連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

棋譜並べ④ 小山純VS佐藤清富~ポイポイ流大決戦~

この棋譜を取り扱うにあたっては個人的に葛藤があったのだが、ともかく面白いので紹介したい。

両者は感覚型プレイヤーの大家で、「ポイポイ流」と呼ばれる通りほとんどの局面で長考することなくどんどん打っていく。具体的に言うと一手につきノータイム~1分くらいが着手時間としては多いだろう。一手の価値の高い連珠においてこうした棋風、というより時間の使い方は珍しい部類に入る。ポイポイ流がぶつかり合うとどうなるのか、早速見ていこう。

 

総譜

http://www.renju.net/media/games.php?gameid=75694

 

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(黒:小山六段 白:佐藤七段、白16まで)

 

局面は寒星の従来型からのスタート。どちらが誘導したかは不明だが、長い戦いを得意とする両者には合意の展開だろうか。比較的古くから打たれているだけあって前例の多い序盤だ。白8はAが最も一般的かつ有力と見られている手で、かなり先まで定石化されている。本譜白8は手の広い展開になりやすく、つかみどころのない局面を得意とする佐藤七段好みかもしれない。黒9~11は局面の善悪というよりは「今日はこれをやりましょう」という意味合いが強い。連珠の序盤としては早くも自由度の高い局面となっている。白12は大事な手。スペースの広い下辺側から受けるのが大局的に見て有効打だ。

黒の次の手が難しい。13は、下辺に直接打つ手が閉じられてしまったので上辺から味付けをして下辺に迂回しようということである。上辺での攻防が下辺の形勢を左右する。こういうことは連珠にはよくあることで、主戦場で最大限得をするために関係ない場所で頑張るというパターンだ。白14は連を止めながら連を作る普通の手。黒15が一つの岐路。Aと受けて下辺の形を決めない打ち方もある。その場合のちのちの白BからCが気になるのが一つ。黒Aに白Dと受けられた形で、白Eという好点が残ってしまうのがもう一つ気になる。本譜が最善かはわからないが、実戦的に安全な進行を選んだ。

白16はそれっぽい受け。本局、色々なところにそれっぽい手が出てくる。ここでは強くCと受けておいて下辺の完全なる制圧を目指す手段もあるが、例えば黒16と打ち、黒が上辺で猛攻を仕掛けてくるため怖い。ひとまず堅く受けておいて相手の手を訊いた。

この局面が本局の一番の勝負所である。攻めのスペースが最も広いのは双方とも下辺のため、ここにどちらが良い形で打ち込めるかが肝。現状白12の石が下辺側へ最も外側に飛び出している石なので、この局面を初期値とすると白のほうが若干打ちやすそうだ。ただ黒は手番を持っているのと、上辺を自由に使うことができるため、うまくすれば下辺制圧を見込める手順があるかもしれない。形勢は難解。本譜の順を追ってみよう。

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(黒23まで)

突き出された剣先はとりあえず叩くのが実戦心理というものだが、私が棋譜を全体的に見渡した限りではこの判断が唯一の疑問手だったと思う。というのは、この剣先は現状ほぼ受けにしか効いていないため、処理する優先度が低いことと、叩いた黒の手が盤端に近い。この局面では例えば白の好点であるAに先着しておいて、上下どちらから受けるのか相手の手を訊いてみたい。厳密な善悪は分からなくても、相手にとってポイントの高い場所に先着しておく手は損が少ないので、その後の方針を決めるのに役立つ。白22まで部分的に収まった形では、黒に別段得はないが白にBの好点が残ってしまい、将来的に処理しなければならない負担となった。黒23は部分的な好点でなんとなくよさそうに見えるが、ほぼ右上にしか手がないため攻めが単調になりやすいきらいがある。

 

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(白36まで)

白24で35といきなり手抜くのは、黒25がフクミなのでいきなりゲームセット。黒23は剣先単機と見せかけて呼珠になっている。白は愚直に受けながら自動的に連と剣先を補充していった。黒は33で白の将来の突き出しを受けながら黒の剣先とも連携しそうな場所に先着できたが、白34が次の35を睨んだほぼ先手の受けなので、見た目ほどの迫力はない。ここで黒35と手を入れなければならないのが黒としては痛い。白36が強そうな切り返しで、白Aを睨みながら白12から桂馬の位置に展開し、安定的な白模様の構築を狙った。理論的に突き詰めればより良い手段もあるかもしれないが、見た感じ良さそうな手だ。黒はすぐに負けそうというわけではないが、上手く処理するのは難しい。

 

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(黒57まで)

白38の善悪は不明だが、雰囲気は攻防に効いている。理論的に説明すると黒39から下辺に向かう攻め筋に蓋をしながら連を作るという手、ということになるかもしれない。直接的に強い狙いがあるわけではないためぼんやりした印象だ。佐藤七段は日本の連珠打ちの中でも一番と言っていいくらいの感覚派で、感覚で打っていくとこういう理屈では説明しきれない手が増えてくるものらしい。黒39から直接受ける手もなくはないが、速い段階で自由度の高い局面を渡したくないのが黒番としての実戦心理だろう。先手で白の上下の模様を処理しにかかったが、黒57までついに手番が白に渡った。白としては残された左下で勝ちを作りだせるかの勝負になる。

 

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(白64まで)

白が自由度の高い局面を手に入れたのは58手目。これは手数として見ればまあまあの戦果だ。手数の少ない段階で主導権を握ればそれだけ勝つチャンスが増えてくる。私の思うに50手が一つの目安だが、周囲の形にもよるので一概には言えない。黒から見た理想的なドローとは、70手近くまで主導権を維持しながら盤面を埋め、相手に手を渡す次の手で白の攻めが全くなくなるもしくは一か所に限定される状態にもっていくことである。白が勝つならなるべく早期に主導権を奪取するのはもちろん、強い攻めが見込める場所が二か所残っているとよい。(そのうち一つは黒に消されてしまう) 本譜では右下と左下だったが、白に手番が渡った58手目の時点では左下に強い攻めが残った。

白58と一本三を引いて黒からのバリバリ筋を消しておいたのは実戦的。続く白60がこの局面の大きな急所の一つ。やはりロケットは攻めに重宝する。黒61では62と飛び四で抑えるのが手筋だが、白61と手順に好型に組まれるのを嫌い泣く泣くここに打つことになった。そして白64が広い空間を最大限活用する妙手で、なんとこの手自体が以下ABCDの四追いフクミになっている。「広い+速い」はほぼ良い手なので覚えてほしい。白は時間切迫になっているはずの中で的確に急所急所を捉えてきており、強い。黒としては見た目はもう受からなさそうなので祈るしかない。

 

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(白80にて黒投了)

黒は65から残された全ての剣先を利用して時間つなぎに出た。それだけ局面が苦しいことを示している。他に受けがあったのかはわからないが、本譜73では明快な白の追い詰めが残っていた。白80までX点三三禁。投了もやむなしだろう。

 

本局は主戦場が下辺でありながら上辺から手を付けていく連珠となった。こういうのは実際にやってみるとわかるが非常に難易度が高い。ちょっと間違うと攻めが潰れてしまうため神経を使う進行になる。下辺に戦場が移動してからの白の打ち回しが素晴らしく、白の快勝で終わった。