連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

着手と視線ー思考の内と外ー

人間の打つ連珠の傾向として、直前に打った手、打たれた手の周辺に注目してしまうというものがある。これは棋力が上がっていくにつれ減っていくのだが、それでも完全には0にできない。

 


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図は私の白番。白4は自由打ちの隙を突く奇襲。白12まで、何かあれば負けるだろうとは感じながらも、そこまで簡単ではないと思っていた。ところが黒13が妙手。全然読んでいなかったので変な声が出てしまった。この手は以下AB、CDE、FGI の3通りの詰みを残した手で、当然受からない。普通ならここで投了なのだが、こういうのを全部投げているとクエストの性質上レートが減る一方なので粘りに出る。

 


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白14と右辺から受ける。この手は黒AB白C黒Dと打ったときに白Eと先手で四三を止められる。加えて黒Fを単純に受けている。最初の図の左辺からの詰みを実は全く受けていないのだが、これは見なかったことにした。というのは相手の想定される読み筋はこの2通りであり、白14がこの右辺の手なので一瞬でも視線が右辺に行くことが予想される。そこから落ち着いて読みを左辺の、それも別の詰み筋へと切り替えるのは短時間では難しいだろうという判断だ。

 


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なお、黒15では図のように四と三でノリ手を切られるだけで負けているのだが、この筋も実戦一番発見することは難しいだろう。人はノリ手を目にしたとき、通常それを解消するよりも先に「うっ」となって思考が停止してしまう。そこで淡々と解消手段を模索できるのは非常によく訓練された人間か、もしくは余裕があり冷静なときである。

 


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残り1分ほどまで長考して黒15。これはこれで負けていそうだがまだはっきりしたわけではない。粘ろう。

先述の詰み筋を受けるなら白Aだが、黒Bで終わっていそうだ。そもそもミセ手を打つときは焦点に対してだけは読んでくることが多いので、はっきり受けきりかわからない以上は打ちにくい。白16は先述の詰み筋をほとんど受けていないが、この黒15を打ってくるということはその詰みは思考の外側にあるだろう。実戦的な有力手だ。このように相手の着手からおおよその読み筋が透けることはかなり多い。

 


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結果としては黒25までで受けきりが確定したが、この手もABCD26という四追いを残しているので油断ならない。いわゆる死んだフリである。白Dから詰みだろうが、この26は万が一にも頓死しない手順を選んだ。以下は勝利。

 

視線の動きは意外と着手の内容に大きな影響を与えている。いままで意識していない場合はこの機に注目してはどうだろうか。

 

 

速度の見極め

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図は明星の古くから存在する序盤。白6ではAが定石とされている。この局面で黒にAと打たれると、縦、横、斜めで合計三つの連が発生してしまう。無論詰みを残しているため、これだけでいきなり受け無しになる。連珠は一般的に二つの連が出来た時に追い詰めが発生するため、いきなり相手に三つの連を作られると負けになりやすい。自分の手番で受けることのできる相手の連は通常一つであり、残り二つが野放しになってしまうからだ。白6をAに打つのは、局面の急所に先着しながら自らも連を補充する攻防手で、自然な着想といえる。

ところで、この局面を見た時に次のように考える人は多いのではなかろうか。

「確かに黒Aは打たれると困るが、今は白の手番なので白から先にBと強襲を仕掛ければ良い。」

 

この考え方もまた棋理に適っている。但しそれだけで局面判断を下すと低くない確率で痛い目を見る。以下の手順を追ってみよう。

 

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黒7で連を作り返されたが、まだ大丈夫。白8はもちろん先手だし、黒9に対して白10で黒の連を完全に消去した。白のほうはABCなど攻めの手段に困らない。なんだ、こんな簡単に白が勝つのか。わざわざ最初の図で受けに行く必要などなかった。そう思ってフワフワしていると次の手で現実に帰されることになる。

 

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黒11。以下ABの四追いフクミである。白石は全く下辺の受けに効いていないのでもちろん受からない。実戦では黒9となった瞬間にあっと気づき、白Aと受けに行く人が多いと思うが、それも時すでに遅し。黒C以下一手一手だ。

