連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

勝負の熱気はどこから来るのかという話~QTという異質な空間~

勝ち負け書いて勝負と読む。勝負は必ず結果が出る。みんな負けたくないから本気で戦う。こういう気持ちで満たされた場は自ずと熱気を帯びてくる。

連珠を始めて恐らく今年で12年になるが、連珠も勝負事の一つ故、色々な勝負を見てきたし自分でも経験してきた。練習対局から挑戦手合いまで本当に色々やってきた。感じるのは熱気の種類がその場その場でだいぶ異なるということだ。勝負の熱気として一般的に想像されるものは「目の前の相手に勝つぞ」であるとか「この大会で勝つぞ」というものだと思う。そしてそれが最高潮に達するのは最高峰の舞台と思われるかもしれないが、意外とそうでもない。少なくとも私にとっては挑戦手合いのあの場は連珠と向き合う空間であり、自分と向き合う空間であり、相手と対話する空間だった。勝負はどちらかといえば付随するもので、死ぬ気でこの人に勝つという感情はほとんどなかった。これが見てる人にどう映るのかは分からないが、「勝負」から想像されるそれとはちょっと違ったものだと思う。

連珠の場合、勝負としての熱気を帯びるのは実は最高峰の舞台よりもむしろその前段階、予選であることが多い。挑戦手合いよりも決定戦リーグ、それよりも二次予選、一次予選・・・と。必ずしもこの順番で熱気が高まるわけではないが、本戦よりも予選のほうが熱気を帯びやすいのは確かだと感じる。それは何故か。個人的な解釈では「みんなが共通の目標に向かって全力を尽くす」というのがある。予選は予選通過という分かりやすい目標があるため、みんなの意識が自然とそちらに行きやすい。

「予選でなく普通の大会でもそうじゃないか?」と考える人もいるだろう。意外と違うのだ。単発の大会で、あるいは予選ですらみんなの意識が共通のものに向かうというのは起こりにくい。「とにかく優勝」を筆頭に「自分なりのベストを尽くす」「とにかく1勝を上げる」「ケアレスミスだけはしないように」それぞれが最優先とする目標がある。別に目標を共有してなくとも一定の熱気はあるのだが、それはあくまで一定の熱気である。

ならば挑戦者決定リーグが最も熱気があるのかというと、それもまた違う。通常リーグの目標とされるのは挑戦権獲得もしくはシード権獲得だろう。この棋戦は毎回大会前に連珠世界でアンケートを取るのだが、全員が「死ぬ気で挑戦権を取ります」や「シード以上は死守します」という感じではない。実際に読んでみれば分かるが、人によって想い想いの目標やら意気込みがある。もちろんそれはそれで熱気を帯びているのだが。

さて、なぜQTを異質な空間かと書いたかというと、QTには明確な共通目標、予選通過がある。(世界選手権最終現地予選 Qualification Tournament でQT) そもそも出場者がだいぶ限られ、しかも大半の参加者にとっては海外で開催される大会である。そうすると、予選通過に強い志を持つ者しか集まりにくいという性質が出てくる。その結果起こるのは熱気というよりは殺気じみた雰囲気を帯びた空間であり、棋譜自体も他の大会に比べると穏便な進行は少なく、何としてでも勝つという斬り合いが多い。あるいは引き分けで通過できる場面であれば「全力で引き分けしか狙わないVS全力で勝ちしか狙わない」という対局もある。私がQTに出場したのは2015年が初だが、そのときは普段のどの大会とも異なる特殊な雰囲気に飲み込まれて、惨敗を喫してしまった。その場にいて空気が痛く、自分はなんてところに来てしまったんだと後悔しながら、大会中は適応できず焦燥感と不安だけが大きくなっていった。他の日本人出場者に話を聞いても「もうあの大会には出たくない。直接ATに行きたい。」という声が圧倒的だった。

私は今年の3月に行われた珠王戦での成績(この大会が世界選手権予選の役割を担っている)が奮わず、前回AT出場で得た個人シードでQTに出場することになった。そのときの率直な感想は「またあの大会に出るのか。寿命縮みそうで嫌だなぁ」といったようなものだった。前回QTは歴代でも最もレベルが高いと評されるほど熾烈であったが、今回もそれに劣らないくらいの難易度がありそうだ。しばらくは放心状態だったが、最近はかえって幸せなことなのではないかと思うようになった。あの空間で行なわれるような対局、魂を削り取るような戦いは他でなかなか経験できないこと。それをまた経験できる自分は幸福なのではないかと。気づけば去年よりもかなり練習もしている。もちろん練習したからといって勝てる保証はない。4年前のような惨殺で終わるかもしれない。それはそれで仕方がない。相手も死ぬ気で通過しにくるはずで、そういう人達がぶつかり合えば結果がどうなるかは本当に分からない。分からない、というところまで行って戦って負けるならそれはそういうめぐり合わせだったのだ。そこまで自分や連珠を高められるかのほうが問題である。もうあと一か月しかない。全力を尽くしたい。

前回QTもやってるほうはだいぶ必死で余裕がなかったが、見ていてくださった方々には非常に楽しんでもらえたようだ。今年もやってる側だけではなく、見てる方も楽しんでほしいな。