連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

チーム世界戦振り返り~オル戦~

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(45黒:私 示白:オル 白16まで)

 

二回戦は同日の午後、初戦終了からおよそ2時間を空けて行われる。私の対局相手はオル。前回大会でチームを優勝に導いた立役者だ。彼は対局が始まると少し呼吸を整える素振りを見せてから恒星を提示した。瞬間に私は自らの行ないを悔いた・・・。

世界戦経験や、実際に彼と会ったことのある方しか分からないと思うが、オルは海外連珠プレイヤーのなかではほぼ唯一日本語を話すことができる。それも日常会話ではほぼ困らないレベルである。対局前の昼休み、私は彼の提示を名月か遊星と読んでいた。名月はそんなに不安がなかったので、今期遊星を作戦としていた飯尾さんにあれこれ伺っていた。控室はそこそこ広く、またそんなに大きな声ではなかったが、会場で話される言葉がほぼ英語かロシア語という中で日本語は目立つ。それもオルにとっては理解できる言葉なのだから。彼はその局以降も検討中日本チームのそばにくることがあり、遊星検討の会話を一通り聞かれていたと察しがついた。自ら手の内をバラしてしまっていたというわけだ。迂闊だった/(^o^)\

数分後悔の念に駆られていたが、ともかく目の前の状況を打破する策を考えなければならない。相手は世界有数の研究家であり、変なことをすると瞬殺される可能性が高いため神経を使う。ひとまず、五目クエストで打ち慣れた白4に誘導することにした。彼もさすがに五目クエストは調査範囲外のようだった。始めは打ちなれた形にしようと六題提示にするつもりだったが手が止まった。こちらが打ち慣れているということは相手も打ち慣れている、それも提示してくるということは自分以上のかなり深い準備があることが想定される。既に相手の術中に嵌りつつある中、なんとか研究合戦から判断力の勝負にしたい。七題提示をしたのにはそういう意図がある。

五題必勝、六題でやや黒持ち、八題で白持ち、というのがこの形に対する当時の私の認識だった。七題はどっちに大きく転んでもおかしくないが、駆け引きとしては有効だろう。白持ちに偏りつつある分黒を持てる、すなわち局面を自分で動かせる可能性が大きくなるのが狙いだ。黒5は私自身もRenjuOfflineの前例一局しか知らなかったが、相手が露骨に考え出すのを見てとりあえず大局観の戦いにできるなという感触を持った。後は私が強いかにかかっている。

ここからの進行は極端に遅くなり、どっちが良いのか全然わからなかった。黒の方針としてはともかく黒5の石を早く活用すること。この石が働かなければ負ける。形勢は別として方針が分かりやすいのは救いだ。黒13と早々に活用を図った手に対し、白14は受けすぎている感がある。読み筋は左辺で斬りあう変化だったが、これはチャンスと見て黒15と下辺先着。白16はとりあえず局面の主導権を黒に委ねるということで、私のほうに主導権が回ってきた。ここで間違えるわけにはいかない。

この局面の第一感はAであり、実際にAに打ったわけだが、この手を打つにあたっては葛藤があった。これはいわゆる「人間的な手」というもので、Yixinなどコンピュータソフトは絶対に打たない類の手だ。(少なくとも現時点においては) 将棋ではタイトル戦などの中継対局においてコンピュータの評価値や読み筋が表示される。それと異なった着手がなされると、(評価値はどうあれ)「あー間違えたか」といった類のコメントが流れる。このような認識は観戦者に限ったものではなく、プレイヤーである当事者にも、少なくとも私にはある。連珠でもコンピュータは人間を上回りつつあり、まるで答えを示していると錯覚する。それと異なった手と分かっていながら打つのは精神的な抵抗が生まれる。恐らくソフトはB後CやB後Dなどと打って勝ちにいくんだろうなと考えていた。

それでも打つことにしたのは、コンピュータを使って検討していて、確かにYixinは滅茶苦茶強いが、しかしこれは連珠に対しての完璧な答を示すものではないなという実感を最近もっていたことが大きい。それに答えは一つとは限らない。ある勝ちの存在する局面で、YixinはAという手順で勝ちを示し、また別のソフトはBの手順で勝ちを示す。実はこういったことは珍しくない。そうであればある一人の人間が示すCという手順もまた勝ちという可能性がある。最後まで突き詰めてみなければわからない以上、ここまでくると解釈の問題になる。Yixinがこの局面でB後CやDに打つというのは本当にそうであったとしてもYixinの解釈にすぎない。Yixinと自分の手に乖離がだいぶあることに不安や焦りが強い時期もあったが、ここは自分の解釈で戦うのも悪くないなと思えた。

 

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(本譜、黒25まで)

黒17の地点は白からすると連が二つできる要所になっている。ここに先着することで黒5の石の働きを最大化させようというのが私の思想だ。長期的な戦いになれば遠く孤立した石も攻めが間に合ってくる。本譜では白18を決め、黒19が入ったことで左辺に勝ち筋を作るルートも確立された。白22まで専守防衛の姿勢だが、これは実戦的には有り難く、黒は不敗の態勢を築くことに成功した。黒25ではAともう一度白の急所に先着して白模様の根絶やしを図る手段もあるが、本譜の25は勝ちを意識しだしている。相手の模様を消すことに専念しすぎると今度は引き分けにされるリスクがでてくるためだ。白からAと打たれても一手受けておけば大して痛くないため、黒は強く攻めることができる。相手の残り時間には秒読みが迫ってきており、受け間違えも期待できる状態だ。

 

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(本譜、黒39まで)

白26と一本決めてきたが、この手の善悪は微妙。気分としてはこの周辺の攻防を読む手間が省けるので嬉しくはあった。黒はどこで最後に勝ちを作るかが問題だが、27周辺にとりあえずは照準を絞る。黒31まで左辺に向けたジャンプ台を作り、左辺一斉攻撃の準備をする。黒33は受け重視なようでいて、局面を複雑化させない意図がある。優勢のときには相手に粘る余地を与えないのが重要だ。相手はこの連を解消するのに剣先で対抗してきたが、黒は35の石を獲得できたので順調。黒39で勝ちっぽい形ができてそろそろ仕上げという頃合いだ。

 

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(本譜、黒51にて白投了)

 

白40は苦しい四ノビで、41と手順に外側に周っている。42はこのロケット剣先を野放しにしておくわけにはいかないのでやむを得ないか。43で44だと交換に43に打たれややこしくなる。この43で勝ちになったかと思ったが、46までが粘り強く部分的には寄らないようだ。だがこちらは20分ほど残しており、相手は30秒連珠。局面も勝ちがありそうな大優勢なのでなにかしら勝てると見た。

黒47とこの剣先も叩いて負ける可能性はほぼゼロになる。上辺右辺に攻めると見せて実は直接的には黒49の準備になっている。単に黒49では白47と四ノビで長連にされていきなり勝ちが薄くなってしまう。白48でこの筋を受けなかったため黒49から追い詰めが決まった。投了図以下は難しくないので是非読んでほしい。

 

本局は難しい連珠になった。連珠で序盤6手から全く未知というのは珍しい。途中分からなくて不安もあったが結果的には快勝することができ自信になった。チームも三勝し、前回優勝チームにこの好調なら本当に優勝も狙えるのではというムードが漂い始めた。