連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

実戦型詰む連珠第2問 解答解説

実戦型詰む連珠の解答解説をしていく。問題は以下

 

初型観察

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(問題図)

この問題は詰み筋自体は分かりやすい。黒ABCとどんどん打っていくのがほぼ唯一の攻め筋だからだ。一方で詰みの最終図が初型からは見えにくいのが難点だろうか。この系統の形はほぼ全てが同じ詰み筋なのでこの問題で覚えてほしい。例外としては形によって黒Cのミセ手からいかなくてはいけないことがあるくらいだ。

 

解答図

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(解答図①、黒5まで)

黒5までは一つの手順で、白6でA、Bの分岐がある。一つずつ見てみよう。なお白2でCは同じように打ってより簡単に詰む。

 

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(解答図②、黒9まで四三勝ち)

 

白6に対しては7とヒキ、9で四三となる。平凡な詰み筋だ。初型で7の場所に白石があったり、この四三のラインに白石が配置されていると詰まない可能性があるので注意したい。

 

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(解答図③、黒7まで)

この白6のときは黒7とヒイて以下ABの四追い勝ち。なおこの筋でなくても黒CDEの詰みもある。これは解答図②でも通用する手順なので押さえておきたい。こちらの場合は黒Eから打ち出すと白の三が当たってややこしくなるため、CDEという手順で覚えるのが確実だろう。

 

以上で解説を終える。この形は実戦出現率が極めて高いので覚えれば勝率UPにつながりやすい。

 

 

 

 

 

 

棋譜並べ② 梅凡VS姚宇杰

 

今年の4月、中国で全国五子棋団体賽という大会が開催された。この大会のルールは題数指定打ちで、現行の世界選手権採用ルールである四珠交替打ちのひとつ前のものだ。とはいえ、参考になる棋譜が多いのでしばらくこの大会の棋譜を並べていこうと思う。

 

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(第1図、黒5まで 黒:梅凡 白:姚宇杰)

 

局面は丘月からのスタート。丘月は四珠交替打ちでほぼ唯一確実に旧型に誘導できる珠型としてかなり脚光を浴びているため、この戦型の理解を深めておくことは大事になる。黒の梅凡は昨年の世界選手権ATにも出場した強豪で、中国のトッププレイヤーの一人。周到な序盤研究と卓越した受けの技術が印象深い。対する姚宇杰は国際的には無名だが、棋譜を見ている限りでは受け棋風のようだ。この大会に出場している時点で強いことには違いない。

黒5は何十年も前から打たれている形で、未だ結論が出ていない。こういう形は連珠では珍しい。数多の新定石が生まれる中、現代の研究スピードではその寿命は数時間とも一日とも言われる。この形については持久戦調、急戦調、ハメ手調とそれぞれの分岐について変化が富んでおり、どうとでも打ちやすい。長い歴史がある分経験値や事前の研究量も大事だが、当人の大局観が重要になりやすいため、特に力戦調を得意とするプレイヤーに重宝される。この作戦を採用した梅凡に関しては、特に黒番を持つときには何かしらの準備があることが多い。

白6では早くも分岐がある。最も多いのはAで、この手は最善とされている。Bは初見ではここに打ちたくなる方が多いように思うが、黒有利が定説となっている。白C~Fはハメ手調で、以下極めて難解ながらも黒勝ちになるとされている。トップレベルでは通用しないが、練習対局や短い時間の公式戦で採用するのは戦術としては有効だろう。

 

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(第2図、白10まで)

黒7はAが最多。この7も一つの選択肢だが、これは一般的には白打ちやすいと見られているようだ。黒7で8に打った対局も大会中にあるので、後日並べていく。白8は必然で黒9がまた珍しい。最近の流行りでは黒9はBがよく試みられていて、この9は黒打ちにくいということで下火になっていた。つまりこの時点で黒には何かしらの準備があることが確定したといっていい。当然の10に対して、黒はどう出るか。

 

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(第3図、黒15まで)

黒11~15まで研究を披露した。元々黒11では13が多かったが、それに対し白Gという進行を梅凡は好んで打っている。具体的な善悪は分からないが、その進行は白有利ということなのだろう。黒を持ったときの対策が本譜というわけだ。この進行は短期決戦を睨んでいる。直接的には黒ABCの四三勝ちがあり、上辺での黒模様が強力だ。白は打つ手が制限されている。黒の連を白DやEから解消していくのか、あるいは多少怖いが白Fとしておいてこの連を反撃にとっておくのか。本譜を追ってみよう。

