連珠雑記

連珠(競技五目並べ)に関する雑記。問題掲載、五目クエストの棋譜、公式戦振り返りなど。

2018年公式戦終了

先日の挑戦手合いで今年の公式戦がすべて終わりました。

 

手動集計なので間違っている可能性は多いにありますが、私の今年の公式戦の戦績は18勝7敗7分(勝ち点率21.5/32=0.671875)で勝率67%でした。

勝率自体はここ最近の平年並みというところでしょうか。ただ上位大会に出場することが多くなり、対局相手が強くなっているので全体としては自分自身も強くなっていると思います。

 

2018年の一年間は、連珠という対象を一つフィルターを通して見てきた感触があります。周りが見えなくなるほど前のめりになって取り組むわけでもなければ、惰性で打っているわけでもない。よくいえばニュートラルですが、悪くいうと連珠そのものに対する「熱」が下がっていたともいえます。最近はちょくちょく連珠が注目されるようになってきて、私自身のモチベーションの主軸が実戦で勝つことや局面の探究から連珠の普及へ大きくシフトしたことが大きいようです。実戦では自分を高めることに集中したつもりですが、その分局面の探究や勝利に対して一歩引いた目線で見てしまっていました。この辺りは挑戦手合いで露呈し、盤勝負ではいいところなく敗れました。ただ、中村新名人の熱に影響されたといいますか、恐らく7年ぶりくらいに自分の探究者としての熱の高まりを感じています。来年は今年よりも前のめりに連珠に取り組んでみようと思います。

三行ほどで終わらせるつもりが長くなってしまいました。それではみなさま良いお年を。

第4局簡単な振り返り

詳しくはまた後で書きますがとりあえず忘れないようにざっと感じたことを

 

前局の課題であった「自分なりに局面を追究する」、去年の祁观戦からの課題「自分が直感で切りそうな手もしっかり検討して必要なら拾い上げる」この二点についてはクリアしたと思います。結果だけ見ると2敗2分の惨殺なのですが、これだけを見ても奪取した去年より強くなっていると感じました。

 

一方で「一つの感情に支配されるとそこからの脱却が難しい」という課題が、前からうっすら感じてはいましたが露呈しました。具体的には今局は私に勝ちがあり、しかも普段なら簡単に勝っているだろうものでした。対局中は少しずつポイントを稼いでいると感じる一方で、ずっとなかなか勝てないという気持ちがありました。突然の大チャンス到来時には確かに違和感を持ちましたがその気分に支配され勝ちまで辿り着くことができませんでした。これは今後修正していきます。

 

名人位を失ったのは残念ですが、この時代局面の追究はパソコンの仕事、実戦での自分の役割はただ大きなミスをしないようにすることと感じていた中で局面の追究に意欲的に取り組めたのは本当によかったです。次も頑張ります。

 

四追い選手権

連珠にはタイムアタック式の詰め連珠選手権は今まであったでしょうか。ともかく来週四追い選手権があります。私は作問を担当しました。

 

難易度に不安を持たれる方、あるいは簡単すぎると思う方が出ると思うので予め私なりの目安を示しておきます。

 

連珠のルール及び四追いを理解して間もない方から、初段までの方が入り乱れたとして、平均点六割前後になるかなと意図して作りました。果たしてどうなるでしょうか。

 

持ち時間30分ということを踏まえると、「どの問題も解けないことはないが、時間とケアレスミスとの戦い」と思います。私はその期間対局をしていますが、出場される方の健闘を祈ります。

 

 

人間の判断を狂わせるもの~SOPAI杯八回戦 VS李小青~

SOPAI杯は全九回戦。泣いても笑っても残り二局で全てが決する。この日の朝は岡部さんが近づいてきて「優勝が見えてきたな」。そのときは「次勝ったら意識してみます」と答えた。その朝、七回戦の対局は今大会一番の僥倖としか言いようのない勝ち方。(以下参照) 流れは自分に来ているかもしれない。そわそわしながら次局を迎える。

 

renjuvarious.hatenablog.jp

李小青は中国の対局アプリ五林大会において六段を所有していて、その存在はこのアプリを利用している人間なら誰もが知るところ。現実の段位は五段だったか。中国は基本的には最高段位が六段であり、七段~九段というのは普及などで実績を上げた人に与えられるそうだ。最近日本に上海の5級の方がやってきて、高段者棋戦に出場して5割の成績を残している。一概には言えないが、体感として例えば中国で三段あればこちらでは名人戦リーグの中位~上位クラスという認識だ。四段~六段はもうよくわからず、大体自分より強いだろうと思って対局している。

