連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

チーム世界戦振り返り~トップキン戦~

つい先日、Yixin2017GUI版が公開された。滅茶苦茶強いソフトで、その水準は総合的に見て人間のトップレベルか、分野によってははるか遠くのところにいるだろう。せっかくなのでこの人に手伝ってもらいながらチーム戦の自分の棋譜を振り返ってみたい。

 

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(示45黒:私 白:トップキン、白14まで)

 

チーム世界戦における対戦順の抽選は開会式で行われる。今回の大会は最近連珠熱のある韓国台湾、連珠の国際棋戦でヨーロッパ開催であれば出場してきそうな東欧諸国や最近連珠が普及されたトルコやギリシャといった国々が軒並み不参加だった。それでも出場8チームとなったのは、ロシアとエストニアの層の厚さだろうか。

初戦の私の相手はエストニア期待の若手と目されていそうなトップキンだった。(Georg-Romet Topkin) 彼はここ数年で急成長を遂げていて、去年の世界戦個人では中国のトッププレイヤーである梅凡を撃破、BT優勝者のタンカイラム(マカオ)に引き分けている。正確な年齢がわからないが、2016年ユース大会では96年~2000年生まれの部に出ていたので、少なくとも対局時点で10代だろう。私とは初手合い。力量については不明だったが、同格と見ていた。

初戦は大将三将が提示、副将四将が選択番。今回の唯一の準備である銀月を提示。彼は程なくスワップした。なるほど。日本では相手に作戦を選ばれるのを嫌って白4を自分で打つべしという考え方が主流のように思うが、彼は分からないなら作戦を決めてもらって白を持ち、序盤を凌いだほうがいいと考えているようだ。こうした手段は地力に自信を持っている証拠。エストニアとロシアの若手はこの路線を行く人が多い印象がある。嫌いじゃない。

白10を見てどきっとした。これは研究済みの手。厳密に打てば黒勝ちになるはずだ。初戦からこういうのがくると心臓に悪い。特にチーム戦なのでチャンスを確実に捕らえなければいけないという気持ちが前に出ていた。だが白14の飛び三を見て手が止まる。あれ、どう受けるんだっけ? 完全に忘却していた。確かBだったはず・・・というのが第一感だったが、うろ覚えに頼るとろくなことがない。フィーリングはAだなと思いAにした。対局後部屋に戻って正解を調べたところBだった。そういえば研究中も同じプロセスを辿ったような。連ができることに釣られてしまった。

 

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(本譜、白18まで)

白16、18はすぐに打たれた。16の飛び四は機敏な手で、ここに黒から先着すれば右辺全域を支配できる要所。白から先着した場合この付近の白の攻めが相当切れにくくなる。強い。白18は平凡に連を止めながら連を作る手。この局面は勝負所なので少し詳しく見てみよう。

 

主に考えるべきは、白18によってできた連を止めるべきかいなか。この連を相手にするならAやB、相手にしないならDなどが候補手になる。白からすぐに詰みはないのでここは黒の選択肢だ。連を手抜くのは斬りあいになる傾向が強く、受けると穏やかな連珠になりやすい。手抜く手段を考えてみよう。

 

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(変化図、黒23まで)

白が詰みにいくなら図の手順だが、黒23まで受けておけば継続手がない。次で白Aには黒Bが先手。黒23とこちらから受けるのが肝要で、黒Cから受けると白Aのとき黒Bと受けられないため(白に四追いがある)詰んでしまう。

詰みがないなら問題なく黒19と打てるように見えるが、事態はそう単純ではない。

 

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(変化図、黒21まで)

白20という手が攻防。黒の連を二つ潰しているためこれで先手を取れている。以下は白AやBからCなどを狙いとして攻め込んでくる。斬り込みにいった黒としては不満な展開だろう。

 

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(変化図、白24まで)