ここにおいて黒は、冒頭で白が採用した考え方「相手に良い手があってもこちらから先に攻めることができれば関係ない」を用いている。最初は白が速かったように見えたのに、終わってみると黒のほうが速くなっている。こういうことは連珠にはよくある。速度の善し悪しを判断するには「ひとしきり斬り合った後にどちらが主導権を握っているか」が大事になる。そんな先まで読めないという場合は、やはり冒頭で示したような攻防手でじっくりと戦うのが無難だろう。

注意すべきYixinの挙動

検討時には非常に便利なYixinだが、万能ではない。深く研究してみると、Yixinでもしばしば判断を誤ることが分かる。

 

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図はYixinのDefend機能を使った受け候補探索の評価値表示。-10000という数字はその局面に受けがないことを意味する。(非常に少ないが例外も0ではない。また別記事で) 通常-10000の評価がでるとき、-50→-120→-170→-135→-220→-250→-10000 のように、細かい上下を繰り返しながら必敗判定をするのが一般的である。ところが上図では-115からいきなり-10000になっている。こういうことは検討しているとしばしば起こる。

このような急激な数値の上昇はYixinの見落としによるものだ。それまでは楽観的に見積もっていたが、ある手を発見した瞬間に急に反省する。まるで人間のようだ。機械でも同じようなものらしい。こういったケースはどういうときに発生しやすいのか。実は明らかな前兆がある。

 

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この図はある局面でのYixinの評価値を示している。まず評価値の値がDepth5から13の間において、157と全く同じ数値。そして読み筋を見てみるとG10の一手先しか読んでいない。このとき、別の手を入力してそれが必勝だと一番最初の図のような評価値推移になる。一手先しか読んでいないのは盤上この一手というわけでは決してなく、単にYixinがそこしか読んでいないということだ。その場所以外に有力手が落ちていることはかなり多い。この動きをしたらYixinを疑ってかかるべきである。

疑ったはいいものの、具体的にそのあとどうすればいいか。強い人の場合は自分が思う最善進行を入力してYixinの評価を見るのが確実だ。仮に局面判断に自信がなかった場合、候補手を増やすという選択肢がある。Yixinの右下にある入力欄に「nbest n(数値)」と入力してエンターを押すと、Yixinの第N候補までの読み筋を見ることができる。

 

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上図は「nbest 3」と入力した例。このように表示される。候補手の場所だけを見て、改めてその場所に打たせて読ませてみるのが効率的だと思う。

他にはそもそも追い詰めや一直線の勝ちを読めていないことがあるので、追い詰め検索(VCT)や全勝ち検索(VC2)で先に調べておくと、大きな間違いは減るだろう。

心の準備

月末に珠王戦がある。この大会は世界選手権の選手選考会を兼ねていて、今回は恐らく初めての決勝3枠がかかっている。世界選手権のシステムを超ざっくりいうと

 

国内予選→現地予選(QT)→決勝総当たり(AT)

 

という構成になっている。QTの通過争いは本当に熾烈で、客観的に見ればこれを通過するよりも国内予選から直接ATに行く方がだいぶ容易だろう。AT出場を目指して普段はあまり大会に来なくても参加する人も出そうだ。

こういう重要な大会になると、私は精神的におかしくなってパフォーマンスが乱高下しがちだ。そのため特に数年前からは連珠でも連珠以外においても精神面の準備を最重要視している。

 

どうしてパフォーマンスにこんなに大きな乱れが出るのか、突き詰めて考えたことがあった。私の場合は結果を受け入れる準備ができていないのだ。これには二通りのパターンがある。ひとつは自分に自信があって絶対に勝てると思っているが失敗してしまい、そこから持ち直せずズタボロになるパターン。もうひとつはそもそも自分なんてどうせダメだと現実から逃避して案の定ダメなパターンである。連珠の場合私は前者が多い。これはよくよく考えると不思議な話で、他人の棋力や練習量、この機会に向けた準備の量を事前に把握することは基本的にできないのに、どうして上手く行くと無条件に思うことができようか。失敗して大きなショックを受けるのは単なる自爆以外の何物でもない。連珠は基本的には勝者か敗者に分かれるゲームである。それだけをみると1/2の確率で負けるのに、なぜか無条件に勝ちの側にいられると思ってしまう。負けたら世界が終わるというような白黒思考をしてしまうのも、パフォーマンスが乱れやすい原因だろう。

