連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

人間の判断を狂わせるもの~SOPAI杯八回戦 VS李小青~

SOPAI杯は全九回戦。泣いても笑っても残り二局で全てが決する。この日の朝は岡部さんが近づいてきて「優勝が見えてきたな」。そのときは「次勝ったら意識してみます」と答えた。その朝、七回戦の対局は今大会一番の僥倖としか言いようのない勝ち方。(以下参照) 流れは自分に来ているかもしれない。そわそわしながら次局を迎える。

 

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李小青は中国の対局アプリ五林大会において六段を所有していて、その存在はこのアプリを利用している人間なら誰もが知るところ。現実の段位は五段だったか。中国は基本的には最高段位が六段であり、七段~九段というのは普及などで実績を上げた人に与えられるそうだ。最近日本に上海の5級の方がやってきて、高段者棋戦に出場して5割の成績を残している。一概には言えないが、体感として例えば中国で三段あればこちらでは名人戦リーグの中位~上位クラスという認識だ。四段~六段はもうよくわからず、大体自分より強いだろうと思って対局している。

 

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第1図 1235黒 李小青 4白 私(5A→8,11,14,A~C)

彼女は今大会寒星一本に絞ってきているようだった。私は大会前半に白6までを採用して勝っており、相手としても私がこの順を選ぶことは想定内だろう。ならば白4で変化するとか、提示を七題から八題に変えて意図を外しに行くという手はある。今大会の私のテーマの一つとして、自分の技術や研究が中国でどれほど通用するのかを確かめたいというのがあり、それを通した格好である。優勝が近づいてきたのだから路線変更していきなり勝ちにいくというのもアリではあるが、それはそういうテーマ、つまり目先の勝ち以外何でもいいものが出てきたときに発揮させようと保留した。黒15まではお互いにほぼノータイム。この進行自体前例では黒有利と見られており、白16が用意の手だった。相手が考慮に入る。

事前の練習では黒良さそうだが具体的な手段が難しい、くらいの漠然とした結論で、本譜17の剣先叩きは試されていなかった。要所なので30分くらいは使うかもしれないと思っていたら10分程での着手。どうやら相手は私と同じ感覚主体のプレイヤーのようだ。こちらも考え始めて脳内検討のスピード低下を自覚。あまり意識してはいなかったが、本格的に疲れているらしい。私の場合こういうときはパパっと打つほうが精度が高い。・・・ぱっと考え付く進行が白良くなさそうな上にそれ以外の手段が難しい。練習では白も結構やれると思っていたのだが・・・。実戦で本腰を入れて考えるのと練習でざっと打つのはやはり違う。このギャップは挑戦手合いでも痛感したところで、課題の一つだろう。

 

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第2図 白26まで

結局第一感の白18へ。以下白24までは想定通りで、黒25は単にAかと思っていた。その場合、例えば白B黒C以下、上辺のごちゃごちゃが複雑ではある。私なら20分くらいは考えそうだが、大して時間を使わず叩いてきたあたり相手も疲れているか。本譜なら白26が手順に入るので、黒A後の下辺をだいぶ受けやすい。

李小青は対局中の挙動が大きい。白26を読んでいなかったのか、それまではただ真剣な表情だったのが急に神妙な面持ちになり頭を抱えだし、終いにはわぁどうしようとでも声に出そうな顔つきだ。こちらも釣られてフワフワしだす。

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第3図 白44まで

急に多くの手が進んでしまい読者の方には申し訳ないが、対局が実際このくらいのペースで進行した。持ち時間90分の対局ではあるが、黒27~白43まで恐らく10分経たずに打ち進められ、白44も5分程度の考慮だった。黒37の時点でふと周りを見渡す。私の右前方は神谷君と陳新が両者微動だにしない熱戦を繰り広げている。手数も見た感じは10手ちょっと。再び自分の局面を見返して思わず苦笑する。相手も気づいたのか、一度同じ方向を見て苦笑した。そういえば以前にもこんなことがあった。2014年のチーム世界選手権で打った時だ。神谷君と同じチームで、私の対局は両者ポイポイ打ち進め50手超えで考慮中。神谷君のほうは両者同じ体勢で10手いくかどうかの局面を大長考合戦。対局相手はその局ごとに運次第だが、近い者同士が惹かれあうのかもしれない。

白38までは想定通りで、これで白受け切りだと思っていた。黒39~43に違和感があり、一気に良くなったかとソワソワ。白44の第一感はAだったが、ここまできて頓死したら嫌だなぁと躊躇してしまい、まあいいかと打った白44が大悪手。やはり白Aだった。いままで積み上げてきたものが崩れるかもしれない恐怖にどうも弱い。「疲れたとき、よくわからないときは第一感」という原則は私の敗戦譜を洗い直すと明らかで、自覚もあるのだが間違えてしまう。「人間は分かっていながら不合理な選択をする」とポーカーの木原さんがツイートしていたと記憶しているが、心に刺さった。

 

 

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第4図、黒53まで

黒45の考慮中に黒49に打たれたら嫌だなぁと思っていると、色々決めてはきたが黒49と打ってきた。目の前に現れてようやく自分の犯したミスの大きさが押し寄せてくる。あれほど変な失敗をしたくないという恐怖だけはあったのに。ここでかなり動揺してしまい、時間は40分ほどあったが受けを誤った。始めから悪いと思っていて読む分にはかなりの率で間違えないのだが、良いと思っていた、あるいは好転しつつあると思っていた状況が実はかなり悪かった、悪くなったと自覚すると正常な判断力を欠いてしまうらしい。ある程度は精神的な練習で克服できるのだろうが、人間である以上仕方ないのかもしれない。それよりは、より正確な形勢判断をできるよう練習するほうが賢明だろう。白50もAが第一感だったが、黒51が怖くなり外した。白50に黒Aしか考えておらず、黒51と打たれて受けが絶望的に難しくなった。ここでもまだ一応受けはあったようだが、本譜52の敗着を出してしまったのはやむを得ない。黒53以下完全な追い詰めだが、当時はここでもまだ受かるかもしれないと思っていたのだから判断力が死んでいる。

 

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第5図、黒59以下四追い勝ち

白54に黒55が妙フクミで、これでようやく負けを自覚した。この手は以下ABC or 56EGFの四追いを狙っている。二か所の四追いを同時に受けるにはDか56しかない。白56に黒57が決め手で、以下EHLIJKMの四追いだ。最後は上辺の剣先も活躍し、まるで作ったかのような詰み上がりになった。

 

本局の敗戦で優勝できないことがほぼ決定的になり、大会としては痛かった。この対局は私の弱いところが多く出てしまった。色々引き出せたという意味ではよかったので、この教訓を挑戦手合い第4局や来年の対局で活かしたい。

 

※ブログ執筆後にRIF公式の棋譜を見たところ、左右が反転していました。申し訳ございませんm(__)m