どうしても手抜きたいなら19で先に三をヒクというのがテクニック。これによって21が手抜けなくなる。ただ白22と入られて、23、24となった局面は難解。Yixin的には互角でらしい。黒は右上に負担があり、この解消が容易ではない。わちゃわちゃしながら石数が増えていくのは個人的に白が勝ちやすい展開な気がする。

 

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(変化図、黒19まで)

というわけで黒19が最も自然。私はこのときに白Aと打たれて、確実な勝ちがないと白に右辺全域を支配されて形勢芳しからずというのが当時の判断だった。そのときに即詰みばかりを追ってしまっていた。確かに即詰みはなく、その点では正しかったが黒には勝ちがあった。

 

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(変化図、黒25まで)

白20は詰みを残していないため、受け無しにすればいいわけだ。対局中はこの視点がすっぽり抜け落ちていた。Yixinに読ませたところ30秒弱で黒勝ちを示した。この筋の読み落としは白14のときに大きく動揺したのが効いていそうで、私の課題だ。

 

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(変化図、白24まで)

では黒19で良しなのか、というとそう簡単ではない。白20と突き出すのがポイント。止めてくれば白22も入れておいて、今度は白24が詰みを残している。黒は受けなければならないが、形勢としては難解で、本譜とどちらが優るのかは分からない。

 

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(本譜、黒25まで)

おおよそ以上のような思考のもと、黒19の位置がどうやら急所らしいという結論になりこの場所に打った。すると相手はシュンシュンシュンの如く白24まで返してきた。手番を取られている。そもそも白20の三ヒキを失念した。これは駄目にしたかもしれない。何か粘る順はないかと1時間ほど考えていて辿りついたのが黒25。これは次にAの飛び三から先手で下辺に回り込もうということだ。道中で頓死筋もあり、白としても気持ち悪いだろう。白Aならこれを手抜いて下辺に先着する。それでも客観的にはだいぶ悪いかなと感じていたが、Yixinの評価値ではほぼ互角。黒25が局面のバランスを保つ唯一の手だったようだ。こういうところは冴えていてよかった。

 

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(本譜、黒33まで)

白は28まで決戦を挑んできた。こちらも狙い筋を実行に移す。白30が最初の分岐だが、これを上止めの場合は左辺から回り込むことになる。本譜30の場合は黒33までが一つの手段。これはABのフクミになっていて、受け間違えると頓死する。見た目では迫力があるが実際の威力はそうでもない。ただ黒としては、右下の白模様を先手で粉砕できれば十分な成果だ。その見通しはあった。私の読み筋では白Cだが、黒33まで打って眺めていると白Dでも受けになっている。白Dは攻勢を取っているようでいて、数手進めると黒が大きく得をし、対応次第では黒勝ちまでありそうだ。相手の手番の時に局面を眺めていてよくみるとこういうのがあるなというとき、私の経験上はかなりの高確率で相手はそこに打ってくる。相手は極めて攻撃的なトップキン。多少期待した。

 

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(本譜、黒37まで)

相手は自信満々といった態勢から頭を抱えて悩みだしており、精神的に優位に立ったのを意識した。白34は先の予感通りで、36が敗着。黒37から追い詰めとなった。白36ではBが絶対だった。黒37はABもしくはCDのフクミになっており、白に受けはない。相手の棋力を考えるとこの筋を間違えることは考えにくかったが、どうやら上辺の攻めが精神攻撃の役割も果たしたらしい。

 

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(本譜、黒43にて白投了)

投了図以下はABCDの四追い。盤端ぴったりの詰みだ。

トップキンは数年前の自分を思い起こさせるような殺傷力の高い連珠で、感覚的な面では私より強いような気がした。この対局だけでなく、後のものを見ても優勢や、バランスの取れた連珠だったのをポイポイ打って落とすということが目立っていたように思う。連珠は実にメンタルのゲームだ。最近まで私も連珠実生活問わず精神面ではかなり苦しんだが、こういう勝ち方をしたことに時の流れを感じる。

チームとしては3.5勝して好発進。目指すは優勝。次の相手は前回優勝のエストニア1だ。優勝決定戦になるかもという声もあったが・・・