 

あなたは今日まであなたなりに頑張ってはきたけれど、それでも相手の方が凄くて駄目なこともある。当日の体調やその他要因で駄目になることもある。努力である程度の不確定要素はなんとかできるが、全てが完全にコントロール可能ではない。たとえ本当に駄目だったとしてもそれであなたの全てが否定されることはない。やってきたことが全て無駄になるわけではない。巡り合わせが悪かったのだ。たとえ反対にうまくいっても、それはあなたが優れているとか正しいのではなく、そのときはそういう結果に終わったというだけのことだ。だからあなたは目の前の盤だけに集中し、全てが終わったその後は自分なりの最善を尽くせたかに目を向けよう。

 

上記のようなことを、それまでのことを振り返りながら自分に言い聞かせる。そうしていくと冷静な気持ちになり、珠王戦で打っている自分をイメージできるようになっていく。後はやってみるだけだ。

 

さて、今年の珠王戦はどうなるだろうか。

五目クエストお題振り返り

せっかく頻繁にお題をやっているので軽く振り返っておこうと思う。

 


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白6は大まかにABC が打たれた。個人的な印象ではBが本線かな?自分の対局から気になったものをいくつか見ていく。

 


f:id:haisarenjuthink:20190309085414j:imagekawamura-meijin 戦。私の黒番。白12までは疎星の黒有利とされる進行に、4と5の石が足された形になっている。このことにより黒A 白Bとなったときの白の斜め連があらかじめ止まっているため、黒は右辺では動きやすくなっている。白4の石は具体的な利きはないが、黒が下辺に攻めていくにあたりこの石が邪魔だ。よって黒としては上辺に攻めていくのが基本的な方針となる。黒13白14は自然で、白としては一度攻めを受け止めて下辺でカウンター狙い。

手番も空間も黒にあるため、普通に考えれば黒が良いはずなのだが具体的な手段が難しい。ぱっと目につくのは黒A 白B黒C白Dだが、これを決めてしまうと例えば黒15のような斜連が消えてしまうため味消しかなと思った。ソフトに読ませてみると先の白Dまでに対して黒Eと左辺に飛び出して優勢のようだ。短い時間で正確に判断するのは難しい。

 


f:id:haisarenjuthink:20190309091049j:image白16から22までは部分的によくある手順。できれば左辺で押しきりたかったが上手くはいかないものだ。左辺は利かしということにしておいて、黒25と相手の好点に食い付き第二ラウンド。これはリカバリープランで、最悪この場所にさえ先着すれば後はなんとかなるというのが黒15に打つときの判断だ。

以下は時計の叩きあいとなり、どさくさに紛れて黒が勝ってしまった。

 


f:id:haisarenjuthink:20190309091838j:imagehosiduki-tama戦。私の黒番。白10で手を渡された。黒に何かありそうだがまたしても具体的にどうするかわからなかった。この人はかゆいところに手が届かないような、ムズムズするような手が上手い。

 


f:id:haisarenjuthink:20190309092159j:image黒勝ちがあると見て一気に行ったが、結果としては自爆に終わってしまった。こうなるなら黒11では三を引かずにどこか白の連を止めておくのだろう。白22が好手で、上下を同時に受けている。

 


f:id:haisarenjuthink:20190309092529j:image観戦譜。黒7はいかにもそれっぽい手だが実は敗着で、白の速攻が決まる。考えてみてほしい。

 


f:id:haisarenjuthink:20190309092848j:imagehosiduki -tama 2戦目。私の白番。疎星チックな進行になった。一見普通の進行だが、黒15が瞬間何もないので白16のような攻防手が先手で入る。以下白の快勝。

この6の攻略が難しく、個人的な印象では白持ちとなった。皆様はどう思われたであろうか。

 

