連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

現代連珠から見るノーマル寒星五題~連珠に残された唯一のフロンティア~

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ノーマル寒星五題というと、通常恒星共通のこの形を指す。「唯一のフロンティア」という表現は、この形が流行り始めた2011年前後における日本の某強豪の発言だ。不思議なことに、海外のまた別の強豪も、フロンティアという表現を使用していないものの似た趣旨の発言をしている。当時の連珠にある程度共有された考え方だったのかもしれない。連珠ではこの手の発言が珍しくない。2011年といえば題数指定打ちが採用されて2年だが「○○(珠型)は終わった」「題数打ちの底が見えた」「連珠はオワコン」というような発言をよくきいたものだ。いまソーソロフ8が採用されて2年目となるが、既に「ソーソロフ8は終わった」という声を聞くようになった。私がソーソロフルールにおいてこの手の発言を初めて聞いたのはルール採用後およそ半年のことである。連珠の風物詩だ。実際に終わったのかどうかはその後の経緯を見ると一目瞭然である。特に現代のノーマル寒星は当時の常識ではありえなかった形が善しとされ、流行している。「連珠は終わった(終わってなかった)」。

私なりにこのことばを解釈すると、「掘るだけでザクザク勝てる変化が出てくる時代は終わった」ということになる。題数指定打ち時代からそうだが、ルールの黎明期というのは新手を研究し(あるいはネット対局の前例を丸パクり)実戦で披露すればそれだけで勝ちまくれるという時期が1年から長いと3年は続く。その時期が終了したのが広く共有されると「連珠は終わった」という言説が目に見えて現れるというわけである。私にとってはこれが声高に言われ始めてからが本当の連珠だ。

 

前置きがずいぶん長くなってしまった。上図はこうした背景のなか流行した形である。唯一のフロンティアと言われるだけあって黒白共に序盤から選択肢が多い。上図から、白6はBが最善と言われている。ここまでの進行を以て違和感を覚えた人は連珠の感覚が鋭敏である。「黒5は広いほうのAではないのか?」「白6はCではないのか?」至極真っ当な疑問だ。

「黒5は広い方のAに打つべきだ」ーこれに関しては分からない、というのが感覚だ。この形については黒Aのほうに打つのは明確に駄目だとその後の研究で分かっている。つまりやってみなければわからない。実際黒Aのほうに盛んに打たれた時期もある。この形の公式戦第一号はこの画像の盤端だが、特に理由はないだろう。たまたま手が伸びたのが狭い方だったというだけだ。

「白6はC」ー実際この形の黎明期は白6でCに打たれている。それでも現在は白Bと打つのが最善と言われている。私は初心者に教えるとき、一般的に相手の連を三ヒキで止めるのは良くないという話をする。しばしば自軍の石の発展性を阻害し、相手だけが都合の良い形になるからである。ただしこの局面は数少ない例外である。「斜めの連は、自軍の三を消費してでも消しにいくべき」ということだ。一般的に言って、斜めの連は縦横よりも強力なことが多い。なぜ強いのかという話をすると別の記事が一本できてしまうので、それはまたの機会に。特に局面中央に展開された斜め連は強力で、これを引かせるという選択肢は基本的にない。斜めの連を消さないという選択肢が生まれるのは、「盤端に近い」もしくは「先手を維持できる」の二択である。白6ーC以下の進行を見てみよう。

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黒13まで

白6自体は公式戦では2012年までは大舞台でも打たれている。連珠オフラインでも2011年くらいまでは打たれており、いまでこそ主流ではないもののそれなりに有力視されていたようだ。この傾向、つまり連珠オフラインで盛んに打たれた進行が半年や一年遅れで公式戦に姿を現すというのは今日でも続いている。「水面下の攻防」というもので、最近は連珠オフラインにすら現れることなく消える作戦も多くなってきた。これは一時期、オフラインの前例を丸パクリして勝率を稼げた時代があったことの反動だろう。

局面としては白6となれば黒13まではほぼ必然。手順中白12をどう見るかがこの局面を判断するポイント。当時から2015年くらいまでの私の感覚では、白12は「黒の急所を消した好手」でここから一局。これが今の私の感覚、というより恐らく現代連珠の一般的な感覚だと「黒の急所を消すためとはいえ、大事な一手を受けだけのために使わされた」となる。どうしてこのように変化したのかというと、手番そのものの価値が上がったというより手番を持った後どうするかという技術が向上したことが理由だろう。手番を持ったは良いが、結局うまく攻めることができずに自爆するのは連珠あるあるだ。手番を持った後、そのまま攻め勝つ技術、あるいは満局以上を確定させて受け側だけに負担を強いる技術が飛躍的に向上した。それに伴い上図のような「一度完璧に受け止めてから反撃を狙う」思想は研究だけでなく実戦的な考え方としてあまり良くないとみられることが増えた。最近新しく研究された序盤を見るとよくわかるが、いまは白番も攻める。本当に受けない。隙あらば斬り込んでいく。現代の白番を打ちこなすのは大変だ。さて、局面としては既に白が結構忙しいことになっている。黒はA,Bといった引き筋があること、本当に黙っていると黒Cが即必勝クラスである。

 

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白14は白Bという反撃を狙った攻撃力の高い受けではあるが、黒13と打たれたことにより速度面で後退した。この2手の交換により黒は15と叩くことができる。(単に黒15と打つと白Aから追い詰め) 白Bは確かに怖いが、打たれなければどうということはない。怖い手を打たれる直前を狙ってラッシュをかける。当然のようだが、連珠においてはかなり新しい考え方だと思う。黒15に対して、後の白Cが楽しみだからと白16のような受けをすると、黒17と打たれ上辺だけで黒に勝たれてしまう。後の楽しみを実現させるのは難しい。

 

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白16は部分的には受けの手筋。上図黒17のような勝ち筋も受けているという意味で理にかなった手ではあるが、平凡に17と打たれると困る。黒19から23が白にとっては痛打。悲しいことに黒23がフクミ手(A~F)なので白の唯一の楽しみを先手で処理されてしまっている。白24と受けさせて黒25が最初に述べた無条件ヤグラで、この形における黒の勝ちパターンに入ってしまった。

 

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単に受けるのが良くないなら、白14で攻め合うのが選択肢となる。これには黒15が妙手のようだ。この手自体は白Aを黒Bで返せるというだけだが、この場所に黒石が存在することの価値が、将来的な攻めに大きいらしい。白16と受けさせてから黒17と引き出し、黒23まで落ち着いた局面では上下に攻めが残り白が困っているようだ。この進行自体は2012年三上杯の大角中村戦という前例があり、黒勝ちしている。(以下URL)この局面自体が完璧に白駄目なのかは私の研究不足により分からないが、中村さんが負けたというインパクトが大きかったのか?元々少なめの進行ではあったが、その後大きな大会で白6に挑戦する人はいなくなった。

http://www.renju.net/media/games.php?gameid=48032