 

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(第4図、黒21まで)

白16~18という手を選択した。これは部分的には最も堅く見える手で、このあたり棋風が表れたか。相手の研究を警戒したというのもあるだろう。黒19は11との連携が良い手で、自軍の受けの役割も果たしながら相手の受けを難しくした。白20はこのパターンにおける急所の位置で、類型でもここが最善となることが多い。黒21と平凡に叩いて分かりやすく受け無しになった。なお白20でAには黒Bが手筋の寄せだ。白20では駄目かもしれなくてもCとヒキ、黒Dを強制してから受けにいったほうが紛れがあったと思う。

 

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(第5図、黒25にて白投了)

白は24と慌ててヒイたが、25がフクミとなって時すでに遅し。以下はABCの四追いとDEFの四三勝ちがあり、同時に受ける手段がない。投了もやむなしだろう。

振り返って白は、16で17と三をヒキ乗り込んでいくか、23で反発を狙うかを選ぶ必要があったのかもしれない。

 

新手を出すと研究している側はかなり勝ちやすいのに対し、受ける側は初見で対応策を考えなければならない。そのためこうした大差になることが珍しくない。この大会中まだいくつか黒15までの進行があるのでまた追っていこう。

 

 

実戦型詰む連珠第1問 解答解説

Twitterで出題した実戦型詰む連珠第1問の解説をしていく。問題は以下。

 

初型観察

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(問題図)

ある形における詰みを考えるとき、初型からある程度の道筋を立てておくのが重要だ。早速見てみよう。

黒には剣先が二本、連が一本ある。これらは全て上辺に向いている。通常、このように三本以上の連または剣先が同じ方向の攻めに利いているときは詰みが存在すると見るのが自然だ。もっと言えば、二本でも詰みがあることが多い。この場合では上辺の盤端が近いので、どれか一つの剣先が消えると詰まなくなる可能性が跳ね上がるが、一般論として連または剣先二本≒詰みとみていいだろう。

さて、詰みに必要な手、つまり追い手には「活三、四、ミセ手、フクミ手」の四種類がある。間違えにくい方法論として、最初は「活三と四だけでの詰み」(イモ筋と呼ばれる)を考えるのが確実だ。仮にこれが相手のノリ手で勝てなかった場合、ミセ手やフクミ手を使用して問題解決を図るのが一般的な手段となる。実際に試すと分かると思うが、この方法論は確実だが時間がかかる。よって実戦的には「この形はこの手順で詰み」と覚えてしまうことが多い。いわゆるチャンク化である。この解説でもイモ筋から見ていく。

 

解答図① 基本手順

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(解答図は黒9まで)

 

黒1~黒9と全て打ってしまうのが最も分かりやすい手段であり、この問題では恐らく唯一の勝ち筋だろう。この手順は類型でほぼそのまま現れやすいので第一検討手順である。図以下は白Fなら黒AB、白Bなら黒CDEの四追い勝ちだ。途中、黒5で6に打ちたくなる方が多いのではないだろうか。それはそれで魅力的なのだが、この場合交換で白5と受けられてしまうと縦の連が夏止めにされてしまうため続かない。要注意だ。

 

解答図② 白の強防

 

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(解答図② 白6まで)

白6と受けるのがここでの強防。黒の剣先が前図より一本増えているので一見弱そうに見えるが・・・

 

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(失敗図、白14まで)

先と同じように打っていくと黒13までの四三に白14の四がノッてしまう。冒頭で述べたノリ手の登場だ。ここでミセ手、フクミ手の出番である。

 

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(解答図③ 黒7まで)

ミセ手、フクミ手を打つときの要点は

①打たなくてもいい四はなるべく省略する。

②一度に複数通りの四追いを残す。(フクミ手のみ)

③ヤグラ、クラ、クギオレといった好型に組みながら打つ。

以上が効果的なミセ手、フクミ手を打つための簡単なポイントだ。

 

①について・・・ この場合、前図では黒Aの四をノビていったのでこれを省略して黒7とフクんだ。仮に白Aと打たれて勝てなくなった場合、次は黒A後黒7というように検討していく。駄目なら黒7を変えるという手順だ。