 

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第1図 1235黒 李小青 4白 私(5A→8,11,14,A~C)

彼女は今大会寒星一本に絞ってきているようだった。私は大会前半に白6までを採用して勝っており、相手としても私がこの順を選ぶことは想定内だろう。ならば白4で変化するとか、提示を七題から八題に変えて意図を外しに行くという手はある。今大会の私のテーマの一つとして、自分の技術や研究が中国でどれほど通用するのかを確かめたいというのがあり、それを通した格好である。優勝が近づいてきたのだから路線変更していきなり勝ちにいくというのもアリではあるが、それはそういうテーマ、つまり目先の勝ち以外何でもいいものが出てきたときに発揮させようと保留した。黒15まではお互いにほぼノータイム。この進行自体前例では黒有利と見られており、白16が用意の手だった。相手が考慮に入る。

事前の練習では黒良さそうだが具体的な手段が難しい、くらいの漠然とした結論で、本譜17の剣先叩きは試されていなかった。要所なので30分くらいは使うかもしれないと思っていたら10分程での着手。どうやら相手は私と同じ感覚主体のプレイヤーのようだ。こちらも考え始めて脳内検討のスピード低下を自覚。あまり意識してはいなかったが、本格的に疲れているらしい。私の場合こういうときはパパっと打つほうが精度が高い。・・・ぱっと考え付く進行が白良くなさそうな上にそれ以外の手段が難しい。練習では白も結構やれると思っていたのだが・・・。実戦で本腰を入れて考えるのと練習でざっと打つのはやはり違う。このギャップは挑戦手合いでも痛感したところで、課題の一つだろう。

 

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第2図 白26まで

結局第一感の白18へ。以下白24までは想定通りで、黒25は単にAかと思っていた。その場合、例えば白B黒C以下、上辺のごちゃごちゃが複雑ではある。私なら20分くらいは考えそうだが、大して時間を使わず叩いてきたあたり相手も疲れているか。本譜なら白26が手順に入るので、黒A後の下辺をだいぶ受けやすい。

李小青は対局中の挙動が大きい。白26を読んでいなかったのか、それまではただ真剣な表情だったのが急に神妙な面持ちになり頭を抱えだし、終いにはわぁどうしようとでも声に出そうな顔つきだ。こちらも釣られてフワフワしだす。

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第3図 白44まで

急に多くの手が進んでしまい読者の方には申し訳ないが、対局が実際このくらいのペースで進行した。持ち時間90分の対局ではあるが、黒27~白43まで恐らく10分経たずに打ち進められ、白44も5分程度の考慮だった。黒37の時点でふと周りを見渡す。私の右前方は神谷君と陳新が両者微動だにしない熱戦を繰り広げている。手数も見た感じは10手ちょっと。再び自分の局面を見返して思わず苦笑する。相手も気づいたのか、一度同じ方向を見て苦笑した。そういえば以前にもこんなことがあった。2014年のチーム世界選手権で打った時だ。神谷君と同じチームで、私の対局は両者ポイポイ打ち進め50手超えで考慮中。神谷君のほうは両者同じ体勢で10手いくかどうかの局面を大長考合戦。対局相手はその局ごとに運次第だが、近い者同士が惹かれあうのかもしれない。

白38までは想定通りで、これで白受け切りだと思っていた。黒39~43に違和感があり、一気に良くなったかとソワソワ。白44の第一感はAだったが、ここまできて頓死したら嫌だなぁと躊躇してしまい、まあいいかと打った白44が大悪手。やはり白Aだった。いままで積み上げてきたものが崩れるかもしれない恐怖にどうも弱い。「疲れたとき、よくわからないときは第一感」という原則は私の敗戦譜を洗い直すと明らかで、自覚もあるのだが間違えてしまう。「人間は分かっていながら不合理な選択をする」とポーカーの木原さんがツイートしていたと記憶しているが、心に刺さった。

 

 

