と、DEFからの筋だ。この二つの筋に気づかないと四追い勝ちすることはできない。特にFは気づきにくい点であり、こういう繋がり方をすることは覚えておきたい。あとはノリ手に気を付けながら勝つだけだ。解答をみよう。
解答
(解答図、黒23にて棒四)
いくつかポイントを挙げておく。
①黒19より前に黒9に打つこと
→黒19から先に打ってしまうと長連筋になり黒9に打てない。
②黒17と19を、黒21より先に打つこと
→この手順でいかないと白の四がノってしまう。
注意すべきポイントはこのくらいと思う。この図は実戦検討で出てきた四追いだ。つまり実戦でもこのくらいの四追いが生じる可能性があるということだ。実戦で登場するもののなかでは綺麗に収束する部類で、是非盤に並べてほしい。
実戦型詰む連珠第4問 解答解説
実戦型詰む連珠の解答解説をしていく。問題は以下
【実戦型詰む連珠】連珠(五目並べ)【第4問】
— 那智暴虐の連珠石 (@nachirenju) 2018年4月17日
黒先、追い詰め勝ちは?
(頻出度★★★★☆)#詰め連珠#解けたらRT
過去のブログ出題から未解説問題を引っ張ってきました。一見捕まっていそうですが綺麗に詰み上がります。詰ました経験がないと実戦では諦めがちな要注意型。 pic.twitter.com/bIfjMuxuE5
初型観察
(問題図)
十字型の典型問題。この系統の図の詰み筋は大体決まっていて、黒ABとヒイていき下辺にぐるっと一回転を目指す。この一回転という考え方が発想しにくく、初見ではヒイたはいいもののその後わからなくなって詰めないことが多い。早速詰みを見ていこう。
解答図
(検討図①、白4まで)
まずは黒1、3と打ち白の2、4を強要する。この手順前後は関係なく、黒3から打ち出してもいいのだが、白Bと受けられた時に黒1とヒケないことには注意だ。そうすると白Aと取られてしまう。ヒイていくのではなくフクミから詰みがある。ここでは深く解説しないが、気になる方は探してみてほしい。
さて、ここで重要なのは黒に二本の剣先ができたことにより、A~Dに四で打つことができるようになった。これはこの問題に限らずだが
①三はヒイた方に止めるのが原則
②攻め側はヒイた方と逆側に剣先ができる
③よってヒイた方と逆側に本来の攻めの狙いがある
以上のことは必修だ。見た目からしても本来攻めたい方向とは明らかに逆に三をヒイている場合は「逆ヒキ」という手筋として区別される。この問題ではA~Dの剣先を使った攻めが本命だが、もちろん左上のほうも使う。
(検討図②、黒5まで)
黒5!がこの詰み筋における要の飛び三。この手は先述した狙いが分かっていないと実戦でも発想するのはかなり難しいだろう。そして実はこの手でもう決まりとなっている。白がどこに受けても以下黒には四追いがある。
(検討図③、黒17まで)
せっかくなのでいつものABCDではなく最後まで手順を示した。盤面ほとんど全ての石を利用した四追いだ。美しい。この手順は是非実際の盤に並べて楽しんでほしい。
以上で解説を終わる。この形の追い詰めは、手順だけを見ると意外とあっさり詰んでいる。しかし見た目が桂馬の網に囲まれているように見えるため、詰むということを知っていないと実戦では発想しにくいと思われる。実戦でも類似型は多く出現するので、一勝に貢献できれば嬉しい。
実戦型詰む連珠第3問 解答解説
実戦型詰む連珠の解答解説をしていく。問題は以下
【実戦型詰む連珠】連珠(五目並べ)【第3問】
— 那智暴虐の連珠石 (@nachirenju) 2018年4月16日
黒先、追い詰め勝ちは?
(頻出度★★★★☆)#詰め連珠#解けたらRT
類型を経験した方は多いのではないでしょうか。詰みそうでなかなか詰まない。この局面にはちゃんと詰みがあります。 pic.twitter.com/fnKFSsyW8F
初型観察
(問題図)
問題図でぱっと見えるのは黒Aの三ヒキと、BCと剣先から打っていく筋。こうしたときの原則は黒A初手を先に考えることが大事になる。というのは剣先は打つ順番によってノリ手が発生したり、そもそも打つことによってノリ手が発生することがある。(つまりミセ手やフクミ手を使用しなければいけないとき) 剣先はなるべく使うタイミングを遅らせるのがポイントだ。それでは解説にいこう。
解答図
(検討図①、黒5まで)
黒1に対しては白Aと止めるのが最強。この2では黒5まで打ちAで四三勝ちである。
(検討図②、白2まで)
白2までとなったところが一つのポイント。ここで黒には
①BCと全部打っていく(イモ筋)
②黒Bとミセ手から打つ
③黒Cとミセ手から打つ
④黒Dとフクミ手から打つ
といった選択肢がある。ダイレクトに感覚だけで正解を射抜けるならいいが、何もわからない場合、最初はイモ筋から調べていくのが基本だ。
(検討図③、白6まで)
白6の時点でAに白の三三が発生している。よって黒Bとヒクことはできない。黒Aとヒイても白Bと受けておいて、黒の二本の剣先から遠ざければはっきり詰まない形だ。
よってミセ手を検討することになる。
(検討図④、白4まで)
