連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

強さの中心はどこにあるのか?

私は連珠の他には将棋とバックギャモンをする。両方とも連珠に比べればはるかに弱く、馬鹿にされたことも時々あった。こういう話をすると多くの人は不思議がる。その筆頭は「将棋の羽生先生は将棋もチェスも強いのに、そうでもないんですね。」という類のもの。むしろ複数ゲーム超強い方が珍しいと思うが、どうしてこういうことが起きるのか、私の場合の連珠と将棋を例にとって考えてみたい。

まず連珠。局面を見た瞬間に95%くらいの確率で、盤面上のどこかしらが脳内で光る。いわゆる第一感というやつだ。そのほかにも、この手が駄目ならこう、工夫するならここを効かすなどといった別の候補手が局面を見てすぐに出てくる。基本的な認知、連や剣先がどこにあるかというのは無意識レベルで行われる。相手がフクミ手を打ってきたとき、コシュを打ってきたとき、相手や自分に四追いがあるかを無意識的に考えている。やっていることのほとんどが無意識レベルで行われるから本当に集中しない限りは疲労もほとんどない。

将棋ではどうかというと、まず駒の効きが怪しい。角筋は三万回確認とはよく言われるが、油断するとただで取られることもままある。決定的に違うのは候補手で、指したい手が存在しない。必死に数十秒から数分考えてここかなという手が出るものの、それが良い手である確率は相当低い。一方で脳内将棋盤は連珠をやっているためか比較的しっかりしており、時間をかければ10手や20手先の局面でも正確に脳内にイメージできはする。それだけ正確にイメージできればさぞ強かろうと言ってくる方は私の想像以上に多いのだが、そんなことはない。なぜなら例えば10手先を読んだとして、2手目からして相手に全く別の有効手を指され困ってしまう。脳内将棋盤は優れた感覚とセットで初めて力を発揮する。

このように、両者を比較して決定的に違うのは「局面認知力」「手札の多さ」「取捨選択の精度」である。この三つの要素は練習しないと養われないため、たとえ他のボードゲームで滅茶苦茶強くてもいきなりでは弱いことが多い。(但し、これらを身につけるスピードはボードゲーム未経験者と比べて速いと思われる。) いきなり強い場合はある程度ゲーム性が似通っている必要がある。将棋⇔チェスはその最たるもので、駒の種類や持ち駒の制限は違っても、他のゲームより性質が近い。こういうゲームでは上達が速くなるだろう。連珠では、類似ゲームにGomokuやコネクト6という競技がある。これらは連珠と似通っていて、全く初めてでも連珠経験者であれば結構強かったりする。

局面認知力については別の記事で言及したような気がするので、手札についてもう少し言及する。よく聞かれることとして「手札の多さってそんなに重要か?全部読めばいいだろ。」というものがある。私の経験上だけでいえば、これを言う人はそもそも結構強いことが多い。ここでの落とし穴は「全部読む」というところにある。例えば連珠では文字通り全部、A1~O15までの手を逐一吟味する人はいないだろう。手札の多さは「全部」の範囲に関わってくる。思いつかない手を読むことはできない。これに対して極端だろうという人がいるがそうでもない。連珠の重要概念だけでみても、「手抜き」という考え方を知らないと延々と相手の手に付き合うことになる。「連を止めながら連を作る」という方法論でとにかく連剣先に注目する人は、連が関わらない桂馬などの手が選択肢に入らない。とにかく速度重視という場合だと、ゆっくりした有効手がやはり選択肢に入らない。全部読むといっても、全部読むのは大変である。有効手をなるべく漏れなく網羅するために手札の多さが大事になってくる。

取捨選択の精度を鍛えるのは骨が折れる。まず取捨するモノを用意するところから始まるので先は長い。局面認知力と手札(取捨するモノ)については初期から練習しやすい上即効性がある。ここが鍛えられていれば対応できる局面が本当に幅広くなる。何が強さの中心かというのは議論は尽きないだろうが、私としてはこの二つが肝だと思う。