 

②について・・・ 図からは黒ABCD、黒AEFGHの二通りの四追いがある。一度に複数通りの四追いを残すと相手の受けが難しくなる。この場合、四追いだけでなく黒DAという追い詰めも残しているのでさらに厳しい。

 

③について・・・ 好型に組むと正解手の率がかなり上がる。これは最優先だろう。本図ではヤグラに組んでいる。

 

全てに当てはまる必要はないが、一般的にはこの中の2つ以上当てはまると好手率が高いだろう。以下はさほど難しくないが、もう一図だけ加える。

 

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(失敗図② 白14まで)

白8が最も間違えやすいだろう。黒9、14と打つだけの四三が見えるのでつい飛びつきたくなる。だがここで黒9と打つと白10~12で長連筋にされてから白14と受けられて黒勝ちが消滅してしまう。これは事件だ。

遡って黒9では10と先に飛び三を打ち、この長連筋を先に消しておく必要があった。最後まで油断は禁物である。

 

ここまでで正解手順の解説を終える。以下はよくありそうな失敗図について述べる。

 

失敗図

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(失敗図③、白8まで)

 

黒1、3、5と打っていき先手で十字型に組むのは好感覚。しかしこの場合は空間が足りない。黒7に白8が成立するのだ。

 

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(失敗図④、黒11まで)

 

黒11まで打ち、次に白Dと受けられても黒ABCの四追いで勝ちに見える。ここでは白に常套手段の受けがある。次図に載せるが、分からない方は少し考えてほしい。

 

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(失敗図⑤ 白16まで)

 

白12!がびっくりするようだが手筋の飛び四で、この筋を長連にすることで黒の四追いを消している。黒は15で一度先手を取るものの後が続かない。これは頓挫している。

 

以上で解説を終える。全変化を網羅したわけではないが、残りの変化は比較的容易なので検討してみてほしい。実戦での出現率が比較的高い形なので、研究しておけば勝率UPにつながるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

棋譜並べ① 祁观VS林劉民 ~剣先の使い方~

棋譜並べの記事を書きたい!そう思った。思い立ったが吉日というやつである。早速やっていこう。今回紹介するのは2017年世界選手権ATで打たれた祁观VS林劉民の対局だ。紹介にあたって、互いに競った接戦よりも片方の快勝のほうが見ていて爽快感があるだろうということで、そうした棋譜の選択をしている。本局は黒の快勝である。

 

総譜

www.renju.net

 

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(第1図 白14まで 示黒:祁观 4白:林劉民)

 

白4黒5となったこの形は、過去の世界選手権でも前例がある。白6は是が非でも7の場所に三をヒキたい。黒7と打たれてしまうと白石が完全に分断されてしまう。前例でも6では三をヒイている。白8はやむを得ないのかもしれない。例えば白8で10の飛び三は黒11と止められさらに黒の連を増やしてしまう。かといって白11と飛び三をすると黒に追い詰めがある。本譜白8は外側に周る+連を補充するということで、基本的な手だろう。

黒9からどんどん打っていくのは一見やりすぎに見えるかもしれないが、この場合は効果的だろう。というのは、盤面全体を見た時に右側が最も攻めるにあたって面積が大きい。その広い場所に黒の剣先が向いている。左辺にある黒の二本の連と剣先も攻めに参加してくる可能性がある。仮に攻めを失敗してもここを利用して受けに周る選択肢も出てくる。手番は黒にあり、現状白には思わしい有効打がない。局面としては黒の作戦勝ちと言えるだろう。

ただ、ここからが難しい。黒には莫大なスペースと外側に向く剣先一本。条件はかなり良いが制約が全くと言っていいほどないため漠然としている。実戦的には制約がある、厳しい方が理詰めで好手を射抜きやすい。こういう局面は力が問われる。

方針としてとりあえず大事なのは黒の剣先をどう使うか。具体的には

①この剣先で直接四三勝ちを目指すのか

②この剣先を攻めの拠点として使い発展させていくのか

に分かれる。本譜を追ってみよう。

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(第2図、黒17まで)

 

本譜は②を選択した。黒15は部分的には雲月の定石で登場する形で、とりあえず打ってみたいところである。この手は直接的にはAとの連携を狙いながら、実は左辺からの攻めも視野に入れている効率の良い手だ。(参考図) 仮に白16でAなら黒16ともう一手追加してこの場所での逃げ切りを狙う。「二手連打」は寄せの常套手段だ。白16は盤面の端に追いやられているようで癪だが仕方がない。

