連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

いつでも良い手は後回し

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上図は、先日時空伝さんと五目クエストで打った棋譜の途中図である。連珠に詳しい方はお分かりと思うが、黒11まではよく出てくる定石手順の一つ。次の手で定石は白A。剣先を二本作る自然な手。知らなくてもここに打つ方が多いのではないだろうか。しかし私はこのとき白Bと三を引いた。これが間違いの始まりだった。

 

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白14に対し黒15は、この定石の部分図としては成立しないという記憶があった。ここでは黒Aが盤上唯一の手のはず・・・という漠然としたものがあったのでよくわからないまま突撃した。

 

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結果として23までで完全に受け潰されてしまい、以下ひたすらに黒の猛攻を受けなければならなくなった。いわゆる破綻である。私はよく攻めが空中分解するという言い回しもするが、意味合いは似たようなものだ。

 

どこで間違えたのか?

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調べてみるとこの12に対して黒13は成立しない、つまり白勝ちのようだ。あの三ヒキ一本で悪くしてしまったということだ。具体的にはどういうことなのか?

 

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白18と黒の連を止めた手がフクミになり、攻めが継続する。白の四追い筋がお分かりだろうか?

 

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白1~白5と四を打っていくと黒6の場所が四四禁になる。いわゆる「四角形の頂点が禁手になる」というパターンだ。

 

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もう少し分かりやすく図示するとこんな感じ。黒の赤枠で囲った石が青のラインと緑のラインの合流点で四四禁となる。

ここまで書くとお気づきの方もいると思うが、最初に三をヒイて勝てなくなった冒頭の図では、この四四禁の攻め筋が消えている。

 

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冒頭図から同じことをしようとすると上図になる。この場合、赤枠で囲った石は四四禁ではないのがわかる。

 

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さて、X点四四禁の四追いを残されている黒はかなり差し迫った状況にある。青または緑のライン上に受ける手は全てX点四四禁になってしまう。白18は剣先を作っている。普通ならこの剣先を受ける*点に打ちたいが、青ライン上なので四四禁になってしまう。黒はAと止めるくらいだが、白は自然とこの連を止めるBで、再びX点禁を狙えば黒に受けはない。

 

いま打つ必要があるか

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冒頭図における白Bは、黒に先に打たれない限りは自分から打つことができるので、今打つ必要はない。連珠では「いま打つ必要があるか」という問いかけが局面を正確に理解するキーワードになりやすい。いつでもいい手は後回しが基本だ。常日頃気を付けているつもりだが、時々すっぽり抜けて本譜のような大破綻を引き起こしてしまうことがある。普段の練習でも気を付けたい。

五目クエスト攻略~疎星の打ち方~

五目クエストで三珠交替打ちが採用された。このことによって予想されるのは、疎星、長星、流星の三珠型がとてつもなく増えるだろうということ(自由打ちで互角が保証される)、恐らく多くの人にとってはレートを上げるのが大変だろうということだ。なぜならこれまでは極端に言えば手順を丸暗記すればレートを上げることができた。三珠交替打ちの下ではそういうことは通用しなくなり、考えて良い手をひねり出す必要がある。

上記3つの戦型からどれかを勉強しようと思ったとき、初心者にも強い人にもおすすめなのが表題の疎星だ。長星、流星は序盤から殺傷力の高い展開になりやすく、細い最善をいく必要がしばしば出てくる。対して疎星は、多少の損得はあれど何を打ってもそこそこの展開になりやすい。急戦持久戦と展開も幅広く、この珠型一つ勉強すれば連珠で必要な概念をほぼ一通り回収できるのもいい。加えて長星からは合流するので、対長星で悩まなくて良くなる。

 

疎星の特徴

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 疎星の形としての特徴は強制手が少ないことだ。白4はこの一手。対して黒5でいきなりA~Gとこれだけの選択肢がある。現状五目クエストではほとんどAしか見られないが、厳密な善悪はあるもののB~Gも大体互角くらいで打てる。連珠をあえて序盤、中盤、終盤の3つに分けるとして、私の中での序盤の意味するところは「強制手をお互いに打つステージ」である。通常、連珠の序盤は1~3択くらいを局面開始からしばらく迫られて、その後ある程度自由に打てる局面(ふわふわしているが大体4択以上)を迎える。今回はAを扱うが、この形の場合次の白6までで序盤が終わり中盤戦に入るという見方もできる。急戦を選択すると再び長い序盤に突入することもあるが、基本的にはいきなり手広い。