~追記~

(3/9)

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kawamura_meijin戦をさらに調べたところ、どうやら本譜15は良い手っぽい。というのは本譜16には17で受からないからだ。

 

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白18には左上の黒点しか考えていなかったが、ここで右下の飛び三で勝ちだった。「連の二段活用」というテクニックである。15を打った当初はこういう意図で打っていたはずなのだが、いざ読んでみると左上しか視野になかったのは情けなかった。

 

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図が恐らく白の最強の応対。持ち時間5分の五目クエストでここまでを打てるかは甚だ怪しいので、勝ち切れなかったのはまぁ仕方ないかもしれない・・・。

 

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hosiduki_tama戦。Yixinにかけてみると一瞬で詰んだ。5分とはいえこれを勝てないようでは駄目だ。やはり課題は追い詰めか/(^o^)\

現代連珠から見るノーマル寒星五題~連珠に残された唯一のフロンティア~

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ノーマル寒星五題というと、通常恒星共通のこの形を指す。「唯一のフロンティア」という表現は、この形が流行り始めた2011年前後における日本の某強豪の発言だ。不思議なことに、海外のまた別の強豪も、フロンティアという表現を使用していないものの似た趣旨の発言をしている。当時の連珠にある程度共有された考え方だったのかもしれない。連珠ではこの手の発言が珍しくない。2011年といえば題数指定打ちが採用されて2年だが「○○(珠型)は終わった」「題数打ちの底が見えた」「連珠はオワコン」というような発言をよくきいたものだ。いまソーソロフ8が採用されて2年目となるが、既に「ソーソロフ8は終わった」という声を聞くようになった。私がソーソロフルールにおいてこの手の発言を初めて聞いたのはルール採用後およそ半年のことである。連珠の風物詩だ。実際に終わったのかどうかはその後の経緯を見ると一目瞭然である。特に現代のノーマル寒星は当時の常識ではありえなかった形が善しとされ、流行している。「連珠は終わった(終わってなかった)」。

私なりにこのことばを解釈すると、「掘るだけでザクザク勝てる変化が出てくる時代は終わった」ということになる。題数指定打ち時代からそうだが、ルールの黎明期というのは新手を研究し(あるいはネット対局の前例を丸パクり)実戦で披露すればそれだけで勝ちまくれるという時期が1年から長いと3年は続く。その時期が終了したのが広く共有されると「連珠は終わった」という言説が目に見えて現れるというわけである。私にとってはこれが声高に言われ始めてからが本当の連珠だ。

 

前置きがずいぶん長くなってしまった。上図はこうした背景のなか流行した形である。唯一のフロンティアと言われるだけあって黒白共に序盤から選択肢が多い。上図から、白6はBが最善と言われている。ここまでの進行を以て違和感を覚えた人は連珠の感覚が鋭敏である。「黒5は広いほうのAではないのか?」「白6はCではないのか?」至極真っ当な疑問だ。

「黒5は広い方のAに打つべきだ」ーこれに関しては分からない、というのが感覚だ。この形については黒Aのほうに打つのは明確に駄目だとその後の研究で分かっている。つまりやってみなければわからない。実際黒Aのほうに盛んに打たれた時期もある。この形の公式戦第一号はこの画像の盤端だが、特に理由はないだろう。たまたま手が伸びたのが狭い方だったというだけだ。

「白6はC」ー実際この形の黎明期は白6でCに打たれている。それでも現在は白Bと打つのが最善と言われている。私は初心者に教えるとき、一般的に相手の連を三ヒキで止めるのは良くないという話をする。しばしば自軍の石の発展性を阻害し、相手だけが都合の良い形になるからである。ただしこの局面は数少ない例外である。「斜めの連は、自軍の三を消費してでも消しにいくべき」ということだ。一般的に言って、斜めの連は縦横よりも強力なことが多い。なぜ強いのかという話をすると別の記事が一本できてしまうので、それはまたの機会に。特に局面中央に展開された斜め連は強力で、これを引かせるという選択肢は基本的にない。斜めの連を消さないという選択肢が生まれるのは、「盤端に近い」もしくは「先手を維持できる」の二択である。白6ーC以下の進行を見てみよう。