黒17は凄い手。私には打てない。「打てない」で終わってしまうのでは成長がないので考えてみよう。先ほど黒15は雲月定石で登場すると述べた。その定石では黒17ではBと打つ。あるいは類似型でCと打つ手順もある。雲月定石の形という頭で打っているので、その二つ以外思いつかないということだ。また、この二つの場所は黒15の石に近い。「直前に打った手と近い場所から好手を探してしまう」という心理的な問題もあるだろう。

一方でこの黒17が登場したのには別のアプローチから局面を考察したと考えられる。つまり黒Dとの連携だ。次に黒Dから攻めていく手が魅力的な手段なため、そう考えると17が視野に入るのだろう。この手自体は連も作っており、盤面を広く使っているので打つのに精神的抵抗もない。初めから「黒の剣先を最大限活かす」という思想で読んでいたものと思われる。私のように部分的な知識による先入観にとらわれず、局面そのものをフラットに見るとむしろ自然な手かもしれない。こういうのは形を勉強して強くなった人の弱点ともいえ、私にとっては一つの課題だ。

この局面を精査したところ、17では黒Cで完全な勝ちのようである。ということは本譜の17は次善かそれ以下ということに理論的にはなるのだが、それは大した問題ではない。黒C以下は一つ間違えば終わりの綱渡り。対して本譜は最善でこそないかもしれないが、この攻めが切れるとは考えにくく実戦的な勝率をかなり望むことができる。連珠は比較的最終的な結論を研究しやすいゲームであり、それゆえ最善以外は切り捨てられやすい傾向にある。理論的に突き詰めるという意味では正しいかもしれないが、人間同士の勝負ゆえこういった発想は今後大事になってくると思う。体系化できればいいなぁ。

 

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(参考図、白16で変化、黒23まで)

 

黒17と打たれ、右辺だけに気を取られていると左辺から詰みが飛んでくる。この筋があるゆえ白16では本譜の場所がいいだろう。

 

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(第3図、黒21まで)

というわけで白18。黒は一手遅れて19と打った。祁观の連珠を見ていると、一手遅らせて好点に打つという打ち回しが多いと思う。手広く攻めるコツだろうか。

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もうひとつ黒15、17、19で構成されるヤグラとは一路離れたこの形を中国では好んで打つ人が多い気がする。日本でのヤグラのように体系化された定石があるのだろうか。研究してみる価値がありそうだ。先の黒17はこの形を作る布石と見ることもできる。

白20は18と連携した桂馬の網を意識した受けか。黒21が黒19と筋を違えたコスミで好手。このように既存の直接の利きとは少しずらして攻めを追加するのは連珠ではよく現れる。一つの手筋と見るべきだろう。白22では広い方からAと受けたいが、そうすると黒Bと連を三つ作られる手が強烈だ。元々の連も含めると四つあり、これは受け切れない。よって受けるならBやCだが、今度は中央へと手を進めることができる。上手い打ち回しだ。

 

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(第4図、黒35まで)

白22は先に述べた急所の位置だが、連を受けていない、またしても盤の端からの受けなので苦しい。黒は一連の攻防で連を二つ稼いだのでそろそろ仕上げに入る。黒23が目に見える好点で、今度は露骨に打っていった。このあたりのギアチェンジはさすがだ。白24は剣先を止めないという非常手段気味の受けだが、善悪はどうなのだろうか。白は残り1分で投了しており、想像するにこの局面では既に秒に追われていただろう。調べたところ白26が決定的な敗着のようだ。黒27から一気に組まれ、黒35まで全軍躍動し受け無しとなった。ふんわりした中盤からいきなりまとめる打ち回しは本当に凄い。

 

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(第5図、黒45にて白投了)

白36は最強の受け。そして黒37がこの連珠を収束させる最後のピース。美しい。以下投了図まできたときに、黒A、Bで四三がある。黒Aの飛び三を打つための37というわけだ。白38と、この筋に利く剣先を作って粘るも黒39で切られてしまう。投了もやむなしだろう。

 