 

何を基準に作戦を選ぶか、局面の分岐

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白6はこの一手。他はちゃんとやれば全部黒が勝つため、ハメ手だとか奇襲の類になる。黒7の選択肢はA~Dの4通り。これらの共通点は、白4、6の連を何がしかの形で止めている。材料の少ない序盤で相手の連を無視すると大体大変なことになる。

さて、この中で何を選ぶかだが、本筋と言われているのは黒A。やや悪いとされているが黒Bもある。Cを説明すると長くなるので省略する。黒Dは前図黒Cと打った形に合流する。これはやや損といわれている。普通に打つなら黒Aだが、急戦持久戦と相手からの手段も多い。黒Bは形勢的に損をするものの局面展開を絞りやすい。形勢をとるか、自分のフィールドに誘い込むのを選ぶかの二択になる。連珠ではこの形に限らず、こういう類の分岐がよく現れる。ここでは説明しやすいAを選ぶ。

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黒7を選ぶと白からはA~Cの大きな分岐がある。白Aの一部の変化以外はほとんど持久戦になるので、それ以外は覚えなくてもなんとかなる。知らないとヤバそうなものを先に紹介。

 

急戦型で気を付けること

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黒9を選ぶと急戦になる。連珠における急戦は

①盤面で黒と白が分かれている

②互いに連がたくさんある

のどちらかあるいは両方が多い。この場合は①に該当する。急戦型において気を付けることは基本的に一つで、それは「受けるだけの手を打たない」ということ。常に反撃の余地を残す。この方針を意識するだけでも悪手を打つことはかなり少なくなると思う。例えばこの場合白10でAが受けるだけの手。連を止めながら連を作る基本に忠実な手だが、急戦では有効ではない。では白10でAと打つとどうなるのか?

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 黒11~黒13で、黒は全ての石が攻めに参加しているのに対し、白は2,4,6の石がほとんど受けに効いていない。このように、黒と白が分かれた局面で相手の攻めに完全に付き合ってしまうと、物量差を活かされて展開が一方的になりやすい。なお、変化は色々あるものの、白10に対しては黒11で完全に必勝であることが分かっている。

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白10に戻る。黒も11でAは受けるだけの手になる。そういうことはせずに黒11~13で戦いを挑む。こういった切り合いがしばらく続き、お互いの模様を相殺して局面が落ち着くことが多い。この後も紆余曲折あるが、一手一手説明するとキリがないので代表的な対局を以下に記載するに留めたい。

https://www.renju.net/media/games.php?gameid=69220

https://www.renju.net/media/games.php?gameid=87171

 持久戦で気を付けること

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黒9のように白石に絡んでいくと持久戦になる。持久戦で気を付けることは以下。

①なるべく外側に周る

②攻める際は相手の連剣先の数と同じか+1以上を維持する

③攻めは自分が連をたくさん作れる場所(好点)に打つか、相手の好点に先着しながら自分の好点を増やす

 

①は持久戦においての鉄則で、破るとたいていは酷いことになる。もしくは形勢を保てても打ち方が難しい。上図における白Dがそれで、この図ではこの手だけは打ってはいけない。

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白10は連を消しながら連剣先を作る手なのでいい手にも思える。実際は内側に籠っておりそれを咎められてしまう。黒11~15が よくある対応で、この局面で既に白は困っている。黒は以下、Aが③、B、Cが①②に該当する。黒としてはほかにも外側に周る手段はあるので、必ずしもこの図を選ぶ必要はない。以下に実戦例を記載。

https://www.renju.net/media/games.php?gameid=62365 (手順は違うが合流)

https://www.renju.net/media/games.php?gameid=16071

https://www.renju.net/media/games.php?gameid=47866

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②③について少し補足する。例えば上図白12までは白の専守防衛案としてよく出てくる形の一つ。相手の好点を消しながら自分の連を増やすという意味で真っ先に候補に挙がるのはAだが、この局面は白に連がない=反撃がないため他にも様々な選択を採ることができる。例えば、黒Cは同じように好点を消しながら次にBなどの好点を残している。他にも黒Dは先ほどとは異なる白の好点を消しながら次のEを狙っている。連がないということはお互いに選択肢が広いということだ。

