連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

追求するということ~名人戦第三局感想~

元々公開するつもりはなかったのですが、今回の対局は色々と思うところがあったこと、一部の人に見せたところ公開したほうがいいということなので公開します。

 

 

対局中に寒気が走ることがある。着手直前特有のもので、打つ直前にあっ危ないと思うのだがそのときには石は既に盤に接している。

 

Crazyzeroの登場

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白8が準備の局面だった。以前の私ならこういう包囲され気味の白番は黒有利と見て採用することは少なかった。本作戦はCrazyzeroという新しい連珠ソフトに起因する。Crazyzeroは今流行りのDeepLearningを使用して作られた。人間がソフトの作成に手を入れるのではなく、ソフト同士の対局の繰り返しによって手を学習し、練度を高めていく。こうして作られたもので有名なのはGoogleのAlphaGo。囲碁界では「今まで人類がやってきた囲碁とは何だったのか」というレベルの衝撃が走ったそうだ。連珠のCrazyzeroが囲碁ほどの衝撃を与えたのかは分からないが、少なくとも私の中の連珠の常識は大きく揺らいだ。白8は彼の採用作戦というわけだ。それまでの自分の常識とは異なる存在がはるか上にいる。それらに追いつき追い越すにはひとまず消化しないことには始まらない。自分を崩す試みだった。

 

五目クエストのアプリ上ではあるが、この局面自体は何度も打ち、また観戦してきた。それでも実際に相手を目の前にして読みを入れてみると思い起こされることが多い。とても通い慣れた道とはいえなかった。初見のとき、私は白A以下本譜10まで進んだ進行を黒不満とみてDと打ち負けている。ただ長時間の実戦でどうなるかは未知数。仮に黒Bなら白Cだから、この局面で黒Cもあるかもしれない。今の時代、本来ならこのくらいまでは準備してしかるべきなのだろう。開始早々不安のよぎる立ち上がりである。

 

連珠への執念

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黒9は予定で一安心。こちらも予定通りの白10・・・と打つ直前に寒気がした。黒Bの場所が光った。しかしもう手は止まらない。こういうときの中村さんの挙動としては経験上

①9割近くその場所に打ってくる

②残りの1割くらいはもっと良い場所に打ってくる

というもので、どちらにしてもろくなことがない。ともかく黒Bから読んでいく。

黒Bは白の連の合流点に自分の連を作りながら先着する手。次の黒Aの威力を高める狙いがあるが、白からこれといって反撃手順がない。白Cで受かれば話は早いが心臓に悪い。どうやらこの手には白Dと打っておき、黒Bを間接的に止めながら次の黒Aを受けておくのが急所らしい。とりあえず勝負にはなりそうでほっとする。手段はこれだけではないので読んでいく。ならば黒Dは?白Aはできれば決めたくない。白Eとして黒BかF。黒Bだとして白Cなら黒Aが痛い。他には、黒Fなら白G、黒Cのときは白BかD。Hの地点が黒白共に急所の位置なので先にここから効かしてくるかもしれない。これはもうわからない。相手が打ってから考えることにした。

ところが中村さんは一向に打たない。昼食休憩も挟みさらに休憩後およそ30分してからだったと記憶しているが、次の手が打たれた。

 

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黒11ー良い手だ。直感的にそう思った。この手自体次の黒Aが破壊力がありながら白を包囲しようとしている。ほぼ白Bだが、黒Cに白Dから詰まないのでなかなかの事件だった。そうかぁ。

この手の長考中私は考えることを諦めた。このときは私が白番だったが、きっと私が黒番でも、考えることを諦めて先の図のどこかに打ってしまっていただろう。黒11自体は思考を巡らせれば思いつく類の手ではある。中村さんは他にいくらでも良さそうな候補手がありながら、それでも満足することなく探究し続けた。どこに打てばいいかわからないから長考するというのはよくあるが、これは純粋な追求。読みや感覚の問題ではない。私は連珠を追求しようという気持ちが足りなかった。思い返すと練習の段階からそうで、Crazyzeroが登場してから彼がどんな連珠を打つのか、連珠の新しい姿に好奇心こそ強かったが、自分の頭で局面を突き詰めようという気持ちが薄くなっていた。ここに中村さんの充実の正体を見た気がする。中村さんの技術はもちろん一流だが、精神的にここ数年は整っていなかったのではないだろうか。それを今期挑戦手合いに向け、連珠を追求するに足るものを作り込んできた。私には大事なものが見えていなかったようだ。この差は簡単には埋まらない。

連珠としてはここで終わってしまったといってもいい。もはや引き分けすら許されないが、次局はしっかり連珠と向き合って臨みたい。