一局を通して、黒の卓越した構想力が光った。祁观は2015年の世界チャンプだが、やはり強い。本局は黒の作戦勝ちで、経過を追うだけだと黒の圧勝に見える。実際にはいくつもの難解な変化がちりばめられており、ゴールにたどり着くのは容易ではない。白もかなり粘っこく打ちまわしたが、さすがに初期値が悪かったか。この攻めを味わってほしい。

 

 

 

 

三ヒキ主体の連珠におけるポイント

先日いっぷくさんで連珠に関する講義をさせていただいた。その中で「三ヒキは将棋で言うと銀損(捨て)に相当する」と言及した。それにより三ヒキ恐怖症になる方や、「強い人は三を引いているのに何で?」と思われる方があっただろう。その疑問はもっともである。五目クエストでちょうどいい題材が出たので、三をヒキまくる連珠のポイントについて簡単に紹介する。

 

総譜(掲載許可はいただいております、ちなみに相手はぴえこ先生です。ありがとうございました。)

questgames.net

 

三をヒくというのはそもそも

 

①詰み、もしくは勝ちが存在する

②受けるために必要

③相手に変化の余地をなくす

④先に打たれると痛い

⑤利かし

 

のいずれかのときである。

基本的には①⑤が攻め、②③④が受けの意味合いを持っている。

 

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(実戦図、黒17まで)

この図では黒7には②、黒11、黒13には④と⑤の意味合いがある。

 

黒7は白から先に打たれてしまうと詰まれる可能性まである要所。白8と釘折れの好型に組まれてしまうのは癪だが仕方がない。

黒11、13は白から打たれるとほぼ先手をとられながら外側に回られてしまう。こういうときはやはり三を引かざるを得ない。その分黒の攻めも盤面の上下両方に利いてくるので悪いことばかりではない。黒17と相手の連を止めて一段落。

 

ここでは既に白の石が外側に回りつつあり局面は黒忙しい。現状白から速い攻めはないものの、黒の攻めが止んだ瞬間に反撃態勢を整えることができる。局面の主導権(手番)価値が非常に高い。

これが三をヒキまくる連珠においては最重要で、他の展開に比べると手番の価値が跳ね上がる。多少細くてもいかに攻めを繋げるかが大事だ。

ここからの黒は相手の手を見て

①本気で勝ちに行く

②攻めながら盤面を埋めて引き分けを目指す

というどちらかの選択肢を採ることとなる。

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(実戦図、白18まで)

白18を見て私が採ったのは①だ。最大の理由は黒A白の桂馬の網を破壊しながらかなりの好型に見えるからである。ただしただ黒Aと打っても白Bと止められて大したことはない。そこでこの場所は決め手として残すのが当面の判断だ。

 

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(参考図)

黒の縦の連を下に三ヒキしたとき、赤いラインの攻め筋が生まれる。さらに左辺には黄色のラインが元々ある。この両者が交わる青色と緑色のラインの攻めが発生する。これを上手く組み合わせれば勝ちクラスまでいくのではないかというのがその場の判断だ。あとは伝家の宝刀黒Aをいつ発動するか(あるいは見せ札にして他の手で勝つか)にかかっている。

 

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(実戦図、黒23まで)

 

19、21と決めたのは先の攻めを見越してで、23は単調かもしれないがとりあえず攻めが繋がる形にはなったと思われる。この手は受けの役割も果たしており、将来的に白に手番が渡ってしまっても最も広いスペースであるこの近辺に黒石が配置されていることは役に立つ。

 

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(実戦図、黒27まで)

 

白24はまず打ちたくなるところで、黒25も時間の短い五目クエストではこんなところだろう。これも白の桂馬の網を破壊しながらの攻めであり、勝ちに行くときはしばしば効果的だ。25の場所は白から打たれると剣先になるので、それを先受けする意味もある。

白26となって待望の黒27で、これは最初の狙いが成就したらしい。どうやら本当に受け無しのようだ。

 

これは上手く決まったが、仮に受け切られてしまうと黒は完全に崩壊してしまう。一般に三をヒキまくる連珠は打ちこなすのが難しい。細い攻めを繋いでいく技術が肝要だ。

 

まとめると

・三をヒキまくるときは手番(主導権)が命

・実行する前に勝ちに行くか引き分けを取りに行くかの方針を決めるべし

 

皆様の勝率に少しでも貢献できれば嬉しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

持ち時間と攻守

入浴中に考えたこと。

 