白8で変化する形などには触れていないが、この記事で記載した考え方に気を付けて打てば、ある程度はなんとかなる。今後個々の形についても触れるかもしれないが、やるとしてもツイキャスなど映像かな...現状は疎星定石を一通りおさらいした動画をアップロードしていたのでそちらも参照してほしい。


[ツイキャス] 【連珠】疎星定石のあらまし【五目並べ】 (2019.10.01)

第57期連珠名人戦リーグ1回戦 長谷川九段戦

ふと自分の連珠が客観的にどうだったのかを調べてみたくなったので書いてみる。

 

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私の白番。この時点での私の研究では七題提示が相場だったが、いまは六題提示でも充分だと思っている。後々試す必要がある。この中で五珠指南書に載っていないのはK9。載っていないということは指南書的に少なくともいい手ではない(完全に咎められるかは別)か、注目されていないだけで充分打てる手か。初見なのでこの時点では判別できない。五珠J7に対しては準備に自信があったのでそちらを打とうかとも考えた。しかし今大会のテーマが、2年後の世界選手権に向けた自力向上及び勝負師としての自分の模索であったためこれを見送った。別の機会で打つこともあるだろう。

 

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第一の反省局面。白6本譜はあまり考えずにまぁ悪い手なわけがないだろうと思って打ってしまったが、黒5を悪手と解釈して本気で咎めにいくなら白6でAも有力だった。私の序盤(一概に言えないが大体開始15手から20手程度)の判断は総じて甘い。疲労しているときはまた別として、調子の悪くない状態におけるミスはほぼこの段階および詰み周りに集中している。連珠の序盤力はほぼ終盤力とイコールといってよく、終盤力に難のある私としては当然の帰結かもしれない。考えて分からなかったのなら仕方ないとして、せめてAをもう少し考えたかった。

 

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白10でYixinやEmbryoといったソフトは違う手を推奨する。比較検討してみたところこれは好みの範疇だろう。軽く検討した程度では何が明らかにいいというものではなかった。落ち着いた状態でソフトを使用して分からないということは、実戦的にはもっと分からない。問題なのは白16。直前の黒15に対して違和感を持ったのはそうなのだが、具体的な対処方法が分からなかった。このときの私の第一感は白Aからの追い詰めだったが、白Aに対し黒Cで勝てないという判断だった。黒Cで勝てないのなら白Cからの追い詰めを考えるのが漏れのない手順。しかし詰みがなかった。感覚としてはどう見ても何かありそうなだけに、次の手をどうしようか苦心した。結局白16で本譜のように受けておいて、後の白Bを狙いにする長期戦構想に切り替える。この判断自体は悪いものではなく、分からないなかで次の手を選ぶという意味において良い判断だったようだ。ただこの局面には白に勝ちがあった。

 

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白16から全部打っていき、白22まで冷静に三三禁を睨んで受け無しというのがその手順だ。Embryoが0秒で勝ちを示すのだが、私は1秒も考えなかった。まず全部打つというのをあまり重要視せず、追い詰めではなく呼珠受け無しで終息するのが完全に盲点だった。思いのほか思考に制約をかけてしまっているのだと気づかされる。こういうのを漏らさないためにはどうしようか・・・。

 

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本譜に戻る。白16黒17で局面を悪くしたかもしれないと感じていた。確かに最善=勝ちからちょっと有利くらいまで戻されているのだが、思っていたほど局面は悪くなかった。白18は相当自信がなかったが、ソフト的には推奨手らしい。以下24まで16のときの狙いが実現した。まだやれる。評価を調べても白18から24は最善クラスのようだ。白26では急に良くなったと感じて保守的になってしまった。こういうところ感情の急激な揺れが手の精度に表れているように思う。Embryoは白Bを推奨していた。私は本当なら白Aに打つつもりで、黒の詰みなしを時間内で断言する自信がなく本譜を選択している。本譜は本譜でYixinでは推奨手だったので好みなのかもしれない。

 

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黒27では右辺を受けにいくべきであった。白28以下追い詰め。仮に27で受けていれば上辺での戦いを考えていた。

 

全体として明確に間違えた箇所が一つ。それでも被害を最小限に抑えたということでよしとしよう。数年前ならこういうミスが出るたびに発狂していたが、いまはだいぶ落ち着いて見ることができている。比較的よく打てたほうだと思う。

 

 

 

 

