連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

東京オープン① 神谷戦~ラピュタ創造を阻止できるか~

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東京オープンは競技会の形式をとっているものの、個人的には研究会の色彩が強い。普段やらない形や大会ではあまり当たらない人とも対局が組まれることがあるのが一つの魅力だ。普段私は行かないのだが、このときについては中国から連珠をしにいらっしゃる方がいるということ、その応対が私だったため参加することにした。

神谷君とは公式戦ではかなり打っているが、東京オープンで打つのは初めてかもしれない。個人的にゆるふわ参加だったので心の準備ができていなかったが、まぁそういうこともあるだろう。

花月は公式戦では専ら白4ーAが主流で、本譜の手は少なくとも現ルールにおいて良くないとされている。五珠指南書では黒5は黒良しと記されている。本譜はどのくらい黒良しなのかを検証するための対局というわけだ。白12までは、黒からは色々選択の余地があれど白としては唯一の進行というのが数年前この形を研究した際の記憶で、確か「黒勝ちやすいが白も頑張れば打てなくはない」という程度の結論を出した気がする。とはいえ実戦で打つのは初めてで、対局での感触を掴みたかった。黒からの変化としては、たとえば11で逆から止めておいてゆっくり戦うという思想も有力だ。ただ神谷君はそういうことはしないだろうなと感じていた。別の友人で「私の打つ手は全て呼珠」と言っていたことがあったが、神谷君も似たような種族だろう。徐々にポイントを稼ぐよりもいきなりグサッが多い。

棋風といえば、国内外で色々な人と打ってきたが、神谷君ほど自分のスタイルを最適化したプレイヤーは記憶にない。私の見るところでは彼の戦い方は「序盤逃げ切り or ラピュタ勝ち、駄目なら潔く、早めに撤退し全力で満局をとる」というシンプルなもので、戦型選択はそれに則ったものになっているし、どの連珠でもほぼ貫いている。ラピュタについて次図で補足。

 

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これは神谷君が黒勝ちしたある一局だが、打ちはじめの場所とは別に、ほとんど黒石しかないところが出現している。私はこれをラピュタと呼んでいる。普通連珠ではそう簡単にラピュタは出現しないのだが、彼はこれを創り上げる能力が非常に高い。正式な呼称として用いるには権利的な問題がアレでソレっぽいので別のものを考えたいが、あまりにもしっくりくる。

 

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本譜に戻ろう。黒13は安定的に右辺を支配下に置こうという手で、次にAを狙った攻撃力の高いものだ。注意しておく必要があるのは例えば黒Cは上絶対で、他にも黒Fには白Cを強いられる。上辺の横の連がジャンプ台の役割を果たしている。この跳躍からのラピュタ創造には、たとえ相手が神谷君でなくとも常に気を配る必要がある。書いていて思ったが、彼の得意な局面を選出してしまったようだ。どうも私はそういう傾向が強い。

次に黒Aが狙いならもちろん白Aも急所になる。ここで気を付けたいのは、「急所に打つか打たせるか」という判断だ。普通なら急所が分かっているならそこに自分から打ち込むのが善しとしたもので、私も最近まで特に考えず急所に打っていた。ところが最新ソフトの手を見ていると、「相手に急所に打たせる代わりに何か別の得をする」という手筋が多いこと、それが有力なことに気づいた。この場合はAがその急所だが、白には当然それ以外の選択肢も視野に入るというわけだ。

それでも最初は白Aが第一感だったが、想定される黒Bに対して死の気配を感じた。この死の気配というものに私は敏感で、論理的に読んだ結果は何かしら抜けがあって間違えることが非常に多いのだが、センサーの精度は相当高いという実感がある。

 

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局後検証したところ、前図白Aを選ぶと白は18くらいでしか変化の余地がなく、41まで唯一生き残る応対が上図のようだ。黒の攻めが切れることがないこと、白の反撃が望めないことからやはり白Aは危険らしい。

 

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というわけで「急所に打たせる」選択をした。黒17で18に三を引かれると部分的に寄りそうだが、三を白Aと先手で取れる、この17なら白18が急所で問題ないという判断だ。受け切ってからの反撃のプランも建てておきたいところだが、持ち時間20分なのでまずは受け切りを確定させるのが優先事項である。

黒21でラピュタ創造の様相を呈してきた。分かりやすい次の狙いは黒Bなので白Bが急所だが、この手に死の気配を覚えた。恐らく黒D以下右下だけで勝たれてしまうだろう。そうすると白Dのほうがよさそうだ。左辺のジャンプ台からの跳躍にも気を付けなければならないが、白が間違えなければ寄らなさそうという感触を持った。

 

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死の気配の検証。黒31まで白受け無しのようである。

 

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黒23は読んでいなかったが、ラピュタをより確かなものにしようという構想だ。放置すると黒A白D黒Eがフクミ手で受け無し。かといって単に白Aなど受けるのは圧倒的効かされで容認できない。下辺のラピュタ創造を阻止するのに23の箇所に白石が入る余地があるのが受けとして要所で、黒としてもかなり価値が高い手だ。白24ーAは下辺に効いていないし、反撃にも相当遅い手なので価値の低い手である。相手に価値の高い手を打たれた代わりに自分が価値の低い手を打たされるのは通常負ける。

とすると白の価値の高い手は何か。それが24だろうと見た。この手は黒Aに対し白Bから白Dの受けを用意しながら先手をとろうという発想だ。黒の詰み筋はこれしかないので、それを狙い撃った格好である。

 

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黒25~27の交換によって黒の攻め筋をデストラクションすることに成功し、白28は手の広い局面だ。形勢としては白勝ちになってもおかしくない流れだが、白24で最後の3分ほどを使い切って30秒になってしまったため時間がない。白28と下辺では絶対に負けないという意志表示に留めた。いまみるとせめて白Aくらいのほうが良かったか。

 

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神谷君は白28を見てドロー狙いに切り替えたようだ。このあたりの見切りのよさが最近の彼の安定感の主たるところ。勝つときは速攻。撤退も速攻。分かりやすく優れた戦略である。黒43に対し白A後Bと打つつもりで白Aを決めてしまったのが悪かったか。

 

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本譜はビビって白48まで、先手をとりにいこうとして後手を引くという冗談のような損をしてしまったので、ここまで積み上げたものが吹っ飛んでしまった。負けはしないのが救いだったが、黒51と彼得意の盤面埋め攻撃をされてしまい、以下疲労もあってドローに。コツコツ積み上げたものが一瞬で雲散霧消してしまうのは物悲しい。

珠王戦が酷かったので連珠自体が駄目なのかと心配していたが、この日の2局を見る限りではコンディションの問題のようだ。強くはなっている。世界選手権ではコンディションに気を付けたい。