連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

初見と既知ー連珠の構図の研究

初見には弱い

友人による私の評価の一つに「(一般と比べて)初見には滅法弱いが、二回目以降には強い、だから経験値を積むことが何より大切。」というものがある。この指摘が客観的に正しいかどうかは別として、長年私を見てきた人による評価であるので大事にしている。

連珠の公式戦でいうと、去年の珠王戦がソーソロフ8ルールの初採用大会だった。私の性質上こういう意味での本当の初回は大体酷く、実際に結果としては2勝2敗2分で12位くらいだった記憶がある。ただ私としてはこういう機会はチャンスであると考えていた。特に今回のルール変更は全員にとって初見であり、大きな失敗を遠慮なくしやすい。この黎明期に守りに入り、周囲の研究や考え方が確立してからそれに参入しようとすると、5年や10年といった長期視野において圧倒的に勝てなくなるだろうという予感もあった。実際にこの敗北での知見は後の大会において大きく活かされている。某氏に「珠王戦5割だった人間がその年のAT(世界選手権決勝)に出て名人戦リーグを優勝するんだからねぇ・・・。」と言われたが、私の認識としては逆で、あの敗北があったから今に繋がっているという気持ちが大きい。特にATの悲惨な内容については色々思うところがあり、技術的にいくらか向上したのではと感じる。

 

名人戦第二局の話

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(名人戦挑戦手合い第二局途中図、白22まで)

 

対局後しばらくして解説動画を見たのだが、白18、20はチャレンジングでありこれは黒勝ちになるだろうという旨の解説がされていた。

私の当時の形勢判断は「白が最善の受けをしていけば恐らくいい勝負」くらいのものだった。

この局面を少し見てみよう。まず手番、つまり主導権は黒にある。盤上最もスペースの広い左辺に先着でき、連と剣先を同時に作ることのできる好点がわかりやすく存在する。これだけをみれば確かに黒が勝ちそうだ。

一方で白の視点からこの局面を見てみると、直近でAやBといった分かりやすい好点、黒から見れば負担がある。上辺の剣先が下辺の黒斜め連を間接的に止めており、下辺の剣先二本は動きやすい。下辺側の戦いに持ち込めれば充分に受けは見込めそうだ。

 

双方の主張をまとめると、「黒の明確な攻勢+手番VS白番+相手の大きな負担」となる。最近の連珠はこの構図を取ることが珍しくなく、私自身これがどうなるかというのは自分で考えたりソフトに打たせたりでかなり研究はしていた。当時の結論は「いい勝負」であった。この局面自体は初めて打ったが、この構図については深い研究があった。これは初見なのか、既知なのか?

受けという観点から見てみる。連珠の受けではよくある展開が2~3ある。この局面は典型的なカウンターアタックの形である。連珠の受けを主体とする展開の中では個人的に最も得意だと考えているパターンなのでそれなりに自信はあった。基本方針は「黒の攻めをぎりぎりのところでいなして手番を持ってAやBに打ち込む」となる。あとはこの方針をどこまで通せるかにかかっているが、本譜は理想的な形で白Bと打てたのが幸いした。

現代連珠は局面の数が膨大となっている。個々の形を研究しても全てを記憶することは不可能であるため、こうした構図の研究の重要性が増すだろうと考えている。