 

部分処理

noteのほうには局面以外のことを書いているので、こちらは局面について書くという棲み分けをしたいと思う。必然的にガチ記事が多くなってしまうかもしれない。正直そのほうが書いていて楽しいという面がありご容赦いただきたい。題材は主にカカオの30秒連珠から。

 

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私の白番。流星より黒9は時折見られる打ち方。この手自体は将来の黒Dなど左上での攻めの破壊力を増強する意味合いが強い。それを恐れて白が上辺から受ければ、今度は右下で強攻しようという攻撃的な作戦だ。対する白10と単に止めておくのが決定版の対策とされ、いわゆる「終わった戦法」入りしている。とはいえそもそもあまり打たれないので実戦的には有効。私は忘却していた。黒11は両者の好点なので自然な手。白は中途半端に受けの姿勢を見せると猛攻を食らうので、強気に打って相手の出方に制約をかける。連珠で受けというと相手の急所を止めていくイメージが強いと思うが、実際には制約をかけるほうが出現する機会は多い。13まで自然な進行でここが岐路。

普通に考えれば白14ーAが最も堅い。これは右下だけを見ればいい手なのだが、黒の本命である左上を全くケアできていないのが気がかりだ。黒B以下色々くる筋と黒Dを連携されると攻めにバリエーションが生まれる。加えて、仮に白が続けてBと打ち込めたとしても白勝ちに至るほど強くはない。黒に何もないならこうした手でゆっくりと優位の拡大を図るのは有力だが、脅威を残している現局面では立ち遅れ気味だ。

 

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例えば黒17までが想定される。このときに次の黒Aに対して白Bが絶対となるのがネック。より左上に勢力を集中されてしまう。後は黒A~Cの斜めのラインが気になる。何かの拍子でCに先手で入ると詰んでしまうため、白としては神経を使う展開になりやすい。もちろんこれはこれで一局で、全部受け潰しますという意思表示として悪くない。ただ攻めの技術が飛躍的に発展した現代連珠において、こういう打ち方は総じてミス待ちになりやすく、相手が大きく間違えなければ黒勝ち or 引き分けにされてしまうことが多い。主体的に勝ちの可能性を高められるならそれを選びたいというのが白の希望である。

 

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というわけで白14。これは右側に連二本を蓄える手だが、ここで勝とうという手ではない。あくまで本命はA付近を見ている。方針としては

①手番を奪取してA付近に先手で打ち込む(理想)

②手番を奪取できないが黒Aに打たれたときに強く戦えるようにしておく

③最低でも右下の黒の剣先を処理して、左上単発の攻めに限定させる

 

という感じである。これを相手の手を見ながらどこまで通せるかになる。このあたりは白番の辛いところで、どうしても相手に対応するという形になってしまう。黒番だと相手は何でもいいからとにかく自分のやりたいことをしやすいのだが・・・

 

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結果としては①となり、理想が実現した。16、18によって斜めの剣先も付いてきたので局面としては勝ちになっていてもおかしくない。あとは適当に攻めて勝てるかどうかだ。黒は23で24に打つチャンスがあった。

 

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白26の是非は微妙。完全な必勝を構築するよりも逆転筋を消すことに注力してしまった。私の悪い癖かもしれず、ここ一番の踏み込みに欠ける。しかし黒27から29と欲張ったのが決定的に悪く、34まで打てて詰みに入った。なおこの段階でも全変化は読めておらず、大体勝ちくらいである。

 

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白46まで白勝ち。変化は色々あるが検討してほしい。

強さの中心はどこにあるのか?

私は連珠の他には将棋とバックギャモンをする。両方とも連珠に比べればはるかに弱く、馬鹿にされたことも時々あった。こういう話をすると多くの人は不思議がる。その筆頭は「将棋の羽生先生は将棋もチェスも強いのに、そうでもないんですね。」という類のもの。むしろ複数ゲーム超強い方が珍しいと思うが、どうしてこういうことが起きるのか、私の場合の連珠と将棋を例にとって考えてみたい。

まず連珠。局面を見た瞬間に95%くらいの確率で、盤面上のどこかしらが脳内で光る。いわゆる第一感というやつだ。そのほかにも、この手が駄目ならこう、工夫するならここを効かすなどといった別の候補手が局面を見てすぐに出てくる。基本的な認知、連や剣先がどこにあるかというのは無意識レベルで行われる。相手がフクミ手を打ってきたとき、コシュを打ってきたとき、相手や自分に四追いがあるかを無意識的に考えている。やっていることのほとんどが無意識レベルで行われるから本当に集中しない限りは疲労もほとんどない。