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第4図、黒53まで

黒45の考慮中に黒49に打たれたら嫌だなぁと思っていると、色々決めてはきたが黒49と打ってきた。目の前に現れてようやく自分の犯したミスの大きさが押し寄せてくる。あれほど変な失敗をしたくないという恐怖だけはあったのに。ここでかなり動揺してしまい、時間は40分ほどあったが受けを誤った。始めから悪いと思っていて読む分にはかなりの率で間違えないのだが、良いと思っていた、あるいは好転しつつあると思っていた状況が実はかなり悪かった、悪くなったと自覚すると正常な判断力を欠いてしまうらしい。ある程度は精神的な練習で克服できるのだろうが、人間である以上仕方ないのかもしれない。それよりは、より正確な形勢判断をできるよう練習するほうが賢明だろう。白50もAが第一感だったが、黒51が怖くなり外した。白50に黒Aしか考えておらず、黒51と打たれて受けが絶望的に難しくなった。ここでもまだ一応受けはあったようだが、本譜52の敗着を出してしまったのはやむを得ない。黒53以下完全な追い詰めだが、当時はここでもまだ受かるかもしれないと思っていたのだから判断力が死んでいる。

 

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第5図、黒59以下四追い勝ち

白54に黒55が妙フクミで、これでようやく負けを自覚した。この手は以下ABC or 56EGFの四追いを狙っている。二か所の四追いを同時に受けるにはDか56しかない。白56に黒57が決め手で、以下EHLIJKMの四追いだ。最後は上辺の剣先も活躍し、まるで作ったかのような詰み上がりになった。

 

本局の敗戦で優勝できないことがほぼ決定的になり、大会としては痛かった。この対局は私の弱いところが多く出てしまった。色々引き出せたという意味ではよかったので、この教訓を挑戦手合い第4局や来年の対局で活かしたい。

 

※ブログ執筆後にRIF公式の棋譜を見たところ、左右が反転していました。申し訳ございませんm(__)m

 

 

How to say ''you're welcome'' in Japanese?ーどういたしまして(๑╹ω╹๑)

先日のSOPAI杯で最も印象に残ったやりとりだ。汪清清ー私が人生で会った人のなかでも随一の積極性を持っていた。中国では現地の運営の方々をはじめとして、本当に色々な人達がよくしてくださったが、とりわけこの人は印象深いので忘れないうちに書いておこうと思う。

 

彼女の部屋は私と神谷君のとなりだった。恐らくこれは偶然ではなくて、彼女が大会での交流係やら世話係を担っていたからだと思われる。私とは中国に行く前からちょくちょく打ち合わせ?をし、現地の出迎えの手配からホテルでのWifi接続、観光案内や大会終了後のレクリエーションなど、何から何までしてくれたのは本当に凄い。それでいて大会も勝ちまくるのだから実にエネルギッシュだった。

部屋が隣だとよく会う。普通はじゃあまた明日、といって別れる。ところがこの人の場合は、我々が部屋に入ってあー疲れたなどと言っていると、気づくと横にいてうんうんそうだねと会話に入ってきていることが多かった。私の225倍ほど英語が堪能なので会話に困らなかったのも幸いした。(?)特に私との直接対決を終えてからは部屋で連珠の話をすることが多くなった。

 

「次、○○と当たるんだけど何提示したらいい?」

「なんかやりたいシュケイないの?」

「わからん!教えて!」

「このシュケイはこの白4で八題で・・・」

「五珠どこ!」

「こう打って・・・」

「ちょい待ち!忘れた!もっかい!」

(繰り返し並べながら覚えようとする、それを見て爆笑する私と神谷君)

「なにがそんなにおかしいんだ!」

「他にも白4いっぱいあるけどほんとに全部覚えられるの?もっと無難なのにしたほうがいいんじゃない?」

「私を信じろ!覚えられる!」(Trust me !! I can remember!!)