とある言説で「連珠は持ち時間90分が適切である」というものがあった。持ち時間が長すぎると、読みが速い者がその長所を活かすことができない、がその主張だ。最近まではうんうんそうだなぁと思っていたのだが、ここ数カ月で変化があった。つまり

 

「連珠は持ち時間90分が適切」→「連珠の持ち時間は少なくとも5時間以上が適切」

 

という風にだ。もちろんこれは運営上の都合だとかを除外して、「純粋に連珠として最高のパフォーマンスを両対局者が出し合うにはどのくらいの時間が適切か」という観点からのものであり、こう考えるから実際の大会の持ち時間を変更すべきと考えているわけではないことを記しておく。

 

ほとんどの連珠においては片方が攻め、もう片方が受けという攻守の分かれが発生する。ここで大事なのは

・攻め側はミスをしても一撃で(理論上)負けにならない

・受け側はミスをすると一撃で負けになりうる(多い)

・攻め側は受けにいくタイミングを選ぶことができる

・受け側はタイミングを選べない

・理論的な形勢は、見かけの攻守が一方的でも互角に保たれていると思われる局面が多い

ということだ。

 

ミスの比重が大きい受け側は、多少、あるいはかなり形勢がよくても一回のミスが即死につながるため油断できない。一方の攻め側は多少損してでも攻めまくって駄目なら引き分けを取りに行くほうが実戦的な勝率を望むことができる。持ち時間が短く細かい判断をする余裕がない状況においては、攻めている方がかなり有利になりやすい。

 

「持ち時間内で理論的に悪くても強引に攻める選択肢を採ること自体も実力」という話はあるのだがそれは実戦的に勝ちやすい手を選択する技術であり、理論的に互いが「精度の高い棋譜」を作り上げるという路線から逸れてしまう。「勝負」としては持ち時間が短いほうが勝負としての総合力は試されるが「連珠」として、質の高い棋譜を作り上げる能力は持ち時間が長い方が試されるのではないかと思う。この辺、実際の大会運用の仕方や、そもそも何のために競技会をするのかという話になるので使い分けは難しいが・・・。

 

などと湯船に浸かりながら考えていた。

 

 

 

 

Yixinについてのメモ

連珠には検討用のフリーソフトでYixinが有名だ。以下でダウンロード可。

http://www.aiexp.info/pages/yixin.html

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起動するとこんな感じ。(デフォルトでは盤と石の画像が違うが。)

このYixin、現在では2017年版までリリースされている。(今年の5月に2018版が出るようだ。)

ただし2016年以降のYixinは現状「デモバージョン」であり、対局のみすることができる。評価値を見たり、その他読ませる場所の指定をすることはできない。これを起動するにはpiskvorkというソフトが必要だ。ダウンロードは以下から。

 

http://gomocup.org/download/

 

五目クエストでの持ち時間を想定した推定棋力は

 

Yixin2015=R2200近辺(一手10秒程度)

 

Yixin2017=R2400以上(私=R2350近辺より強いのは確実)

 

と思われる。もちろん、持ち時間を長くするとまた変わる。

検討用に使う上でYixin2015とYixin2017の違いは私の調べたところ

 

・読みの速さ(Yixin2017が圧倒的)

・詰み周辺の精度(Yixin2017も一直線の寄りや詰みは結構間違える。)

・全局的な攻防

 

であるが、Yixin2015の考慮時間を長くするとYixin2017の手と8割ほどは一致する。

推奨の考慮時間はYixin2015では少なくともDepth15以上、理想はDepth17以上だ。

 

ここまでYixin2015がコテンパンにやられているようだが、現状ではこちらのほうが優れている点もある。それは

 

・評価値を見られる

・読み筋を見られる

・読みの候補手数を増やせる

 

これは正規版ゆえのアドバンテージだが、実際のところ大きい。特に3番目を重宝する。Yixinのコマンド欄に「nbest N」と入力すると候補手数がN個になる。

ここまで踏まえて私が推奨するのは

 

①基本的にはYixin2017を使用する。

②わからない局面が出てきたらYixin2015に同一局面を読ませて評価値と読み筋を確認する。

③納得できない場合はYixin2015のnbestコマンドで候補手数を増やす

④さらにそれをYixin2017に打たせてみる。

⑤②に戻る。

 

参考になれば嬉しい。