将棋ではどうかというと、まず駒の効きが怪しい。角筋は三万回確認とはよく言われるが、油断するとただで取られることもままある。決定的に違うのは候補手で、指したい手が存在しない。必死に数十秒から数分考えてここかなという手が出るものの、それが良い手である確率は相当低い。一方で脳内将棋盤は連珠をやっているためか比較的しっかりしており、時間をかければ10手や20手先の局面でも正確に脳内にイメージできはする。それだけ正確にイメージできればさぞ強かろうと言ってくる方は私の想像以上に多いのだが、そんなことはない。なぜなら例えば10手先を読んだとして、2手目からして相手に全く別の有効手を指され困ってしまう。脳内将棋盤は優れた感覚とセットで初めて力を発揮する。

このように、両者を比較して決定的に違うのは「局面認知力」「手札の多さ」「取捨選択の精度」である。この三つの要素は練習しないと養われないため、たとえ他のボードゲームで滅茶苦茶強くてもいきなりでは弱いことが多い。(但し、これらを身につけるスピードはボードゲーム未経験者と比べて速いと思われる。) いきなり強い場合はある程度ゲーム性が似通っている必要がある。将棋⇔チェスはその最たるもので、駒の種類や持ち駒の制限は違っても、他のゲームより性質が近い。こういうゲームでは上達が速くなるだろう。連珠では、類似ゲームにGomokuやコネクト6という競技がある。これらは連珠と似通っていて、全く初めてでも連珠経験者であれば結構強かったりする。

局面認知力については別の記事で言及したような気がするので、手札についてもう少し言及する。よく聞かれることとして「手札の多さってそんなに重要か?全部読めばいいだろ。」というものがある。私の経験上だけでいえば、これを言う人はそもそも結構強いことが多い。ここでの落とし穴は「全部読む」というところにある。例えば連珠では文字通り全部、A1~O15までの手を逐一吟味する人はいないだろう。手札の多さは「全部」の範囲に関わってくる。思いつかない手を読むことはできない。これに対して極端だろうという人がいるがそうでもない。連珠の重要概念だけでみても、「手抜き」という考え方を知らないと延々と相手の手に付き合うことになる。「連を止めながら連を作る」という方法論でとにかく連剣先に注目する人は、連が関わらない桂馬などの手が選択肢に入らない。とにかく速度重視という場合だと、ゆっくりした有効手がやはり選択肢に入らない。全部読むといっても、全部読むのは大変である。有効手をなるべく漏れなく網羅するために手札の多さが大事になってくる。

取捨選択の精度を鍛えるのは骨が折れる。まず取捨するモノを用意するところから始まるので先は長い。局面認知力と手札(取捨するモノ)については初期から練習しやすい上即効性がある。ここが鍛えられていれば対応できる局面が本当に幅広くなる。何が強さの中心かというのは議論は尽きないだろうが、私としてはこの二つが肝だと思う。

勝負の熱気はどこから来るのかという話~QTという異質な空間~

勝ち負け書いて勝負と読む。勝負は必ず結果が出る。みんな負けたくないから本気で戦う。こういう気持ちで満たされた場は自ずと熱気を帯びてくる。

連珠を始めて恐らく今年で12年になるが、連珠も勝負事の一つ故、色々な勝負を見てきたし自分でも経験してきた。練習対局から挑戦手合いまで本当に色々やってきた。感じるのは熱気の種類がその場その場でだいぶ異なるということだ。勝負の熱気として一般的に想像されるものは「目の前の相手に勝つぞ」であるとか「この大会で勝つぞ」というものだと思う。そしてそれが最高潮に達するのは最高峰の舞台と思われるかもしれないが、意外とそうでもない。少なくとも私にとっては挑戦手合いのあの場は連珠と向き合う空間であり、自分と向き合う空間であり、相手と対話する空間だった。勝負はどちらかといえば付随するもので、死ぬ気でこの人に勝つという感情はほとんどなかった。これが見てる人にどう映るのかは分からないが、「勝負」から想像されるそれとはちょっと違ったものだと思う。