さながら試験前の一夜漬けのよう。このときのTrust me ほど信用ならないものは記憶にない。こんなやりとりを対局が終わる度にしていて、部屋では笑いが絶えなかった。ネタのようだが結構勝っているからすごい。ある対局では

「ここまでさっき並べた通りだったんだけど忘れちゃってめっちゃ考えた。怖いけどいっちゃえ!お、受けてくれた。ラッキー♪」

危ないところはちょくちょくある。なんかよく分からないけど勝っていた。「求めよ、されば与えられん」というのは本当なのかもしれない。彼女はダイレクトに求めていた。連珠は祈り。

 

日本語にも興味津々。朝は「オハヨー」夜は「オヤスミ」。徐々に語彙が増えていく。対局中のボヤキを逐一記憶しているようで、その中でも「ナンダコレー」はしきりに出てくる。どういたしましてはそうして覚えたものの一つだ。ただ日本語の中では言いにくい部類のようで

「あれ、何ていうんだっけ、あれ!」

「どういたしましてだよ」

「Oh・・・ドウイタシマシテ!(渾身ドヤ顔)」

新しく覚えたことは使って定着するとよく言うが、このやりとりは多分10回くらいしている。本人には、後20回くらい使えば覚えるよと。よくよく考えれば日常でどういたしましてという単語を耳にすることはあまりない。「いえいえ」くらいだろうか。この期間で一生分聞いたと思う。ドヤ顔しながら言うものではないんだけども・・・。彼女の影響力は凄いらしく、帰国してから連珠関係の中国人とやり取りする度「どういたしまして」と言われるようになった。恐るべし。

 

あるとき神谷岡部汪私で歩いていて

「Heyカミヤ、オカベとはどんな関係なんだ?」

「ウェイ・・・友達だ。」

「あぁん!?友達じゃないし」

「ともだちぃ~~?どんなぁ~~?(What kind of friends~~? Good friends~~? Deep friends~~?)」

岡部さんは即座に反発していたが、私が見た中では大会中一番うれしそうだったのが印象的だった。

 

 

 

 

ソフト研究と実戦の探究~SOPAI杯五回戦 VS汪清清~

連珠に限らず他のゲームにおいてもコンピュータソフトを用いた研究が盛んになっている。研究速度や精度が飛躍的に上昇した反面、実戦で戦っていると人間が技術的な進歩に追いついていないと感じることが多い。

 

汪清清は今回隣の部屋だった。慣れない中国の大会においてWIFIの接続から始まり様々な面で助けてもらった。彼女の明るく積極的な性格から生まれたエピソードは今回いくつかあるが、本稿では連珠の内容に集中しよう。

 

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第1図 1235黒:私 4白:相手 5A→A~F

私の名月提示に相手は白4を打ち七題提示としてきた。五珠の候補は色々あるが、この手に興味があったため本譜の5を提示した。白6は当然として黒7が研究手。この一年の私のテーマ図の一つだ。ソフトでの研究はそこそこ多くしてきたほうだが、実戦投入は本局が初である。連珠に限らず他ゲームでもそうだと思うが、モニター越しに見るのと実際の盤石を使って打つのでは景色が違う。またこれは実戦であるため、本格的な読みが入る。私の場合はモニター越しで研究していると、思いのほかソフトの評価値と盤面を眺めながら機械的にクリックを繰り返すだけになりがちだ。それゆえ自分の判断がほとんど入らないが、ソフトは強いので研究としては比較的高水準のものが出来上がる。この自分の判断量の少なさと、実際に出来上がる研究の質とのギャップが実戦の舞台においてはミスを生みやすい。研究のレベルに自分の棋力がついていかないということだ。こうして一度しっかりと向かい合うことによって、自分が何を見て、何を感じ、どう判断するかを知りたかった。それが答えの出ない研究で次へのステップとなる。

事前研究の段階で白8の時点から多くの選択肢があることは把握していた。研究では全く別の手を深く掘り下げていたが、実戦で眺めると白8が目に付いた。こう打たれたらどうするんだろう?そう感じて間もなく相手は白8を打ちおろす。どうやら呼吸が似ているらしい。ここが最初の勝負所である。考え始めてすぐに、この三を引いたほうに止めると水月千鳥から発生する別の手順に合流することに気が付いた。その手順は確かデータベースでは黒の勝率がかなり良い・・・。と、こういうことをすぐに考えてしまうから駄目なんだと思い直した。自分の頭で考えていない。いつからこういうことが多くなったのかは定かではないが、最近の私にそういう傾向があることは明らかである。第一、データベース通り黒が良くなるなら相手が短慮で打ってくるはずがない。どちらに止めるにせよ、読みを入れようと気持ちをリセットする。

 