黒3とミセ手を打つのは白4と止められて以下ABどちらに打っても白に先手でとられてしまう。これはだめだ。
(検討図⑤、黒3まで)
黒3がここにおける良い手段。検討図④と比較すると、ミセ手の焦点Aを受けられた時に、この図では黒の連が活きているのが大きい。こういうミセ手は大体良い手である。黒には以下Bに打ってCDの四追い勝ちが残っているため、白の受けは剣先を止めるAかCに限定される。両方みていく。
(検討図⑥、黒9まで)
白6、8と剣先を作って禁手絡みで受けるのが最強だが黒9までで良い。以下はABの四追い勝ち。白Cの場合は黒Aを保留して黒Bが四三勝ち。白Dの場合は黒Cに石が入るので黒Eで四三勝ちとなる。白に受けはない。
(検討図⑦、黒9まで)
白4には黒5とT字の追い詰めが完成する。白6には7から9で以下Aで四三勝ちだ。白6でAなら黒CD8の四三勝ちがある。いわゆるH型の詰みだ。
以上、無事に詰んだので解説を終える。この問題のポイントは黒3のミセ手だった。類似型は数多く出現する。実戦で活かしてほしい。
終盤の研究②ー①
今回も終盤の研究をしていく。
(テーマ図、黒番)
今回扱うテーマ図はこの局面。疎星などで時々出現する局面だ。この局面を設定する条件として
①絶対的な黒の手番
②十分な攻めスペース
の2点がある。ある局面から黒が勝てるかどうかを確かめるのには基本的な条件だ。
さて、この局面では一見黒Aが目につく。剣先を二本同時に作る基本に忠実な手。まず打ちたくなるだろう。しかし、私の調べたところでは黒Aは勝ちに至れない。その変化から見てみよう。(もしこの記事を読んで黒勝ちを発見された方がいた場合はコメントをくだされば検証、修正致します。)
(第1図、黒1まで)
受けを考える際の基本は
①外側に周る
②相手の連か剣先を止める
③自分の連か剣先を作る
が挙げられる。このなかで少なくとも二つは守りたいところで、そうなると候補はAかBになる。特にAは三つ全てを満たしている。これらが満たされている=最善というわけではないが、「実戦的」「無難」と捉えてもらいたい。実際にこの局面ではABの二か所意外は黒勝ちになる。
(第2図、白4まで)
黒3は連と剣先を同時に作る手で、黒1との連携もよく非常に効率の良い攻めだ。受け間違えると忽ち負けてしまう。白4が絶対手。黒の剣先を叩きながら自分も連を作り、黒の斜め連も間接的に受けている。白の既存の斜め連との連携もよく、即反撃できる格好だ。黒の継続手も限られてくる。
(第3図、黒5まで)
攻めを継続するなら黒5の一手だろう。白の連に付き合っていては攻めが切れてしまう。この手で連と剣先を補充しながら白の連の動きを制限している。牽制と呼ばれる手筋だ。白は単に受けにいく手段が間に合わないので、連を使いながら先手で受けにいくことになる。自由に使えるのは斜め連だが、ABどちらに打つか?
(第4図、黒9まで)
白6はテクニカルな受け。なぜなら黒7と止める手によって連を二つ作らせてしまうからだ。しかし同時にX点とY点が三三禁になる。この点を打てなくさせ、急所の8に剣先を作りながらもぐりこめば勝てないだろうという算段だ。しかし悲しいかな、黒には妙手がある。黒9と止めておくのがそれで、この手自体は止めているだけだが黒に四追いが発生している。白は今度こそ万事休すだ。
(第5図、黒13まで)
白10はいわゆる最後のお願いで、黒が11と打たなければ先にここに打って凌ぐことができる。よって黒から先にここに打つのが正解。以下はABの四追いとCの四三勝ちがある。白に受ける術はない。
長くなりそうなので一旦ここで記事を区切る。
終盤の研究①ー③(余談)
この記事は本筋とは関係ないが、個人的に興味深かったので残しておく。
(第1図、黒5まで)
白2には黒5ーAから追い詰めであることは前の記事で述べた。(以下)
では第1図、黒5と三をヒクとどうなるのだろうか?白の受ける候補はAもしくはB。両方良いのか、あるいは両方駄目なのか、片方だけ良いのか・・・?
(第2図 白8まで)
結論からいえばこの三は逆から受けるのが正解。この6では頓死してしまう。(正確に言うと追い詰めではないのだが)
私はこの記事を書くまでは黒7に対して白8で受かっていると思っていた。しかし実はここでは黒に局面を打開する手段がある。是非覚えてほしい。
(第3図 黒9まで)
黒9が妙手!よく見るとこの9は8と4から桂馬の位置にある。桂馬の網を破る+連には本当に良い手が多い。
この手自体は次に黒Aあるいは黒Bに打っての両ミセを狙っている。二通りの詰みを見ているというわけだ。通常二通りの狙いを残されると受からなくなる。白としてはAと打つのが三ヒキの先手を取る手で、それしかない。
(第4図 黒15まで)
白12が剣先を作りながら精一杯の抵抗だが、黒13とヒイて白14を強要し、黒15と止めておいて勝ちになる。この手自体が以下ABのフクミ。加えてCFA、CDEの追い詰めも見ている。白は同時に受ける術がない。
この黒9は勝ちだと知っていないとなかなか実戦では発想しにくいと思う。詰み形自体は類似型はたくさんあるので役立ててほしい。