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黒13まで

白6自体は公式戦では2012年までは大舞台でも打たれている。連珠オフラインでも2011年くらいまでは打たれており、いまでこそ主流ではないもののそれなりに有力視されていたようだ。この傾向、つまり連珠オフラインで盛んに打たれた進行が半年や一年遅れで公式戦に姿を現すというのは今日でも続いている。「水面下の攻防」というもので、最近は連珠オフラインにすら現れることなく消える作戦も多くなってきた。これは一時期、オフラインの前例を丸パクリして勝率を稼げた時代があったことの反動だろう。

局面としては白6となれば黒13まではほぼ必然。手順中白12をどう見るかがこの局面を判断するポイント。当時から2015年くらいまでの私の感覚では、白12は「黒の急所を消した好手」でここから一局。これが今の私の感覚、というより恐らく現代連珠の一般的な感覚だと「黒の急所を消すためとはいえ、大事な一手を受けだけのために使わされた」となる。どうしてこのように変化したのかというと、手番そのものの価値が上がったというより手番を持った後どうするかという技術が向上したことが理由だろう。手番を持ったは良いが、結局うまく攻めることができずに自爆するのは連珠あるあるだ。手番を持った後、そのまま攻め勝つ技術、あるいは満局以上を確定させて受け側だけに負担を強いる技術が飛躍的に向上した。それに伴い上図のような「一度完璧に受け止めてから反撃を狙う」思想は研究だけでなく実戦的な考え方としてあまり良くないとみられることが増えた。最近新しく研究された序盤を見るとよくわかるが、いまは白番も攻める。本当に受けない。隙あらば斬り込んでいく。現代の白番を打ちこなすのは大変だ。さて、局面としては既に白が結構忙しいことになっている。黒はA,Bといった引き筋があること、本当に黙っていると黒Cが即必勝クラスである。

 

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白14は白Bという反撃を狙った攻撃力の高い受けではあるが、黒13と打たれたことにより速度面で後退した。この2手の交換により黒は15と叩くことができる。(単に黒15と打つと白Aから追い詰め) 白Bは確かに怖いが、打たれなければどうということはない。怖い手を打たれる直前を狙ってラッシュをかける。当然のようだが、連珠においてはかなり新しい考え方だと思う。黒15に対して、後の白Cが楽しみだからと白16のような受けをすると、黒17と打たれ上辺だけで黒に勝たれてしまう。後の楽しみを実現させるのは難しい。

 

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白16は部分的には受けの手筋。上図黒17のような勝ち筋も受けているという意味で理にかなった手ではあるが、平凡に17と打たれると困る。黒19から23が白にとっては痛打。悲しいことに黒23がフクミ手(A~F)なので白の唯一の楽しみを先手で処理されてしまっている。白24と受けさせて黒25が最初に述べた無条件ヤグラで、この形における黒の勝ちパターンに入ってしまった。

 

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単に受けるのが良くないなら、白14で攻め合うのが選択肢となる。これには黒15が妙手のようだ。この手自体は白Aを黒Bで返せるというだけだが、この場所に黒石が存在することの価値が、将来的な攻めに大きいらしい。白16と受けさせてから黒17と引き出し、黒23まで落ち着いた局面では上下に攻めが残り白が困っているようだ。この進行自体は2012年三上杯の大角中村戦という前例があり、黒勝ちしている。(以下URL)この局面自体が完璧に白駄目なのかは私の研究不足により分からないが、中村さんが負けたというインパクトが大きかったのか?元々少なめの進行ではあったが、その後大きな大会で白6に挑戦する人はいなくなった。

http://www.renju.net/media/games.php?gameid=48032

ソフト研究の浸透は連珠の何を変えたか

時々聞かれることである。この質問に厳密に答えるには、ソフト研究黎明期から順番に話していく必要があるのだが、大変な量になってしまうため特に高レベルソフト(Yixin)の登場前後について述べる。

 