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第2図、黒13まで

ざっと考えたところ、黒9で13から止めるのは三三禁絡みで非常に際どいことはわかった。それが実際にどうなっているかは別として、自分の疲労がたまってきていることと、一直線の読みが強い相手に生きるか死ぬかの勝負をすべきではないという判断をして逆止め。これにより白は速度、黒は空間で勝負という方針がはっきりした。黒の包囲を嫌うなら、白10は11に打ってくるものと思っていた。それは黒10の三ヒキから一直線の寄りがあるらしい。私は当時全く読めていなかったが、相手がそれを警戒したのか本譜の10に打ってきたのは幸いだった。

黒11~13は黒9を打つときの最初の読み筋。そのときは白14-Aがうるさそうだから黒13-Aと打って完封を狙うつもりだった。ところが黒11を打とうとした瞬間に黒13-Aが三三禁で負けることに気づき冷や汗。(参考図)再び本譜の13を読むと白Aに対して黒が盤面制圧できることがわかり、安心して打ち進めた。

 

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参考図 白30までX点三三禁

参考図のように打って三三禁、もしかしたらもっと簡単な詰みがあるかもしれない。実は第二局でこの順と部分的にほぼ同じ勝ち方をしており、それが打つ寸前の発見につながった。気づいてよかった。

 

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第3図 黒25まで

黒15~21がその手順。上下左右を黒が包囲し不敗の形勢を築いた。白14といい、白22、24などの粘り手順も私の考えていたものと同じで、本格的に感覚が近いのかもしれない。黒25はよほど変な場所に打たなければどこに打っても優勢で、黒としてはいかに勝ち切るかに集中できる局面になっている。本譜の黒25は盤面では狭い場所なのだが、打って損がないこと、仮に勝てなくても上辺や左辺に何かしら効きが残ることが期待できるお得ポイントだ。形勢は明らかにこちら優勢なこともあり、時間攻めと相手の対応を見るのを兼ねて早めに打ち進めた。汪清清は黒25の時点で1時間近く余していたにも関わらず、ここから残り5分になるまで長考。実戦的には有り難い。仮にこちらが最善を突けなくても相手のミスを期待しやすい状況である。この大会は連珠大会としては異例で、トイレとタバコ以外の離席は基本的に禁止されていた。他局の観戦が許可されている連珠では、私は相手の手番のときは歩き回ることが多い。今回はそれができないので、こちらも可能な限り相手の受けを読み切った。このルールは私にとって良いのかもしれない。強制されることでひたすら読みふけるスイッチが入る。ひとしきり読んで恐らく受け無しだろうという結論に辿りついた。こんなふうに相手の受け候補が多い状態から全ての変化を読み切ることは久しくなかった。達成感が大きい。

 

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第4図 黒35にて白投了

白26は受けの手段に窮したことを示す三ヒキ。黒は剣先を一本消されるものの、黒27で攻めがより強化されている。白28に黒29が手筋のミセ手。白30に以下四追い勝ちとなった。

 

今局は挑戦手合い以降の私の連珠に対する在り方を問い直す意味の強いものだった。これからまだまだ大きな失敗はあるだろうが、ひとまずこの対局を良い内容で終えられたのは自信になった。

 

もしも実戦で必勝手順を引かされたら~SOPAI杯七回戦 VS韦振强~

自由打ちの連珠には先手である黒に必勝手順が存在する。それを解決するために、序盤の打ち方に制限を設けようというのが現在のルールの思想だ。そういった性質からか、連珠は答えのある局面と答えのない局面が比較的はっきり分かれている。そして答えのある局面の大まかな特徴として、ドンピシャで正解を打ち切らないと相手に形勢が振れやすい。

 

中国に20日夜に到着。上海から車で3時間かっ飛ばし会場へ赴く。大会ルールは持ち時間90分+30秒フィッシャーという日本国内の名人戦リーグとほぼ同じものだ。対局は朝8時~夜10時半ほどまで、途中食事などの休憩はあるが基本的にはぶっ通しで行なわれる。

対局相手の彼とはネット上ではあるが古くからの仲である。ネット上ではImaycryというアカウントでその名を轟かせており、多くの連珠プレイヤーにはこちらのほうが馴染があるかもしれない。現実での対局は去年の世界選手権個人予選(いわゆるQT)が初で、そのときは私が勝利した。今局は私の提示番だ。私は今大会後半の提示珠型を名月に絞っていた。当然相手からも予想の範疇だろう。それでも好きな珠型で戦い抜ける喜びのほうが大きかった。