連珠の場合、勝負としての熱気を帯びるのは実は最高峰の舞台よりもむしろその前段階、予選であることが多い。挑戦手合いよりも決定戦リーグ、それよりも二次予選、一次予選・・・と。必ずしもこの順番で熱気が高まるわけではないが、本戦よりも予選のほうが熱気を帯びやすいのは確かだと感じる。それは何故か。個人的な解釈では「みんなが共通の目標に向かって全力を尽くす」というのがある。予選は予選通過という分かりやすい目標があるため、みんなの意識が自然とそちらに行きやすい。

「予選でなく普通の大会でもそうじゃないか?」と考える人もいるだろう。意外と違うのだ。単発の大会で、あるいは予選ですらみんなの意識が共通のものに向かうというのは起こりにくい。「とにかく優勝」を筆頭に「自分なりのベストを尽くす」「とにかく1勝を上げる」「ケアレスミスだけはしないように」それぞれが最優先とする目標がある。別に目標を共有してなくとも一定の熱気はあるのだが、それはあくまで一定の熱気である。

ならば挑戦者決定リーグが最も熱気があるのかというと、それもまた違う。通常リーグの目標とされるのは挑戦権獲得もしくはシード権獲得だろう。この棋戦は毎回大会前に連珠世界でアンケートを取るのだが、全員が「死ぬ気で挑戦権を取ります」や「シード以上は死守します」という感じではない。実際に読んでみれば分かるが、人によって想い想いの目標やら意気込みがある。もちろんそれはそれで熱気を帯びているのだが。

さて、なぜQTを異質な空間かと書いたかというと、QTには明確な共通目標、予選通過がある。(世界選手権最終現地予選 Qualification Tournament でQT) そもそも出場者がだいぶ限られ、しかも大半の参加者にとっては海外で開催される大会である。そうすると、予選通過に強い志を持つ者しか集まりにくいという性質が出てくる。その結果起こるのは熱気というよりは殺気じみた雰囲気を帯びた空間であり、棋譜自体も他の大会に比べると穏便な進行は少なく、何としてでも勝つという斬り合いが多い。あるいは引き分けで通過できる場面であれば「全力で引き分けしか狙わないVS全力で勝ちしか狙わない」という対局もある。私がQTに出場したのは2015年が初だが、そのときは普段のどの大会とも異なる特殊な雰囲気に飲み込まれて、惨敗を喫してしまった。その場にいて空気が痛く、自分はなんてところに来てしまったんだと後悔しながら、大会中は適応できず焦燥感と不安だけが大きくなっていった。他の日本人出場者に話を聞いても「もうあの大会には出たくない。直接ATに行きたい。」という声が圧倒的だった。

私は今年の3月に行われた珠王戦での成績(この大会が世界選手権予選の役割を担っている)が奮わず、前回AT出場で得た個人シードでQTに出場することになった。そのときの率直な感想は「またあの大会に出るのか。寿命縮みそうで嫌だなぁ」といったようなものだった。前回QTは歴代でも最もレベルが高いと評されるほど熾烈であったが、今回もそれに劣らないくらいの難易度がありそうだ。しばらくは放心状態だったが、最近はかえって幸せなことなのではないかと思うようになった。あの空間で行なわれるような対局、魂を削り取るような戦いは他でなかなか経験できないこと。それをまた経験できる自分は幸福なのではないかと。気づけば去年よりもかなり練習もしている。もちろん練習したからといって勝てる保証はない。4年前のような惨殺で終わるかもしれない。それはそれで仕方がない。相手も死ぬ気で通過しにくるはずで、そういう人達がぶつかり合えば結果がどうなるかは本当に分からない。分からない、というところまで行って戦って負けるならそれはそういうめぐり合わせだったのだ。そこまで自分や連珠を高められるかのほうが問題である。もうあと一か月しかない。全力を尽くしたい。

前回QTもやってるほうはだいぶ必死で余裕がなかったが、見ていてくださった方々には非常に楽しんでもらえたようだ。今年もやってる側だけではなく、見てる方も楽しんでほしいな。

連珠に才能はあるのか?