「誰でも」より速くより正確な研究ができる時代

Yixinのもたらした一番の成果はこれだろう。従来ソフトは使用者の局面判断能力がかなり大きく関わっていた。Yixinはそれ自体が全体として人間のトップクラスの棋力を有し、詰みなどの分野では人間のはるか先にいる。連珠の全くの初心者であっても、時間をかけて検討させればかなり高い質の棋譜が手に入るようになった。従来ソフトの研究ガチ勢が一日かけて出した結論をYixin研究では30分で解決したという話も聞いたので、研究速度それ自体も以前より飛躍的に上昇している。いまの時代に求められるのは棋力よりも何よりも、スペックの良いコンピューターなのかもしれない。

 

完成形を作る時代から完成形をアレンジする時代へ

私の記憶では09年あたり、題数指定打ちが正式採用された時期の連珠世界において、飯尾八段が序盤の戦型について紹介している。その締めとして「これらの戦型は私レベルでは分からず、ATなどでトッププレイヤー達によって磨かれ育っていく」という旨の発言をしていたはずである。

私の言う「完成形」とはその戦型の最善手順を並べたものではなく、ある程度の概形を意味している。つまり、この形における急所はここで、大体ここで攻めてこうやって勝ちを狙うというような。かつてそれはまさにトッププレイヤー達によって育てられていくものだった。

今はどうなのか。Yixin同士に打たせること(私の場合はYixin2018に一手40分ずつ)によってそれなりのクオリティの完成形を見ることができる。場合によってはその局の検討だけで戦型そのものが没になることもある。昔のソフトでこういうことをすると、正しくないことが前提だった節がある。Yixinの場合、私の印象では100%正しいことは多くないが、抑えるべき要素はしっかり抑えてくる、という感じだ。ソフト特有の人間には思いつかない好手も多いため、この作業を行なっているかどうかだけで決着する局も少なくない。昔は基本手順がスタートラインでそこから頑張っていく感じだったのが、今では基本手順+その戦型の完成形を押さえていることがスタートラインになってきている。個々の持ち味が出るのはその先で、間違いなくシビアにはなっているだろう。

 

Yixinの登場によって人間同士のレベル差はどうなるか、何が差になるか

ここからは完全な私の見解である。まず全体としては、人間同士のレベル差はかなり少なくなるだろう。その理由は先述した通り、誰でも一定以上の棋譜を出力することができるようになったことに寄る。

トッププレイヤー間においては、これまでよりむしろレベルは開くようになると思われる。大きな要因は研究効率と、ソフトから何を引き出すかということにある。差は少なくなったとはいえ研究効率は局面判断能力に大きく依存する。判断能力が高ければ高いほど、より急所に近い情報を、他の人達より先んじて得ることができる。これは私が研究していて実感するところが多い。強い人は自分よりも色々な局面から情報を引き出していく。私の知るところではこの差を補えるのは余りあるPCスペックのみである。

ソフトから何を得られるか、というのは大したことないようでいて長期的に見ると影響力が大きい。ざっくりいうと、ただ単純にソフトから出力された「正解手」を覚えていくだけの人、棋理の理解をより深めようと単純な研究以外のところで検証していく人に別れる。連珠の理解度が高い方が強いというのはいつの時代になっても変わることはない。ソフトを理解度の向上に役立てられるかどうかが今後トッププレイヤー間のレベル差として如実に表れると思う。

最後に重要な話として、複数人での情報共有について。日本の連珠では基本的に研究は一人、多くても二人くらいで行なうのが通常ではないだろうか。二人はまだいいとして、一人でやっていると今後勝つのが難しい時代になっていくだろう。一つは純粋に、必要な研究量というのが一人でできる量を大幅に超えていること。もう一つは価値観の更新である。一人で強くなっているとどうしても価値観が凝り固まり気味になってくる。色々な人と関わり情報交換をして「こういう手がいい手になることもある」とか、「今はこういう手が注目されている」といったように知識や考え方を更新していく重要性が高まっている。世の中ではコミュ力コミュ力と言われて久しいが、連珠で強くなるのにもコミュ力が必要になってきたということかもしれない。