連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

棋譜並べ③ Artemiev VS 曹冬 ~勝つための受けの方針~

チーム世界戦自戦記については別の場所で話す事情ができたということで、とりあえずそれが終わってからの更新としたい。今回紹介するのはチーム世界戦の別の局についてだ。Artemiev(以下本記事ではアルテミエフと記す)と曹冬の一局である。

 

総譜

http://www.renju.net/media/games.php?gameid=74844

 

この両者はもちろん強豪であるが、特に曹冬については受けの名手として有名。受けを勉強する際には彼の棋譜を並べるのがオススメだ。

 

さて、この棋譜については棋譜並べで扱うには特殊な内容をしている。それは

「攻め側が明確な勝ちを逃した後の受け側の打ち回し」

がテーマとなっている。通常棋譜並べは互いにある程度以上良い手を打ち合ったもののどちらかの快勝に終わるというのが分かりやすくていいと考えているが、この棋譜については受けの考え方について引き出せるものが多いと思い採用した。早速見ていこう。

 

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(黒:アルテミエフ 白:曹冬 黒17まで)

黒は13でAから打ち出せば追い詰めがあった。本局ではそれを断念し、黒17まで受けに行った局面だ。こうして白模様を潰しにいくのが最善だったかは不明だが、ともかく白に手の広い局面が渡された。今後の展開を左右する勝負所だ。

とりあえず現状把握をすると、黒にはわかりにくいがBまたはDと打つ斜め連一本。左辺に連と剣先が一本ずつあるが直接の追い詰めはない。もう一手黒が連打できればこの左右の連剣先を連携させるべく上辺に打ち込む。そうなれば勝ちになるかどうかは別として迫力のある攻めが発生する。

一方白は連剣先こそ一本もないものの外側全体を包囲しつつある。ここを上手く対処すれば空間全体を利用した勝ちが見込める。これらを踏まえて方針を考えていく。

先ほど「勝ちが見込める」と述べた。この感覚は難しいのだが、ともかく引き分けより勝ちに近いと判断した場合、最初にどこで勝つかを考えるのが良い。連珠で勝つには基本的に五連を作る必要があり、五連を作るにはスペースが要る。さらになるべく自分の石が多くて相手の石が少ない場所が理想だ。この場合は下辺である。現状白には連も剣先もないため、いきなり下辺にバーンと打ち込むのはせっかくの優勢を台無しにしかねないリスキーな手段。うまく上辺の黒模様を破壊しながら手番を奪取して無条件の下辺先着を目指したい。一般的に受け側の勝ちパターンは

①何らかの手段で手番を奪取

②ポイントの高い場所に先着しながら力を貯める

③勝ちたい場所で集中砲火を浴びせる

この三段階が基本となる。

なおこの局面ではBが黒の連を止めながら白の連を二個作り、さらに下辺に配置されるという意味では良い手ではある。ただこの場合は黒Cと打たれて、下辺でわちゃわちゃ攻めたり受けたりを繰り返しているうちに盤面が埋まってしまうことがよくある。明らかに優勢なはずなのに勝ち切れないというのは連珠でよくあるが、上記のことが原因になる場合が多い。勝ちを目指す場所は相手を止めながらではなく、なるべくフリーで打ち込むのが原則だ。実戦の進行を追おう。

 

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(白26まで)

白18が上記における①で、強い手を打つことで相手の手に制約を与えている。黒19は先に打たれてしまうと白の発展性が膨大になるので仕方なし。ここに使わせて白20となったことで下辺に効く黒の連を一本消すことに成功している。黒21に対し白22は、反射的にAと打つ方も多いのではないか。結果的に残る連の数自体はそちらのほうが多いのだが、上辺に白石がないのが心細い。もうひとつ、こう本譜の白22は形を決めずに保留しているので攻めのバリエーションが豊富になりやすい意味がある。

黒25に対する白26は②に該当する手。ここは黒からすれば攻めを組み立てる上での要所だが、白から打てば剣先である上に次にCと打つ楽しみがある。ここまでで上辺の黒模様をほぼ完全に消し、自分だけが攻撃態勢を整えている。

 

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(白36まで)

白28では前図C、本図では34の位置に打たずに先に28と打った。これも黒の剣先を消しながら次にAを残す大きな手だ。いきなり34に打つと黒29と打たれ一度上辺の相手をしなければならなくなるのを嫌ったのだろう。Aと受けさせれば効かしだし、本譜のように手抜かれても受けながら手順に攻撃態勢が整っていく。細かいところだが大事な攻防だ。黒はA点を直接受けずに、黒29と打つことで右辺に効く剣先を作るだけでAをカバーすることにした。これは非常手段気味で下手をすれば右上だけで白勝ちが出かねないが、白の下辺の大海原を少しでも削るためにはやむを得ないか。白は36までBやCといった新たな好点を用意しポイントを稼いでいく。

 

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(黒45まで)

黒37は攻めるというよりは少しでも白Aの威力を削ごうという意味。白模様を削るために何とか頑張ったがついに黒45までで完全に手番が渡った。白は右下を連一本増えた状態のほぼ無傷で獲得したため上々な戦果だ。左辺にもBや、一手遅い手ではCといった好点を残し、上手く連携させれば勝ちが出そうな局面だ。

 

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(白56まで)

このあたりは想像するに両者既に秒に追われていて、あまり論理的な組み立てはしていないだろう。雰囲気だ。白46はとりあえず打ちたい場所で、ここだけで勝てれば儲けもの。黒47に対し白50までで一気に攻撃態勢を整え黒51。白の攻めは下辺に向かっているが黒は上辺から受けている。「攻める方向と逆側から受けさせる」のは連珠の攻めの原則的なセオリーで好調。

白52は右辺の白56だけでは不十分と見て攻めを加算しにきた。実際にはどうなっているかわからないが、実戦的にはしばしば有効で、盤面全ての石を一つの場所に向け猛攻を仕掛けるというのが発想として重要だ。この数手の攻防により白はAのミセ手を用意した。そして満を持しての白56で、勝ちが出るかどうか。

 

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(白60にて黒投了)

 

黒57は白の直近の追い詰めを受けた。白58となんとなく左辺にも効きそうなヤグラを組み強烈なプレッシャーを放つ。黒59では左辺を意識しすぎたか、白60以下即詰みとなった。投了図以下は黒A後、白BCと打てばX点が四四禁となる。

 

本局は白がチャンスを得て以降受けのの方針や具体的な打ち回しが実に鮮やかだった。曹冬は世界チャンピオンにもなった強豪だが、そのレベルのプレイヤーでもこうした基本に忠実な方針に則って打つのだなぁと感心する。むしろ強いからこそ教科書的な打ち回しを正確にこなすのかもしれない。是非何度も並べて感覚を掴んでほしい。