連珠をやるために生まれてきたのではないかと思わず感じてしまうような人間は確かにいた。彼はいま連珠から身を引いているが、本当に強かった。将棋界で藤井総太先生が話題となって久しいが、仮に今でも続けていれば「連珠界の藤井総太」として名を馳せていたかもしれない。

これは私の記憶なのだが、ヒカルの碁で(搭矢アキラを評して)「一生勝てない。どんなに碁の勉強をしても、あいつには。」というような一節があった。そういうようなものを感じさせる人だった。私は連珠を12年ほどやってきているが、「あ、連珠は才能のゲームなんだな」と心の底から湧き出てしまうのがその彼に対してであった。それでも基本的には努力のゲームだと思っている。それ以外ではここまで才能の差というべきものに絶望した記憶はない。

というわけで、標題の問い「連珠に才能はあるか」に対してはYESである。この「才能」は一般的にイメージされる輝きを持ったそれを指す。私は先天的な才能と呼んでいる。このなかでも強い先天的な才能を持ち、それが競技と合致するのは実のところ業界に1人か2人いるかどうか、10人はいないのではないかというのが個人的な感触だ。先天的な才能の中で連珠で比較的よくあるのは「写真記憶」(これが正確な呼び方かはわからない)と呼ばれるもので、つまり脳内で読んでいて石が全く消えない人達がいるらしい。私は5個で消える。

上記のような才能とは別に私はもう二つあると考えている。「強い興味関心」と「廃人適性」の二つだ。ポーカーの木原さんの記事に当てはめると、この三つのうちどれか一つでも持っていれば上位1%に入りそうだ。二つ持っていると一流、三つ全部あると超一流という感じだろうか。

強い興味関心は、ある程度以上強い人であれば誰でも持っているのではないかというイメージがありそうだが、意外とそうでもない。この記事は連珠についてなので連珠を例に取るが、連珠そのものに強い関心を持っている人は実のところかなり限られるというのが印象だ。多いのは「この人と一緒にやるのが楽しいから」「対人競技特有の駆け引きが楽しい」「勝負で相手を打ち負かすのが快感」「周囲の注目を集めたい」「数字(レート)が上がればなんでもいい」この辺りだ。動機としてはどれも良いとは思うが、連珠そのものというよりは連珠の周辺事項である。もっとこう連珠にフォーカスした興味関心を持つ人は強い人の中でもかなり少ないと思う。「相手を負かすことが楽しい」と「駆け引きが楽しい」、「承認欲求が強い」の三つのパターンが見ていると多数派だろうか。誤解しないでほしいのは、そもそも強くなる人は一定以上連珠が好きだし、連珠が好きで好きでしょうがない人も勝負事が好きで承認欲求が強いことは多い。動機を切り抜いた際にどれが一番強そうかという話を私の独断と偏見に基づいてしている。理想型としては「連珠にフォーカスした興味関心」が中心にあって、かつ対人勝負が好きであるが承認欲求からは解き放たれている状態だろうか。現実的にはこの型にどれだけ近いかということだろう。難しい。

廃人適性も稀有。Twitterを見ていても2000局打つだけでなんとかなるといった言説がたまに見られるが、そもそも2000局打つことが常人には異常事態である。廃人適性も見ていると段階があって「俺はこんなにやった(2000局)」という人と「まだまだ自分はこの程度(10000局)」という人がいる。これはマウントを取りたいわけではなく素でそう思っているという意味合いだ。特に後者の人の廃人適性は物凄い。廃人することに苦しさをほとんど、あるいは全く感じず呼吸をするのと同じ感覚でできるような人達がいる。連珠とは話が変わるが、とあるオンラインゲームで一日でレベルをカンストさせる友人がいた。彼にどうやるのか話をきくと「経験値2倍のアイテムを購入して、20時間くらい狩り続ければすぐいける」と事もなげに言われてしまった。その場でポカンとしてしまったが、真の廃人とはこういうものである。連珠でも朝起きて外出する前にちょっと研究しようとして、気づいたら日が暮れていたという事例も聞いたことがある。廃人適性のある人はそうでない人より合計所要時間では多少遅れをとることもあるが、化け物じみた強さを手に入れてくることが常だ。

この記事を書く前は正直、この三つの中のどれか一つを持っていることくらい大して珍しいことではない、みんな当てはまるのでは?とさえ考えていたが、冷静に文字に起こしてみるとどうやら常軌を逸している。でもこういう人達は実在する。連珠では廃人適性の持ち主が多いような気がする。こういうことはよくあるんだよハハハ的なテンションで締めるつもりだったが、かえって異質性を浮き彫りにしてしまったかもしれない。