 

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(第1図、1235黒:私 4白:相手 7題提示)

彼は程なくして白4を打ち、七題を提示。意外だった。前日の対局で私は汪清清に同型で勝利していたからだ。そのときの黒5(i8)を外すことにして、図の七題を提示した。すぐに黒5とF以外の点が外され少考。心臓の鼓動が速まる。予感通り黒5が残された。いわゆる必勝定石策である。大体の場合、こうした作戦の背景として考えられるのは

①相手を格下と見て楽に勝とうとしている。

②たとえ必勝でも自分が非常に詳しいので嵌める自信を持っている。

③相手をはるか格上と見たヤケクソ突撃。

④何か新手が見つかった。

⑤単に知らなかった。

 

①③⑤はない。この手順は話題を集めている。何も知らないはずはない。とすると②か④。最も可能性が高そうなのは②。こういう作戦選択をするという印象は全くなかった。上手く心理を突かれたということか。高段者になってから必勝策をかけられることが極端に少なく油断していた。こんなことならもっとよく勉強しておくんだったなぁ。

 

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第2図 黒15まで

白12が分岐点。この形自体は渓月からも合流手順があるのだが、盤端関係が異なるため従来の手順では勝てなくなっている。その受けに対しては十分な勉強量があったが、案の定相手はそれを外してきた。必勝策というのは心理戦の面が強く、相手の研究の深そうな場所を回避していくのが基本戦術である。

黒13、15に関しては完全に忘却していた。こんなのはいくら読もうとしても90分程度で答えは出せないので感覚頼りだ。13はよくある急所の位置で、勝つならここだろうなという位置。14はほぼ必然で15は必勝手順御用達の桂馬理論というわけだ。とりあえずここまでを短時間で打ってしまって、相手の対応を聞いていく。

 

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第3図、白18まで

ふと見上げると相手は浮かない表情をしている。私は正しい道を歩んでいるのだろうか。大会三日目で疲労が蓄積している。もはやよく分からないので感覚と相手の表情だけが頼りである。白16なら感覚は勝てそう。黒17白18に対してA以下追い詰めだと思っていた。道のりは長かったがようやくゴールに辿りついたか・・・と安堵していると打った瞬間に受けに気づく。白B。黒が詰ましにいくと四四禁絡みの受けで容易に勝ちが消滅してしまう。かといって他に勝ち筋はない。相手は浮かない顔からいきなり笑顔になり白18。「ここに黒が打っていれば勝ちだったな」嬉しそうに言った。勝ちが消し飛んだことと屈託のない笑顔にむかっとしたが、そこにある盤面が絶対的な現実で途方に暮れた。まあ黒A白Bの交換自体は損ではなさそうだし打ってからリカバリーを考えるか・・・。

 

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第3図 黒21にて白投了

落胆しながら打った黒19に対して彼は満面の笑み。1分ほどで白20に打たれる・・・。白20??これは追い詰めではないか?相手は打ってなお気づいてはいなさそうだ。黒21が相手の剣先を叩きながらのフクミになっており受けがない。彼は21を見て少ししてから事態を察したようだ。笑みから以前の浮かない顔に戻っていく。これは連珠でよくあるフワフワ死という現象で、有利になったと思って気持ちがフワフワ~っとしたところで疑問手または敗着を打ってしまうものだ。局面の形勢が何から何まで彼の顔に書いてあったので、正直な人なのだろう。勝負とは難しい。

 

局後ロビーに行って二人で並べなおす。驚いたことに、彼は白4に対する五珠をほとんど知らなかったらしい。対局前に部屋で神谷君と話していて、まあ準備はされるだろうという読みだったが全くそうではなかった。今大会を通して事前に相手の対策を練ってきたように見えたのは八回戦の李小青戦だけだった。中国は局面の解析を専門とする解析家が多いが、実戦家とは完全に別動のようだ。実戦主体の人は大まかな研究をさらう程度であとは流れというのが多く見えた。国民性なのかもしれない。

 

結果的にとはいえ必勝を打たされたのは久しぶりで、長らく感じていなかったプレッシャーを今の自分が経験できたのは貴重な体験だった。